UPDATE: 2021.05.07

1.はじめに

 会報290号(2004年8月号)で、インドのATA局とメールによるコンタクトがとれたので、少しは情報が集まりそうだと期待を表明したが、その後の進展ははかばかしくなく、ATA局自体が停波しているとの情報を得た。ウェブページのリニューアルの時期とATA局の停波の時期がなんとなくしっくりいかず、結果的には疑問を多く残したままの掲載となっている。
 インドのDXクラブIndian DX Club Internationalの機関誌「Asian DX Review」Vol.39 No.559にSudipta Ghose氏が"ATA-The Indian Standard Frequency Time Signal Station"という論文を掲載していることを知り、入手した(以降、IDXCI論文と略す)。また、以前からWRTHへの時報局の掲載状況を調査しており、ATAの掲載状況を時系列で追ってみたので、これらをあわせ、追記することにした。

2.NPLのウェブページ・IDXCI論文から

ATAの建物の写真ATAの建物

 インドの標準時報局であるATAは国立物理研究所(National Physical Laboratory;以下NPLと略)の管轄下にある。NPLはインドの国立研究所の中で最も早 く建設された研究所で、1947年1月に、Shri Jawaharlal Nehruによって礎石が築かれた。初代所長はDr.K.S.Krishnanで、研究所の建物の正式オープンは1950年1月のことだった。
 ATAは1959年2月4日にニューデリーの地(Kalkaji, Greater Kailash[N28°33'36" E77°18'48")に開設された。当初は10MHz、2kWの出力で送信しており、アンテナは水平型フォールデッドダイポールアンテナを北東-南西方向に向けていた。1974年になるとNPLはセシウム時計を導入する。この時期には0330-1130UTCと8時間の運用をしていたようだ(開始時間がWRTHの記述あわないが)。
 ATAの秒信号は1kHzの信号を5サイクル送出する。つまり5mSのパルスということだ。分信号は60秒目に出され、1kHzの信号が100mS続く。これらの秒・分信号の間は変調波は休止する。音声および符号のアナウンスは毎時15分頃に出される。
 1976年に15MHz、8kWの送信機が増設され、翌年5MHz、8kWの送信機が増設された(これはWRTHの記述と合致する)。
 興味深いのは、1976年にNPLが「Seminar on Time & Frequency」を開催し、そこでAWRのWavescanのエディターであるDr.A.M.Peterson氏が発表している。タイトルは"The Usage of Chronohertz Signals by DXers, Shortwave Listeners & International Radio Monitors"である。このとき氏はATAのQSLカードをデザインしたというエピソードも添えられている。このQSLカードと思われるカードがIDXCIの論文にでていたので、以下に掲載する。

ATAのQSLカード

 ATAは、短波帯5、10、15MHzで標準電波を送信しており、出力は10kWである。標準信号はINSATという衛星システムによって2599.675MHzの周波数を使って結ばれている。標準電波は、インド標準時(IST)と1MHzの標準周波数を提供している。ISTの精度は±10μS、周波数の精度は±1×10E-10 である。標準電波のもとになる基準時間は4つのセシウム原子時計であり、精度は5×10E-12 である。

ATAの送信設備ATAの送信設備

 標準時報局の放送スケジュールの記述はウェブには見あたらず、私の手元にある1981年版の『DX年鑑』には、平日12:30~23:30JST、日祝日13:30~17:30というスケジュールが挙げられている。しかし1983年版の『DX年鑑』ではATAの記述がなくなっている。送信周波数については、NPLの歴史のページでは5、10、15MHzとなっているが、時間と周波数の標準というページでは、10MHzでの運用という記述になっている。また、JJYのウェブページでも10MHzのみとなっている(JJYのウェブページでは放送時間は24Hとなっている)。
 WRTHにATAが登場するのは1963年版からで、この時には「10000kc 2kW Mo-Fri 05.30-10.30」となっていた。1965年版では、放送時間が05.30-07.30に縮小されている。これは1968年版でまた元に戻り、1975年版で05.30-09.30となった。1976年版になると出力が5kWに増強されており、放送時間がW05.30-11.30と延長された。Wはウィークデイの意味である。この年の版からカルカッタのVWC局があわせて掲載されるようになる。1977年版では「10000/15000kHz 8kW W03.30-14.30」と15MHzが追加され、出力も増強された。放送時間も延長されている。1978年版ではさらに5MHzが追加されている。1980年版になると休日も放送されるようになる。日祝日は04.30-08.30の放送とある。1985年版では「5000kHz 8kW(1230-0330)、10000kHz 8kW(24H)、15000kHz 8kW(0330-1230)」と記述され、10MHzが24時間、5MHzと15MHzは交替放送されていることがわかる。以降、この記述が1997年まで続く(1995年版は時報局の記載自体がない)。2000年版と2001年版には10MHzのみの記載となるが、以降の記載はない。

ルビジウム周波数標準ルビジウム周波数標準

3.NPLからのメール

 久々に出したメールにCenter For Calibration and Testingという部署の責任者であるV.T.Chitnis氏から返事が届く。氏は名古屋大学に留学の経験があり、懇切丁寧に関連部署の所員を紹介してくれた。さて、次のメールはV.T.Chitnis氏の同僚からのものである。ATAはやはり停波していたのだ。

Dear Mr. OG,
 I am replying for the mail you sent to Dr. Chitnis. We had been operating the ATA time broadcast station till 1996. We have since started better and more accurate time services like one via satellite.
 We thus discontinued ATA transmission.

 これを読むと、1996年までATA局は送信していたが、その後、衛星によるサービスに取って代わられ、現在は停波しているようだ。8年前に止まっていただって! ウェブページでは今でも送信しているように記述があり、送信設備の写真が掲載されている。ウェブページの更新作業が全く行われていないのだ。リニューアルの時にチェックしないのだろうか。わけがわからない。
 ATAは、かつてはJJY、現在はBPMと送信周波数が同じため、日本では確認をすることが困難であるため、この所員の情報を信ずるしかすべがない。
 さて、ATAがいつ停波したかということだが、IDXCIの論文には明確な答えがない。論文によれば、1988年に衛星INSATによる時報信号が使われるようになった頃、ATAの送信機の不調が目立つようになり、熟考の末、機器を更新するのではなく、停波する決定をしたようだ。IDXCIのJ.Jacob氏がATAのスタッフから聞いた話では2000年頃に停波したとのことだ。はっきりした日付が欲しかった。

(注)写真はNPLのウェブページからのもの。http://www.nplindia.org/npl/index.htm
   QSLカードの写真はIDXCI論文からのもの

IDXCI論文は、https://idxci.in/wp-content/uploads/2021/05/ADXR-Volume-39-No-559-May-2021.pdf で入手できる。