1.概要
MSFの送信地はAnthorn(北緯54°55'、西経3°15')で、24時間運用されている。
(以前はRugby(北緯52゜22’、西経1゜11’)であったが2007年に移転した)
送信周波数は、長波の60kHzで、周波数精度は2×10-12以内、出力は15kWとなっている。電波はイギリス全土だけでなく、北ヨーロッパや西ヨーロッパの国々でも受信できる。電界強度は、送信所から100kmの地点で10mV/m以上、1000kmの地点で100μV/m以上とされている。
MSFの吊称は、日本のJJYと同じく放送上のコールサインである。Mはイギリスのプリフィックスで、SFは局のIDだが、ウェブの中では推論と断わりつつ「Standard Frequency《という説を紹介している。
MSFの資金は通商産業省が出しており、技術的な管轄を国立物理研究所(NPL)が行ない、実際の送信はNPLと契約を結んでいるBabcock Internationaru社のAnthorn Radio局が行っている。
アンテナは、モノポールアンテナで、ビームパターンはほぼ無指向性である。
MSFの信号は、NPLが提供する原子時計とタイムコード機によって作られ、送信される。送信信号は、モニターされ、TeddingtonのNPLにある標準時間と比較、調整されている。
2.歴史的経過
国立物理研究所(National Physical Laboratory:NPL)の創立は1900年のことで、TeddingtonのBushy Houseの地である。(Bushy Houseとはロンドンの中心部から西北西に約18kmの場所である。)
NPLは計測分野において世界をリードし、国家一次標準の維持などに力を注いできた。1955年にはLouis Essenによりセシウム原子時計が開発され、2011年にはCsF2で知られる世界で最も精度のよいセシウム原子時計が開発された(その誤差は13.8億年に1秒)。
MSFが1950年に設立されたときには、60kHzだけでなく、2.5MHz、5MHz、10MHzの短波帯を使って、30分の運用を1日数回行っていた。この頃は、まだ分信号と秒信号だけであった。1953年5月には24時間運用となったが、他局の信号を受信するために5分間の停波時間があった。60kHzが24時間運用となるのは1966年のことである。
その後、1974年9月に、毎分の最初の秒信号の間に分と秒の情報が100bit/Sのデータとして付け加えられた。1976年11月には、それに月日データが追加された。現在のようなデータ形式になったのは、1998年10月のことである。
短波帯の3波が廃止されたのは、1988年2月のことであった。理由は、JJYと同様に、短波帯での利用がほとんどないためである。
3.日時コードフォーマット
日時コードは、下図のように、毎分00秒には分識別パルスが、01~59秒には、それぞれ2つのパルスxxAとxxBが入れられている。xxは各秒に相当する。パルスの極性は、0がON、1がOFFである。
01A~16A、17B~59Bは未使用である。01B~16BはDUTコードで、UTCとGMTとの差を100mS単位で±800mSまで表す。17A~24Aは年(西暦を下2桁で)を、25A~29Aは月を、30A~35Aは日を、36A~38Aは曜日(0が日曜日、6が土曜日)を、39A~44Aは時を、45A~51Aは分をBCDコードで表す。54B~57Bはパリティービットである。
コードのフォーマット
DUT1 | +の値 | DUT1 | -の値 | |
---|---|---|---|---|
0mS | '1'をセットしない | -0mS | '1'をセットしない | |
+100mS | 01Bを'1'にセット | -100mS | 09Bを'1'にセット | |
+200mS | 01B,02Bを'1'にセット | -200mS | 09B,10Bを'1'にセット | |
+300mS | 01B~03Bを'1'にセット | -300mS | 09B~11Bを'1'にセット | |
+400mS | 01B~04Bを'1'にセット | -400mS | 09B~12Bを'1'にセット | |
+500mS | 01B~05Bを'1'にセット | -500mS | 09B~13Bを'1'にセット | |
+600mS | 01B~06Bを'1'にセット | -600mS | 09B~14Bを'1'にセット | |
+700mS | 01B~07Bを'1'にセット | -700mS | 09B~15Bを'1'にセット | |
+800mS | 01B~08Bを'1'にセット | -800mS | 09B~16Bを'1'にセット |
年 BCD(2進化10進数)(00~99) | |||||||
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80 | 40 | 20 | 10 | 8 | 4 | 2 | 1 |
17A | 18A | 19A | 20A | 21A | 22A | 23A | 24A |
月 BCD(01~12) | 日 BCD(01~31) | 曜日 (0:日、6:土) | |||||||||||
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10 | 8 | 4 | 2 | 1 | 20 | 10 | 8 | 4 | 2 | 1 | 4 | 2 | 1 |
25A | 26A | 27A | 28A | 29A | 30A | 31A | 32A | 33A | 34A | 35A | 36A | 37A | 38A |
時 BCD(00~23) | 分 BCD(00~59) | 20 | 10 | 8 | 4 | 2 | 1 | 40 | 20 | 10 | 8 | 4 | 2 | 1 | 39A | 40A | 41A | 42A | 43A | 44A | 45A | 46A | 47A | 48A | 49A | 50A | 51A |
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例えば、2020年7月15日(水)9時23分 ならば 年は00100000 月は00111 日は010101 曜日は011 時は001001 分は0100011 となる。
【逸話的短文】
実はRugbyには、MSFの前にGBRという電信局があった。GBRは16kHzで、郵政省が管轄し1926年から全世界的なサービスを開始した。翌1927年12月19日に、GBRは王立天文台からの時間信号を送信するサービスを始めた。10時と18時GMTの2回、5分間の秒信号を送信した。GBRは1986年11月末をもって閉局となった。
【参考】