戦後のオーストラリアの標準周波数報時局     2023.8.29
  (1)オーストラリア~Belconnen VHP

図1 キャンベラの地図

図2 WRTH1966年版の記載


  1939年に開設されたVHP局は、オーストラリアの首都Canberraの郊外に位置するオーストラリア海軍が管轄する局である。潜水艦との交信を目的に44kHz、200kW送信機が設置され、短波帯の3つの送信機(20kW×2、10kW×1)が設置された(*1)。600フィート(183m)高の3基のアンテナ塔が設置され、VHP局は当時、南半球最大の無線局といわれた。

図3 Belconnenn送信所

 『理科年表』には「第25冊(1952)」から記載がはじまった。最初は長波の記載はなかったが、「第26冊(1953)」から長波と短波が使用されるようになった。0:30に44kHz/8430kHz/16410kHz/20440kHzが、10:30に44kHz/8430kHz/12170kHz/16410kHzが、15:00と19:00に8430kHz/12170kHzで送信された。「第31冊(1958)」からは長波の記載がなくなった。「第33冊(1960)」と翌年版にVIXというコールサインの局が併記されている。これはSydneyの局であり、別に述べる。VHP局は「第43冊(1970)」まで記載があった。

 WRTHでは「WRTH1966」から記載が始まる。ここではVHPとVIXで同じ周波数をシェアしているとある。信号は44kHzが火曜・木曜を除く0:25~0:30、8478kHzが0:25~0:30、7:55~8:00、13:55~14:00、19:55~20:00であった。「WRTH1967」では短波帯が増波され5波となる。「WRTH1968」では長波送信がなくなった。WRTHも1970年版以降は記載がなくなった。

 「WRTH1966」では、宛先が"Commonwealth Observatory"となっている。この天文台はCanberra郊外にある天文台で、1924年に太陽観測所として開所した。1950年に天文台となり、1957年にMount Stromlo Observatoryとなる。2003年に付近の山火事で建物や設備が消失するという被害を受けたが、その後再建された。

 VHP局は、1995年9月に長波44kHzが停波した。北西オーストラリアにあるHarold E.Holt局に業務移管したためである。その翌年、1996年4月にはすべての業務が停止した。

(*1)参考にした"Belconnnen Naval Wireless Station and HMAS Harman 1939-1996",R.A.Reed では200kWとなっているが、"Belconnen Naval Radio Station"(https://www.qsl.net/vk1kfr/BNRS/BNRS.htm)では250kWとなっている。「WRTH1967」も200kWなので、ここでは200kWとした。

 
 (2)オーストラリア~Sydney VIX
 
図4 シドニーの地図

  戦前SydneyにはVIS局があり、La Perouseの地で運用していた。この局は戦後1950年代にDoonsideに移設されているので、ここがVIX局の送信地と考えられる。「WRTH1966」から「WRTH1970」まで記述があり、運用のすべては前述のVHP局と同じなので、ここでは繰り返さない。Doonsideの業務は1990年代にBrisbaneに移設された。報時業務がいつ終了したかはわからない。

 (3)オーストラリア~Lyndhurst・Llandilo VNG
 
図5 メルボルンの地図

図6 WRTH1966年版の記載

VNGは1964年9月21日に、オーストラリア郵政省(Australian Post Office)の手によって、ビクトリア州のLyndhurstで産声をあげた。当時は4.5MHz(9:45~21:30)、7.5MHz(22:45~22:30)、12MHz(21:45~9:30)というスケジュールで運用された。その後、資金難のため1987年10月に一時閉鎖されたという過去がある。新生VNGは、政府機関の資金援助ではなく、VNG Users Consortium(VNG利用者資金援助団体)が運用資金を生み出している。この団体は1988年に発足し、個人は100ドルを、組織は2000ドルを資金提供することが決められている。これによって1万ドル以上の資金が調達され、同年、VNGの機器はニューサウスウェールズのLlandiloにあるオーストラリア航空サービス(AirService Australia)の国際送信所(International Transmitting Station)(元の民間航空管理局(Civil Aviation Authority))に移設された。この送信所は、先に述べたVIX局のDoonsideより西北西に約10kmの地点にある送信所で、開局は1959年、その後飛行機の誘導システムがGPSを使ったものになったため、2005年に閉鎖された。

 国立標準委員会(National Standards Commission)は、1992年11月にAUSLIG(Australian Surveying and Land Information Group)からVNGの資金の仕事を引き継いだ。そして、1993年1月12日には送信免許が移管された。1992年1月15日には時刻アナウンスが加わり、シドニー都市部の受信状況改善のため、2.5MHz、1kW送信が1992年10月7日から開始された。また1994年には、テープからデジタルへと音声システムが入れ替わった。

図7 VNGの送信フォーマット

 VNG局は2002年12月31日をもって閉局した。

 VNG局の送信スケジュールは、2.5MHz(1kW)、5MHz(10kW)、8.638MHz(10kW)、12.984MHz(10kW)は24H運用で、16MHz(5kW)は22:00~10:00の運用となっていた。このうち、8.638MHzと12.984MHzはオーストラリア海軍の周波数を借用していた。

 局のIDは、2.5MHz、5MHz、16MHzは音声によるアナウンスで、"This is VNG, Llandilo, New South Wales, Australia on 2.5, 5, 8.638, 12.984 or 16MHz. VNG is an Australian standard frequency and time signal service. Inquiries may be directed to VNG Users Consortium, G.P.O.Box 1090, Canberra, ACT, Australia 2601."と出る(*2)。8.638MHzと12.984MHzはモールスによるIDである。いずれも、毎時15分、30分、45分、60分に出た。

図8 VNGのアンテナ

図9 VNGの基準信号発生装置

図10 VNGの送信機

 使用機器の使用について、送信機はSTCの短波AM送信機を用い、2.5MHzはSTC4SU55A/S送信機を、5MHz/8.638MHz/12.984MHz/16MHzはSTC4SU48B送信機を使用していた。アンテナは、2.5MHzが垂直アンテナ、5MHzがクアドラントアンテナ、8.638MHz/12.984MHz/16MHzがデルタマッチ・クアドラントアンテナを使用していた。

 
図11 VNGのQSL(左:1978年、右:1995年)

(*2)"World Radio TV Handbook"1997年版、WRTH Publications


 (4)オーストラリア~Exmouth NWC

図12 North West Capeの地図

 NWC局は、Exmouthの町から北に6kmほどの地にある。ここはHarold E.Holt基地と呼ばれる。Harold E.Holtは基地開設の前年に亡くなったオーストラリアの首相の名前である。通信基地は1968年9月にアメリカによって開設された。通信基地は1993年にオーストラリアに返還され、その後はアメリカ-オーストラリアの共同運用となった。超長波22.3kHz、1MW(1000kW)の電波を発信した。13基のアンテナ塔は中心に387m高の"Tower0"と呼ばれる塔が配され、六角形を構成するように364m高の6基の塔が配置される。さらにその外側に304m高の6基の塔が配されている。

図13 NWCのアンテナ

 『理科年表』では「第46冊(1973)」から記載が始まる。WRTHでは「WRTH1973」~「WRTH1977」まで記載があった。22.3kHzの電波は、0:28~0:30/4:28~4:30/8:28~8:30/12:28~12:30/16:28~16:30/20:28~20:30に発せられた。



【図の出典】

図1 キャンベラの地図 筆者作成
図2 WRTH1966年版の記載 wrth.pdf [ADDX作成のCD]
図3 Belconnen transmitter site https://www.awm.gov.au/collection/C1370622
図4 シドニーの地図 筆者作成
図5 メルボルンの地図 筆者作成
図6 WRTH1966年版の記載 wrth.pdf [ADDX作成のCD]
図7 VNGの送信フォーマット "Radio VNG:Australia's Standard Frequency and Time Signal Service",NSC Leaflet NO.15, Sep.2002
図8 VNGのアンテナ 1995年のVNG局からの返信に同封されていた写真より引用
図9 VNGの基準信号発生装置 同上
図10 VNGの送信機 同上
図11 VNGのQSL(1978年)(1995年) 筆者所有
図12 NWC局の地図 筆者作成
図13 NWC局のアンテナ Wikipedia(英語版)"Naval Communication Station Harold E. Holt"


 
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