戦後のアメリカの標準周波数報時局     2023.8.26
  (1)アメリカ~Arlington NAA
 
 NAA局は1913年の開設で、戦後は「第20冊(1947)」より記載が始まる。短波4波を使った送信が行われた。9425kHz(1:00/11:00/12:00/18:00をのぞく毎時0分の送信)、4390kHz(2:00/3:00/8:00/9:00/10:00)、12630kHz(2:00/3:00/8:00/9:00/10:00/14:00/15:00/16:00/20:00/21:00/22:00)、17370kHz(14:00/15:00/20:00/21:00/22:00)であった。「第21冊(1948)」と「第22冊(1949)」には17370kHz(0:00と22:00)のみが記載され、以後記載はなくなった。NAAは1941年に閉鎖という情報(*2)があるので、これらの記載についての真偽は定かでない。

(*2)Wikipedia(英語版)"NAA(Arlington,Virginia)"

 (2)アメリカ~Mare Island(Stockton) NPG

図1 サンフランシスコ近郊の地図

図2 WRTH1966年版の記載


  NPGはアメリカ海軍が管轄する局である。開設は1919年である。『理科年表』には「第20冊(1947)」から「第40冊(1967)」まで記載があった。周波数や送信時間が頻繁に変わるので、表1にまとめた。長波18.6kHzについては「第38冊(1965)」から「NPG/NLK」とあるが、送信地がJim Creekとなっているため、別扱いとした。WRTHには「WRTH1966」から「WRTH1980」まで記載があった。当初は長波114.9kHzも含め7波での送信だったが、「WRTH1980」では短波4波となった。この版での送信地はStocktonとなっている。Stockton送信所は1960年に開設され、当初はMare Islandと交替の予定であったが、Mare Islandが閉鎖される1966年までは並立して運用された(*3)。

表1 NPGの『理科年表』記載の変遷

図3 NPGのQSL

(*3)"US Naval Communications Station Stockton(NPG) - 1970s Rough & Ready Island CA" https://www.navy-radio.com/commsta/stockton.htm

 
 (3)アメリカ~Annapolis NSS
 
 NSS局の開設は1918年のことで、戦後は「第23冊(1950)から記載が始まる。12630kHzで毎偶数時に信号を発した。「第25冊(1952)」では、122kHz/4390kHz/9425kHz/12630kHz/17000kHzで毎偶数時送信となっている。「第29冊(1956)」では、121.95kHz/162kHz/4390kHz/9425kHz/12804kHz/17050kHz/22491kHzで4:00/10:00/16:00/22:00を除く毎偶数時となった。「第31冊(1958)」では長波がなくなった。再度の長波帯の使用は「第40冊(1967)」にあらわれる。21.4kHzで「長波標準電波」と記載された。記載は「第50冊(1977)」まであった。

 WRTHには「WRTH1966」より記載され、「WRTH1976」まで記載された(図2参照)。
 NSS局がいつまで標準電波の送信を続けたのかは定かでないが、衛星通信技術の進歩により1999年に閉鎖され、アンテナ塔も撤去されたとある(*4)。

図4 NSSのQSL

(*4)Wikipedia(英語版)"NSS Annnapolis"

 (4)アメリカ~Jim Creek NLK

図5 ジムクリークの地図

 NLK局は、シアトルの北約80kmの山中にあり、渓谷をまたぐようにアンテナが張られた送信所である。1953年に開設された潜水艦との交信を行う海軍の超長波送信施設である。20基の61m高のタワーがあり、出力は1200kWであった。「第50冊(1977)」には18.6kHzで信号を送出したとある。


図6 NLKのアンテナ
 
 (5)アメリカ~Beltsville(Fortcollins) WWV
 
     
   図7 ベルツビルの地図                              図8 フォートコリンズの地図


 WWVは、標準周波数信号の送出を目的に戦前にスタートしたが、さらに標準時間が目的に追加されたのは1944年6月であった。アメリカ海軍観測所(USNO)が提供する時間情報にWWVの時報信号の同期を認可した。1945年10月、局は毎5分ごとに電信符号中に時刻アナウンス(東部標準時)を加えた。1946年12月には、20MHz/25MHz/30MHzおよび35MHzの4つの新しい搬送周波数が加えられた。当時、局は7つの異なる周波数で終日放送されており、2.5MHzは午後9時から午前7時まで放送していた。時刻の音声アナウンスは、1950年1月1日に始まった。音声アナウンスは5分ごとに行われた。600Hzおよび440Hzの標準音は毎分交互に放送された。

 30MHzと35MHzの放送は1953年1月に中止され、25MHzの放送は1977年に中止された。1977年~1978年の約2年の中断を除き、20MHzの放送は現在まで続いている。地球物理学の警告メッセージは1957年7月に始まった。また水晶発振器の技術の改善とともに、1958年までに、送信周波数のコントロールは、国家規格の2×10-10以内に維持された。


図9 フォートコリンズのWWVの建物

 1955年から1958年まで、WWVは原子秒の定義に重要な役割を果たした。この期間中に、アメリカワシントンの海軍天文台(USNO)と英国テディントンの国立物理学研究所(NPL)は、WWVから放送された信号を同時に測定した。USNOは信号を天文観測時(UT2)と比較した。また、NPLは信号をちょうど開発した新しいセシウム基準と比較した。彼らが集めたデータは、後にセシウム原子の9,192,631,770周期を1秒の時間として定義する原子秒へと導いた。

 年、月、日および正確な時刻を含む実験のタイム・コードは、1960年4月に始まり、1961年1月に通常の放送の一部になった。NASA36ビット・コードとして知られるこのタイム・コードは、1000Hzの変調を使用し、100Hzのパルス間隔で作られた。1Hzのパルス間隔と100Hzの変調の使用は、1971年7月1日に始められた。新しいコードは夏時間(DST)の信号を含み、電信のタイム・コードはこの日削除された。

 1966年にWWVは、コロラド州Fortcollinsの現在地に移転した。1966年12月1日00:00に、メリーランド州Greenbeltの局は停波し、同時にFortcollinsの新しい局が放送を開始した。現在の場所は、時間と周波数の国家規格が維持されているBoulderのNIST研究所から約80km離れている。研究所に近いことや送信所で原子発振器が使えることが、送信周波数の精度を2×10-11以内に向上させた。現在、局の周波数は10-13のオーダー以内にコントロールされている。

 1967年4月に、WWVは現地時間の代わりにグリニッジ標準時(GMT)を放送し始めた。また、1974年1月には協定世界時(UTC)を使用する現在のフォーマットを始めた。時刻アナウンスは、1971年7月1日から、5分ごととなり、現在は毎分ごとに行なわれている。この日からディジタル・タイム・コードが現在のフォームに加えられた。局は1972年6月に、史上初の「閏秒」を放送した。1991年8月13日、WWVはディジタル化され、半導体メモリに記憶された録音音声を放送し始めた。ドン・エリオット・ヘルドの声は、時刻アナウンスが1950年に始まった時のWWVのオリジナルの音声だったが、このディジタル化を機に変えられた。

 WWVの放送フォーマットは、標準の搬送波周波数、標準の可聴周波数、時間間隔、音声による時刻アナウンス、2進化10進(BCD)による時間コードおよび公式のアナウンスから構成される。標準の搬送波周波数以外はすべて可聴周波数域にある。WWVとハワイのWWVHは同一のBCD時間コードを放送する。

①音声時刻アナウンス
 WWVの音声時刻アナウンスには、男性の声が使われていて、毎分の約7秒前から始まる。0725UTCの音声時刻アナウンスの例を示す:
 At the tone: seven hours, twenty five minutes, coordinated universal time.
 このアナウンスに短い1000Hzのトーンが続く。
 同じ男性の声を使っている局の識別メッセージは次の通りである:
 National Institute of Standards and Technology time: this is Radio Station WWV, Fort Collins Colorado, broadcasting on internationally allocated standard carrier frequencies of two-point-five, five, ten, fifteen, and twenty megahertz, providing time of day, standard time interval, and other related information. Inquiries regarding these transmissions may be directed to the National Institute of Standards and Technology, Radio Station WWV, 2000 East County Road 58, Fort Collins, Colorado, 80524.
 WWVの局のIDアナウンスは約35秒続き、毎時間の最初と30分に始まる。

②標準の時間間隔
 秒:1000Hzトーンの短音でほとんどは長さ5msである。これらのパルス音は、29番目と59番目が省略される。それぞれの分が始まるところの秒はより長いトーンで示される。
 分:毎時間の最初を除くすべての分は1000Hzトーンの長さ800msの短音である。
 時間:すべての時間は1500Hzトーンの長さ800msの短音である。また440Hzトーンは、WWVの2分目およびWWVHの1分目に、1日の最初の1時間を除いてそれぞれ1度放送される。
 日:これは正式な日の指標ではなく、上記に示された440Hzトーンが、1日の最初の1時間の間は除かれるということである。

図10 WWVの送信スケジュール

③標準の可聴周波数
 WWVは、搬送波の周波数に加えて、すべての時間の分の間に標準の可聴周波数も放送する。500Hzおよび600Hzのトーンは、分の交互に放送され、440Hzトーンは日の最初の1時間を除いて1時間ごとに1回放送される。トーンは、それらの割り当てられた分の最初の45秒の間、放送に挿入されるが、無音期間と時間を示す音声アナウンスがそれに続く。秒パルスはしばらくトーンを中断する。個々のパルスには10msの無音が先行し、パルスの後25msの無音が続く。トーン変調がない、より長い無音の期間が、毎時間に数分ある。しかし、搬送波の周波数、秒パルス、時間アナウンスおよびBCD時間コードは、これらの期間の間も続く。WWVの無音期間の目的は、WWVHの放送の音声アナウンスへの干渉を防止するためである。他局が音声メッセージを放送している間は、もう一方の局は通常音声の放送を行わない。WWVの無音期間は、43分~52分と29分と59分にある。

④100Hz時刻コード
 WWVとWWVHは、100Hz副搬送波で同一の時刻コードを放送する。さらに、100Hzの周波数は基準の周波数として使用可能である。時刻コードは2進化10進法(BCD)の書式である。それは4ビットで1桁の10進数を表している。2進-10進の重みは1-2-4-8であらわされ、最下位の数字から最初に送信される。WWVとWWVHの時刻コードは、修正されたIRIG-Hコードであらわされる。IRIGコードとは、タイムコードの標準化の1つであり、そのコードにはA、B、D、E、G、Hの書式がある。WWV・WWVHではこのうちのH112という書式を使用している。

図11 WWVのコードフォーマット

 標準のIRIG-Hの書式では、ビットは100Hzまたは1000Hzの搬送波で1pps(pulse per second)のレートで、振幅変調で送られる。2進の「0」は100Hzの変調の期間が200mSのパルスから成り、2進の「1」は、500msの期間のパルスから成る。位置を示すビットは800msの期間である。個々のパルスの先頭のポジティブエッジは、それぞれの秒のはじまりにある。振幅の高低比は、3.3:1である。

 しかしWWV・WWVH放送では、秒クリック音が聞かれるように、100Hzのトーンが抑制されており、このためWWV・WWVH時刻コードでは、2進の「0」は170msの長さであり、2進の「1」は470msの長さとなっている。また、位置を示すマーカーは770msの期間である。個々のパルスの先頭のエッジは、その秒のはじめの30ms後にある。

 個々のWWV・WWVHの時刻コードフレームの送信には1分かかる。フレームには、その年の下2桁、1年の第何日目、時間と分、UT1訂正だけでなく、夏時間と標準時の情報、うるう秒表示、様々な識別や位置を示すマーカーのビットを含む。年(00~99)、時間(00~23)および分(00~59)は、2桁のBCDを使って表現される。1年の第何日目(001~366)は、3桁のBCDを必要とする。秒は、フレーム内のパルスを計数することによって決定できる。

図12 WWVのQSL

 現在WWVは、2.5MHz/5MHz/10MHz/15MHz/20MHzで連続的に放送している。通常の放射電力は、5MHz/10MHz/15MHzが10kW、2.5MHzと20MHzが2.5kWである。主送信機やアンテナの修理・メンテナンスの期間に生じる予備状態での運用中は、すべての周波数で2.5kWとなる。

Web: https://www.nist.gov/time-distribution/radio-station-wwv
Email: nist.radio@boulder.nist.gov
住所: NIST Radio Stations WWV, 2000 East Country Road 58, Fort Collins,CO 80524-9499, U.S.A.


 (6)アメリカ~Fortcollins WWVL
 
図13 WRTH1963年版の記載

 WWVLは、NBSが運用した超長波の実験局で、1960年4月~1972年7月まで運用された。WWVL局の登場は「WRTH1963」からである。20kHz連続運用と毎時20分ごとにモールスによる局名告知があることが記載されている。1963年に出力を増強する予定も書かれている。

 1956年にコロラド州Boulderで運用を始めたWWVB局が、1960年にSunsetに移転したのを機にWWVL局の実験が開始された。Fourmileの渓谷をまたぐ長さ1036mのアンテナを設置したが、このサイズのアンテナでさえも1/4波長には足りず、8kWの送信機を使ったのに放射出力はわずか14Wだった(効率0.18%)という。

図14 WWVLのアンテナ

 1962年にはコロラド州Fortcollinsに390エーカーの土地を求め、ここにWWVBとWWVLを設置した。1963年7月にWWVBの運用が60kHz、7kWで開始され、1963年8月にWWVLは20kHz、500Wで運用が始まった。WWVBとWWVLの送信所建物は共用で、アンテナは北側にWWVL用が、南側にWWVB用があった。1966年にはWWVLのアンテナの出力が2kWとなる。当時のアンテナの放射効率はWWVBが24.6%、WWVLが2.2%だった。

図15 WWVLとWWVBのアンテナ

 1969年11月4日から、WWVLは20kHzと19.9kHz、20.9kHzの3つの周波数を10秒ごとに移動するという運用を開始した。この頃にはすでにVLF局を利用するメリットはなくなっており、NBSもそのための資金投入をしないことをすでに決めていた。そうした状況の中で、WWVLが存在する帯域を確保するために、ここで時分割方式の多重周波数概念を利用したVLFの時間同期機能を研究することにしたのである。1972年1月1日より、WWVLの運用は断続的となり、同年7月1日、完全に停波した。アンテナ設備はWWVBが受けついだ。

 WWVLはなぜ実験を中止したのか。1968年に、VLFで全世界をカバーする計画が廃止され、NBSはこの分野への資金提供をやめることを決めた。この原因は通信衛星の出現である。衛星の信号は省電力で地球の広範囲をカバーでき、信号の経路も非常に安定している。大出力のVLF局による電波航法は時代から取り残されたのであった。

①WWVLの設備
 WWVLのアンテナはWWVBと同型で、122m高の4本柱に573mの線を架したトップロード・ダイポールである。アンテナ中央から出ている引き込み線は、直下にあるヘリックスハウスに入り、埋設されたケーブルで送信所建物に至る。ヘリックスハウスの構成図を図3E-25に示す。1/4波長に満たないアンテナ線の容量分を打ち消すためのインダクタとバリオメータ(可変インダクタ)で構成される。送信機はWWVBと同じモデルAN/FRT-6である。
 WWVLから送信された信号は、100マイル離れたボールダーで受信され、ここで周波数標準と位相が比較され、その差の信号がボールダーから50MHzFM送信機でWWVLに送られ、位相制御がなされるようになっていた。

図16 ヘリックスハウスの構成

②WWVLの送信フォーマット
 WWVLの周波数と時刻の精度は周波数が2×10-11、時刻が一日あたり1×10-11である。
 WWVLは秒信号の送出を行わず、無変調の搬送波のみの送出である。1966年の資料(*5)によれば、毎時01分、21分、41分にモールスによるコールサインと周波数オフセットの記号が3回発せられるとある(図3E-26)。「WRTH1964」でもそのような記述がみられる。しかし、1970年の出版物(*6)では、IDはないという記述になっており、「WRTH1969」になるとIDはないと変わっている。当初は局名をモールスで打っていたが、その後なくなったようだ。これは先に述べた1969年の3周波数の変移へと移行したことによるものと思われる。

図17 タイムテーブル(WWVLの欄に3回のアナウンスが書かれている)

 WWVLの搬送波は、20kHz、19.9kHz、20.9kHzの3つの周波数を10秒ごとに移動する。1970年の資料では「alternating frequency every 10 seconds」と周波数の移動を示しているが、これ以上の詳細は書かれていない。具体的な内容が記載されるのは1972年の資料(*7)からである。WRTHには周波数移動順番の解説があるが、「WRTH1969」では20kHz→19.9kHzを繰り返すとあり、{WRTH1972」では20kHz→20.9kHz→20kHz→19.9kHz→20kHzとある。20kHzを中心として、上下に移動するように読み取れる。

図18 WWVLのQSL(部分)

(*5)『NBS STANDARD FREQUENCY AND TIME SERVICE Radio Stations WWV WWVH WWVB WWVL』U.S.Department of Commerce, National Bureau of Standards/ Miscellaneous Publication 236 * 1966 Edition
(*6)『NBS STANDARD FREQUENCY AND TIME SERVICE Radio Stations WWV WWVH WWVB WWVL』U.S.Department of Commerce, National Bureau of Standards/ Miscellaneous Publication 236 * 1970 Edition
(*7)『NBS STANDARD FREQUENCY AND TIME SERVICE Radio Stations WWV WWVH WWVB WWVL』U.S.Department of Commerce, National Bureau of Standards/ Miscellaneous Publication 236 * 1972 Edition


 (7)アメリカ~Fortcollins WWVB
 
図19 KK2XEI局のアンテナ

 WWVBは1956年7月にラジオ放送局KK2XEIとして運用を始めた。この実験局は、コロラドのボールダー(Boulder)から平日の15:30から20:00まで運用された。60kHzの連続波信号は、20分ごとに送られるコール・サインの他は無変調であった。実効放射電力(ERP)は初めは40Wであると言われていたが、その後1.4Wに減らされた。1957年1月のデータによると、この放送の周波数は隣接したボールダー研究所の国家規格2~3×10-10以内にあり、長波送信がWWVやWWVHよりもはるかに安定であることを示していた。

図20 WWVBの局舎

 1965年7月1日にタイム・コードがWWVBに加えられた。これは信号を解読し、時刻を自分自身で自動的に回復することができる電波時計の設計を可能にした。タイム・コード・フォーマットは1965年以来ほとんど変わっていない。

 WWVBの出力増加は1997年12月までに行われ、ERPは約25kWに増加された。1999年8月5日にすべてが更新され、新しいWWVBは同じ60kHzの信号を同期的に放送する2本のアンテナと2台の最新の送信機で構成された。これがERPを50kWに増加させ、前の改良時より4倍以上のパワーをもたらした。

 WWVBの送信機は、コンチネンタル・エレクトロニクス社の型番218Bで、これはAN/FRT-72という軍用名称でも知られている。これらは1960年代中頃に作られ、世界中の様々な海軍の通信局に設置されたものである。現在、3台のAN/FRT-72送信機がWWVBに設置されている。

図21 AN/FRT-72A送信機

 WWVBの2つのアンテナは、送信機ビルの北西から南東へと設置されている。それぞれ南アンテナと北アンテナと呼ばれている。2つのトップロード・単極アンテナはほとんど同一だが、北アンテナは元々20kHzのWWVLの放送のために使われていたものである。アンテナ群は、1962~63年に設置された。菱形に配置された4つのタワーは、南アンテナのタワー2を除くすべてのタワーの高さは400フィート(122m)あり、タワー2の基礎は他のタワーより低い海抜にあるため、高さは415フィート(126.5m)ある。

図22 WWVBの2つのアンテナ

 WWVBは60kHzで持続的に放送され、通常の出力電力は50kWである。
 WWVBの放送フォーマットは、60kHzの標準搬送周波数と2進化10進(BCD)時間コードから成る。

図23 WWVBのコードフォーマット

 WWVBの時間コードには、世界標準時の分、時間、年間通算日、2桁の現在の年が関係しており、またUT1訂正だけでなく、夏時間の情報とうるう秒のビットもある。標準時間の秒と十秒ごとの秒、分も送られる。WWVBの時間コードはWWV/WWVH時間コードとたいへん似ているが、重要な違いがある。WWVBの時間コードにおいては、個々のパルスの下降またはマイナスへ向かうエッジがそれぞれの秒の最初を示す。このマイナスに向かうエッジは、時々オンタイムマーカーまたはOTMと呼ばれる。また、両方のコードはBCDコードだが、WWVBのコードには8-4-2-1の重みづけがなされている。最上位の数字が最初に送られる。WWV・WWVHの時間コードと異なり、WWVBの時間コードにはうるう年情報が含まれる。
 WWVBの時間コードを図23に示す。それぞれの時間コードフレームを送るためには1分を要する。それぞれの分の始まりは、0秒と59秒の2つの隣合わせの800msのポジションマーカーから成るフレーム参照マーカーによって示される。分は1~3ビット目と5~8ビット目に表される。時間は12と13ビットおよび15~18ビット目に送られる。年間通算日の表示には3桁の10進数が使われるので、3桁のBCDが必要である。22と23ビット、25~28ビットおよび30~33ビットである。現在の年のための最後の2桁は、45~48ビットと50~53ビットが放送される。ポジションマーカーは 10秒ごとに送られる( 9秒目の終わりに)。

 UT1訂正情報は2桁のBCDで放送される。36~38ビットまではUTCの訂正が正であるか負であるかを示す。もし1がビット36と38に送られるならば正であり、ビット37が1ならば負である。訂正の量(1秒の1/10)は、40~43ビットに送られる。4ビットが使われるので、-0.9秒~+0.9秒まで、WWVBはUT1訂正範囲を放送することができる。
 56ビット目にうるう秒の警告ビットが示される。もしビット56がオンならば、現在の月の終わりにUTCにうるう秒が追加されることを示す(うるう秒は6月または12月の終わりにだけ挿入される)。ビット56は月の初め頃に設定され、うるう秒が起こった後には直ちに0に更新される。

 うるう年はビット55で示される。もしその年がうるう年であるなら、それは2月29日の前、通常1月中に、1がビット55に送られる。この機能は、その年の最終日が366日であるように、年間通算日カウンターに1日を追加する。翌年の1月1日に、ビット55は0にセットされる。

 WWVBの時間コードのビット57と58には、夏時間(DST)と標準時(ST)が表示される。標準時の間は、両方のビットは0に設定される。DSTへの日切り換えは標準時の00:00に行われ、ビット57は1に設定される。ビット58は翌日の00:00に1に設定される。

 標準の時間間隔もWWVBでは放送される。上記に示したフレーム参照マーカーは、1分の始まりを示す。毎10秒ごとの秒はポジションマーカーで示される。その他の秒については、カウンティングパルスで示される。

図24 WWVBのQSL

Web: https://www.nist.gov/pml/time-and-frequency-division/time-distribution/radio-station-wwvb
住所・Email:WWVに同じ



【図の出典】
図1 サンフランシスコ近郊の地図 筆者作成
図2 WRTH1966年版の記載 WRTH.pdf
図3 NPG局のQSL https://www.navy-radio.com/qsl/qsl-NPG-68.jpg
図4 NSS局のQSL
図5 Jim Creekの地図 筆者作成
図6 NLK局のアンテナ Wikipedia(英語版)"Jim Creek Naval Radio Station"
図7 Beltsvilleの地図 筆者作成
図8 Fort Collinsの地図 筆者作成
図9 FortcollinsのWWVの建物 "NIST Time and Frequency Radio Stations:WWV,WWVH,and WWVB"より
図10 WWVの送信スケジュール"同上
図11 WWV局のコードフォーマット"同上
図12 WWVのQSL 筆者所有
図13 WRTH1963年版の記載 WRTH.pdf
図14 WWVLのアンテナ "WWVB:A Half Century of Delivering Accurate Frequency and Time by Radio", M.A.Lombardi,G.K.Nelson, NIST Journal of Research 119,2014
図15 WWVLとWWVBのアンテナ Google Mapの画像に筆写が加筆
図16 ヘリックスハウスの構成 "WWVB Improvements: New Power from an Old Timer", M.Deutch,Dr.P.Hansen,B.Hopkins,etc.
図18 タイムテーブル "NBS STANDARD FREQUENCY AND TIME SERVICE Radio Stations WWV WWVH WWVB WWVL", U.S.Department of Commerce, National Bureau of Standards/ Miscellaneous Publication 236 * 1966Edition
図18 WWVLのQSL(一部) NISTのウェブサイト
図19 KK2XEI局のアンテナ "WWVB:A Half Century of Delivering Accurate Frequency and Time by Radio",M.A.Lombardi,G.K.Nelson, NIST Journal of Research V119, 2014
図20 WWVBの局舎 同上
図21 AN/FRT-72A送信機 https://www.navy-radio.com/commsta/bouk/bouk-pag-04.jpg
図22 WWVBの2つのアンテナ 図9に同じ
図23 WWVBのコードフォーマット 同上
図24 WWVBのQSL https://www.hfunderground.com/board/index.php?topic=58034.0


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