AR7030 ユーザーレポート Td


1.はじめに
 自宅に帰省しているときはBGM代わりにぼんやりとBCLしていることが多い。そんなとき、ラジオ代わりに気軽に受信できて音の良い受信機があればと思い、音の良さで定評のあるAR7030を購入しました。
 AR7030PLUSではなくスタンダードモデルのAR7030にした理由ですが、PLUSは多機能であるが故に操作が相当複雑になり十分に使えこなせないように思われたこと、ノイズブランカーとノッチフィルターは、今までほとんど使うことがなかったので不要と割り切ったこと、また、高性能メタルケースタイプの4.0kHzセラミックフィルタが実装されていませんが、AOR(UK)LTDのホームページで入手した選択度特性の仕様を見る限りその必要性を感じなかったこと等によります。
 実際にAR7030に入手してみて、音質は評判通りの明るくて癖のない聞きやすい音で満足しています。また、選択度についてもその期待が裏切られることはありませんでした。短波帯の5kHzセパレーションで並んでいる放送局を受信してみましたが、選択度をFilter-2の5.5kHzにすると近接放送局によるビート音は全く発生しませんし、また、60メーターバンドの密集地帯でも手動ECSS受信もしくはPBSを使用することでほとんどの場合混信妨害を除去できました。
 操作性については、慣れるのに二三日かかりましたが、慣れると案外と使いやすくできています。

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2.AR7030は進化したか
 PWR誌2000年度版のAOR(UK)LTDの広告によると"Click encoder"と"LCD"が改善されています。インターネットで購入の際に日本のAOR社に確認したところ「AOR(UK)LTDの広告にあるように改善品であるのでご安心下さい。」との回答がありました。
 ところで、私のAR7030のシリアルナンバーは102207でした。AOR社の言葉を信じていなかった訳ではないのですが、"Mechanical encoder"の不良問題はシリアルナンバー102050から対策されており、対策品であることが確認でき一安心しました。
 さて、KS氏が1998年のSORA200号に於いてAR7030の気になる点として5項目指摘されています。その点に関して今回購入したAR7030が改善されているかどうか調べてみました。

@リモートパッドで一部操作できない機能がある。
 この点は全く改善されていません。特にATT調整ができない点ですが、これはダイナミックレンジ性能に対するAORの自信の表れのように思います。
 +50dBを超えるような強信号が入感すると自動的にATTが入るようになっていますのでリモコンからATTを外したのかもしれません。
 蛇足ながら、ATTを-10dBにしたときほんの少し内部ノイズが大きくなりますが実用上無視できるレベルです。

Aヒスノイズがかなり気になる。
 聴感上の内部ノイズはNRD-545よりかなり少さく、IC-R8500と同じ程度であまり気になりません。プリアンプをオンにすると内部ノイズが少し大きくなりますが、それでも気になる程ではありません。AR7030の場合、ノイズの絶対値そのものが小さいというより音質自体がノイズの目立たない音質をしていると表現した方がより正確かもしれません。
 弱い信号を受信するときにプリアンプをオンにすると確実にS/N比が向上し聞きやすくなります。

BSメーターの振れが鈍い。
 この点は正反対に非常にスムーズでタイムラグもありません。70セグメント表示ですのでアナログSメーターに近い感覚です。

Cリモートパッドで任意の周波数ステップの設定ができるが、連続してステップさせると時々10Hzずれる。
 この点は全く改善されていません。これは単なるソフトのバグとは考え難く、明らかに最小ステップ周波数が2.655Hzであり、AM、NFMモードのときのステップ周波数が10.62Hzのためであると思います。リモートパッドだけではなくメインダイヤルつまみの操作においてもAMモードのときにある一定の間隔で表示が10Hz飛びます。

Dメインダイヤルの感覚が悪い。
 個人差かもしれませんがあまり気になりません。しかし、Cで述べたようにAMモードのときある一定の間隔で10Hz飛ぶこと、また、メインダイヤルのつまみがゴム製のすべり止めの付いたメインダイヤルに比べアルミ削り出しの金属製のためすべる感じがして感触が良いとは言えません。
 但し、すぐれたデザイン性と金属の削り出しというすぐれた質感のことを考慮すると私は許せる範囲かなと思います。

3.主観的性能評価
 すでにAR7030を持っておられる方も多く、また、今までに多くの方々に語り尽くされていますので今更評価記事というのも新鮮味が無いのですが、私なりにDSP受信機NRD-545との比較を中心に述べたいと思います。

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        エンコーダーとDSS部                        内部フィルター群

@感度
 短波帯の感度はプリアンプ・オンのときNRD-545とほぼ同等です。中波帯の感度はAR7030がSメーターで1から2良好です。長波は、40kHzのJJYがNRD-545はS1ですが、AR7030ではS5〜S7で強力に入感します。

A選択度
 フィルタは村田のセラミックフィルタが使用されています。メイン・フィルタの2.2kHzはメタルケースタイプの高性能タイプですが、4.0kHzと6.0kHzは6素子小型プラスチックケースタイプ、9.0kHzは4素子小型プラスチックケースタイプの低価格品が使用されています。
 AR7030のカタログ仕様では選択度は2.2kHz、5.5kHz、7kHz、10kHzとなっており、セラミックフィルタの規格とAR7030のカタログ仕様とでは2.2kHz以外の数字が合致しません。これはAR7030の仕様が実測値を用いているためです。
AR7030カタログ仕様 セラミックフィルタ規格(6dB帯域幅)
Filter-1 2.2kHz 2.2kHz
Filter-2 5.5kHz 4.0kHz
Filter-3 7.0kHz 6.0kHz
Filter-4 10.0kHz 9.0kHz
 AR7030では、選択度以外の他の仕様についても実測値を用いています。取り扱い説明書には仕様の項で「測定数値は標準生産品のものでかならずしも保証する値ではありません。」と明記されていますが、誤解を招く表示方法であると思います。少なくとも保証値を併記すべきであると思います。ほとんどの場合、日本のメーカーは仕様を保証値で表示しており単純に数字だけを比較すると日本のメーカーが非常に不利になります。
 AR7030は内部でDDS信号を発生させて自動的にフィルターの特性を測定し、6dB帯域幅、中心周波数、USB/LSBの注入搬送波周波数を自動的に決定しています。自動測定した値は下表の通りAR7030のLCDに表示されます。
 自動測定は下表からも明らかなように±4.2kHzの範囲しか測定していないようです。また、村田のカタログによると6素子セラミックフィルタの中心周波数許容差規格は±1kHzですから、実装されている製品はかなり優秀な周波数精度に入っていると言えます。

今回購入のAR7030が自動測定した通過帯域(kHz)
      20dB 6dB 6dB 20dB
Filter-1 -1.5 -1.2 1.2 1.5
Filter-2 -4.1 -3.3 3.2 3.9
Filter-3 -4.2 -3.8 4.2 4.2
Filter-4 -4.2 -4.2 4.2 4.2

 自動測定した6dB帯域幅を選択度表示としてAR7030のLCDに表示されたのが下表の値です。自動測定した上表の測定値より下表の選択度表示の方が少なく表示され、測定値と選択度表示が異なりますます。この点に関しての説明が取説には記載されておらず理解に苦しむところです。
 今回購入したAR7030の選択度は取説記載の表示範囲から見ると狭い方にずれており、良い音質で聞きたい私としては少しでも帯域幅の広いフィルタに当たった方が良かったのですが、そういう意味では当たりが悪かったようです。

取説記載の表示範囲 今回購入AR7030の表示
Filter-1 1.8 - 2.3kHz 2.1kHz
Filter-2 5.4 - 5.9kHz 5.1kHz
Filter-3 6.3 - 7.0kHz 6.3kHz
Filter-4 *7.5kHz 9.5kHz
(*Filter-4の7.5kHzは取説のミスプリントか?)

 Filter-1からFilter-4まで実際に受信した感じではNRD-545に一歩ゆずるもののすぐれた切れ味、つまり急峻なスカート特性をしています。
 IF増幅部の後部にもテイル・フィルタとして4.0kHzと9.0kHzの4素子セラミックフィルタが実装されています。つまり、IF増幅部の前と後にセラミックフィルタを2段使用することにより高性能フィルタ並みのすぐれた選択度を得ているものと思われます。
 特に、Filter-2の5.5kHzの選択度は聞きやすい最低限の音質を維持しながらも、上下±5kHzにある隣接放送局のビート音を全く生じませんので、短波放送を中波放送並の気楽さで受信できます。5.5kHzはちょうど音質と選択度のバランスがとれた短波放送受信に最適な帯域幅であると思います。
 混信が無ければ少しでも音の良いFilter-3の7.0kHzに選択度を切り換えて聞いています。Filter-3の7.0kHzにすると非常に自然な聞きやすい音質になります。この場合、隣接放送局のビート音を生じることがありますが、軽いビート混信程度であればPBSで取り除けます。
 WRTHやPWRではオプション(AR7030PLUSでは実装済み)の高性能タイプの4.0kHzフィルターの装着を奨めていますが、私はその必要性を全く感じません。もちろん、今以上に切れ味が良くなりサイドのかぶりも軽減されると思いますが、標準装備のフィルターのままでも特に不満を感じることはありませんでした。

B明瞭度
 音質の差が了解度に大きく影響するようです。かろうじて入感しているような放送局をいくつか受信してみたところ、NRD-545は硬い音質で耳に刺激的ですが、極限的な受信状況ではNRD-545の方が了解度が上でした。
 通常の受信ではAR7030の方が聞きやすい音質をしています。明瞭度の評価基準として、聞きやすい音質であることが条件であるとすれば、AR7030の方が優れた明瞭度をしていると思います。
 AR7030は低音と高音それぞれのトーンコントロールができるので、自分の好みの音質に調整できます。低音を目一杯絞り、高音を少し上げるとNRD-545に近い音質なります。低音だけを少し上げるとIC-R8500の音質に近づきます。

CAM同期検波
 AR7030のAM同期検波は一度同期が取れると同期が外れることはほとんどありません。しかし、同期を取るときに上か下に強い放送局があると、その強い放送局に引っ張られて同期してしまい目的の放送局に同期してくれません。その場合はマニュアル同期検波に切り換えなければなりませんが、何回かの複雑なボタン操作が必要で実用的ではありません。結局、そのような場合は、AMモードで受信するか、USBモードやLSBモードで受信することになってしまいます。
 また、混信を避けたいときに上側帯波と下側帯波を一発で切り替えることができません。PBSで上側帯波か下側帯波のどちらかにつまみを回して調整する必要があります。
 AM同期検波はNRD-545のECSSの方が確実に使いやすく、効果もはっきりと現れます。

Dダイナミックレンジ
 AR7030に長さ15メーターの逆Lアンテナを接続したとき、26MHzおよび29MHz付近でイメージ受信が認められました。但し、プリアンプをオフにすると発生しませんでした。また、アマチュア無線用のダイポールアンテナでも発生しませんでした。尚、NRD-545では、今までに外付けのプリアンプを接続しない限りイメージ受信を経験したことはありません。+50dBを超えるような超強力な放送局がひしめく41メーターバンドでは、NRD-545よりもAR7030の方が心持ちバンド全体のガサつきが少なく静かに聞こえるような感じがしました。

Eロッドアンテナ
 AR7030はロッドアンテナ受信用のインピーダンス変換プリアンプを内蔵しています。同軸コネクタのところに1〜2メーターの短いアンテナ線を接続するだけで受信できます。ちょっと場所を変えて居間などで聞きたいときなどポータブルラジオ的な使い方ができて便利です。

F操作性
 ある程度思い通りに使えこなせるようになるのに二三日かかりました。しかし、周波数、受信モード、選択度のセットという日常的に最も良く使用する操作は大変使いやすくできていると思います。
 メインダイヤルつまみの上のFASTボタンを押すと1kHzステップで早送りができますのですばやく周波数を切り替えることができます。また、同じくFASTボタンと並んでメインダイヤルつまみの上に二つあるMODEボタンで、AM同期−AM−USB-LSB−CW-DATA−NFMの各モードを往復で選択できます。一方向ではなく往復で選択できるのでとても使いやすく感じます。よく使う選択度切り替えのFILTERボタンもメインダイヤルつまみの最も近くに配置されています。
 このように、日常的によく使うボタンはメインダイヤルつまみの周りに配置されており、慣れてくればいちいちボタン位置を目で確認しなくても使えるようになっています。
 時計表示は周波数等と同時に表示が可能で、また、バッテリーバックアップされいます。電源コンセントを抜いても時間がリセットされませんのでとても重宝します。
 液晶表示は、字が小さいですがハイコントラストでバックライトが明るいので見やすいです。六畳程度の部屋であれば、部屋の反対側に離れても表示内容が読めます。また、リモコン操作も快適に行えます。

G異常動作
 21,560kHzを受信中、プリアンプとATTを入れたり切ったりしていたところLCDの表示がゆっくりと消えて音声が出なくなり、一切の操作が不可能になりました。電源もオフにできなくなりました。LCDのバックライトは点灯したままです。
 仕方ないのでACアダプターを電源コンセントから一旦抜いて、しばらくしてから再度電源を入れると正常にLCDが表示され音声がでてきました。そして再度プリアンプとATTを入れたり切ったりすると同じ現象が発生し操作ができなくなりました。
 こうした操作を4回程繰り返しているとこのような現象が急に発生しなくなりました。それ以降はプリアンプとATTの操作を行ってもこのような現象が発生しなくなりました。何らかの理由によりCPUが異常動作したようですが、信頼性に不安感を残すことになりました。

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4.結び
 AR7030はBCL用受信機として申し分のない性能を持っていることは間違いないと思います。選択度と音の良さは期待通りでした。特に、一日中聞いていても疲れない音質は特筆ものです。ヘッドホンはもちろんのこと、内部スピーカーでも十分聞きやすい音ですが、きちんとしたスピーカーボックスに入った外部スピーカーをつなぐと更に良い音で楽しむことができます。
 操作性については良い意味で期待を裏切って、「慣れれば」という条件付きながら、通常の受信操作で使用する頻度の高いボタンの配置がよく考えられており大変使いやすいと感じました。
 外観は大変綺麗な仕上がりです。内部のプリント配線板も非常にすっきりとまとまっています。ビニール線による内部配線もほとんど見あたらず完成度の高さがうかがえます。
 そして、ユニークなデザイン。アルミ材から削り出しの厚みが8ミリもある分厚いフロントパネル、アルミ押し出し材の頑丈なサイドパネル、厚み2ミリの上下のアルミカバー等、ケースは堅牢そのものです。プラスチック製のフロントパネルしか見あたらない最近の通信機器の中にあって大変好感が持てます。
 現在、BCL用にIC-R8500、NRD-545、AR7030を保有することになったわけですが、もし3台のうちどれが一番かと質問されると返答に困ることになります。
 それぞれに特徴と長所がありますので、DX受信は操作性と極限の了解度でNRD-545、BGM代わりのカジュアル受信には音の良さでAR7030、Eスポ受信や航空無線はVHF帯受信ができるIC-R8500というような感じで使い分けて行くことになると思います。


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