ICOM IC-R8600の使用感        update:2022/06/26

図1  IC-R8500とIC-R8600

1.はじめに

 長年使用してきたKENWOODのR-5000とICOMのIC-R8500(以下、8500と略す)も購入から20年ほど経過し、だいぶガタが目立つようになった。世の中はアナログ受信機からSDRに移行しているようで、現在、国産の入手可能な新品受信機はICOMのIC-R8600(以下8600と略す)のみとなってしまった。中古はあたりはずれが激しいので新品を購入することにした次第である。さて注文したところ、なかなか納品されずに困った。原因は電源付スピーカーユニットである。8600は電源アダプタが別売で、電源付スピーカーユニットかどちらかを選ぶようになっている。そこで本体とともに電源付スピーカーユニットを注文したところ、メーカー出荷前に不良個所が見つかり、出荷できない状態が続いたのである。注文してからおよそ1ヶ月後に、ようやくICOM和歌山から直送便で納品された。5月の初めに入手するはずだったものが6月上旬になり、まだ十分に動かしているわけではないが、使用感などについてレポートしたい。

2.外観など

 本体の大きさは、220(W)×90(H)×230(D)で、IC-R8500(以下、8500と略す)と比べ、横幅で約3/4、高さで約4/5、奥行きで約3/4となった。電源付スピーカーユニットSP-39ADを並べても10%ほど大きいだけである。奥行きが短くなった分、机の面積が広くなった。

 本体正面には4.3インチの液晶ディスプレイが置かれている。ツマミはメインダイヤルを含め4つあり、メインダイヤルのタッチは3段階に調整できる。初期設定ではダイヤルは固めで、細かいロータリースイッチのようにカチカチと動く感じに違和感を覚えたが、調整でスムーズに回るようになった。他のダイヤルはそれぞれA、B、Cと名前がつく。通常の回転で、Aはスキャンの一時停止時間を調整、Bは音声ボリューム、Cはメモリチャンネルの変更ができる。このダイヤルは押しボタンスイッチにもなっていて、押すと関連する機能のメニューが表示される。

 押しボタンスイッチは全部で17個ある。本体左側に、電源やタイマーがあり、右側にメモリ関連のスイッチがある。本体下部にはメニュー、ファンクション、スコープ、クイックメニューなどのキーが並ぶ。本体前面には、イヤホンジャック、USB、SDカードスロットがあり、8500にあった録音端子はなくなった。

 以前、AORのAR7030を使用したことがあるが、1つのダイヤルにいくつもの機能が詰め込まれていて、いつまで経っても慣れることがなかったが、今回はタッチパネルで行えるため、比較的わかりやすい。年寄りでもなんとかなりそうだ。

図2 液晶ディスプレイ画面表示

3.受信機能

 8600はSDR(Software Defined Radio)である。Perseusなどと同類であるが、パソコン処理の部分も本体に含まれている。そのため通常のアナログ波だけでなくディジタル波(D-STAR/APCO P25/NXDN/dPMR/国内DCR)も受信ができる。ディジタル波については、勉強不足でちんぷんかんぷんである。受信範囲は10kHz~3GHzで、超長波帯から受信できる点も購入時のポイントであった。30MHzまではダイレクトサンプリング方式、30~1100MHzはダブルスーパー、それ以上はトリプルスーパーである。カタログ上の比較では、短波帯は8500と同等、長波・中波帯でSSB/CWの感度が6dB良くなっている。WideFMも8500と同等である。選択度については、SSB/CWは通過帯域の設定を行うことができる。初期設定ではSSB:1.8kHz/2.4kHz/3.0kHz、CW:0.25kHz/0.5kHz/1.2kHzだが、0.05~3.6kHzの間で細かく調整が可能である。AMは3kHz/6lHz/9kHzが0.2~10kHzの間で調整できる。しかしFMとWFMは調整ができず、WFMは200kHzと8500に比べ帯域幅が広がっているのは残念である。

 受信周波数のダイレクト入力や受信モードなどは画面上のタッチパネルで行う。この点はわかりやすいが、LSBを選択するときは一度USBモードにしてさらに画面を長押ししないとLSBにならない。AM同期検波もあるが、これもUモードとLモードの切り替えに手間がかかる。これらはメモリ登録するときに設定しておけば面倒はないが、少々使いにくい。周波数ステップも画面上で1Hz/1kHz/1MHzは簡単に切り換えられる。このようにおおかたのことは画面タッチで処理が可能である。
 画面の下半分にはスペクトラムスコープが表示され、狭いけれどもウォーターフォールも表示される。受信周波数近傍の状況をつかむ上でこれは便利である。表示帯域幅は±2.5kHz~±2.5MHzまで可変できる。表示・非表示も選択できる。この画面にはFSK(Frequency Shift Keying)のデコード結果も表示でき、テキストはSDカードに記録することができる。SDカードは通常の受信音声も録音でき、本体上で再生もできる。

 これ以外の受信機能として、NotchフィルタやTwin PBT(Pass Band Tuning)などもあるが、まだ使う機会がない。

4.メモリ機能
 受信周波数などの情報を登録できるメモリは8600では2000チャンネルと、8500の800チャンネルに比べ2.5倍となった。Windowsのフォルダにあたるものを8600ではグループと呼び、これが100グループあり各グループには100チャンネル登録できる。しかし、全登録チャンネル数は2000を超えることはできない。これで困ったのが新たなチャンネル登録であった。ご丁寧にメモリのうちの1990チャンネルはメーカーで登録済みなのである。未登録のチャンネルがあるものの、結局は10チャンネルしか登録できないのだ。メーカーに問い合わせたところ、登録を消すしかないという。登録データは主にVHF帯のユーティリティ局(特に航空関係が多い)で、私はほとんど利用しないため、一つづつ消していった。せめてグループ単位で消去できる仕組みを作っておいて欲しかった。

 8500では登録したバンク(8500でグループのかわりに使われる名称)ごとに5文字、チャンネルでは8文字の名前を入れてメモリ内容の表示ができた。8500では英数・カナしか使えなかったが、8600ではグループ、チャンネルとも全角8文字(半角では16文字)の名前が登録できる。少々操作は不便だが漢字が使えるのはよい。

5.ふたをあけてみた
 新しい受信機を購入すると中がどうなっているのか気になるものである。8600のふたをあけてみた。上ぶたをあけるとスピーカーが中央に収まっていた。振動などのことも考慮したていねいな取り付け方で感心した。この下に基板が収まっている。こちらがマイコンなど操作に関係する基板であるように思われる。
 下ぶたをあけるとアルミの板で一面が覆われていた。どうやらここがSDRの心臓部のようだ。アルミ板をはずすと、フィルタのようなアルミのブロックがあちこちに見える。もはや素人はまったく手を出すことができないように感じた。

 
図3・4 上ぶたをあけたところ(左)と下ぶたをあけたところ

6.おわりに

 まだ、機能の2割ほどしか確認できていないが、周波数範囲が広く、受信モードも多岐にわたっているのはよい。これ1台ですべて対応できると考え、今までの受信機R-5000と8500は手放そうと考えていた。しかし、アナログ仕様の受信機を1台は残しておいた方がよいと考え、8500は手元に置いておくことにした。この8600が私のBCL人生の中での買い納めとなりそうである。


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