戦後のブラジルの標準周波数報時局 2023.8.28 |
(1)ブラジル~Rio de Janeiro PPE |
図1 国立天文台 図2 WRTH1966年版の記載 PPE局を管轄しているのは、DSHO(Divisão Serviço da Hora)である。DSHOは国立天文台が管理している。そこでまず国立天文台の紹介から行いたい。 16世紀から18世紀にかけてブラジルはポルトガルの植民地であり、サトウキビや黄金がヨーロッパに輸出された。1822年にポルトガルから独立し、20世紀初頭にはコーヒーの輸出も加わり、多数の船がブラジルの港湾を行き来した。こうしたことから1827年、皇帝ペドロⅠ世は、船舶の航行の安全のために天文台を設立した。国立天文台(Observatório Nacional)の当初の目的は、船舶の航行のための地理学、測地学、天文学の研究と、海洋警備隊アカデミー(Academia de Guardas-Marinhas)の学生の訓練であった。現在、天文台は科学技術省の管轄下にあり、天文学や地球物理学の教育、時間サービス部門によって行われる時間と周波数の計測やブラジル法定時間の管理などが行われている。 DSHOは科学技術省の17ある研究部門の1つで、1983年11月から活動が開始された。DSHOは、国立計量研究所(Instituto Nacional de Metrología)から時間と周波数の研究所(Laboratório Primário de Tempo e Freqüência)の指定を受けている。 また戦後の『理科年表』では、1947年版からPPEの記載がある。8721kHz、14:00となっている。戦後の記載はこれのみで、以後掲載はなかった。 WRTHの方は「WRTH1966」から、PPE局が8721kHzで13:25~30、20:25~30、0:25~30に報時信号を出しているとあるので、戦前・戦後を通じて報時信号は継続して送信されていたように思われる。その後、「WRTH1983」には8721kHzの他にFM波(161.25MHz、171.03MHz、166.31MHz)が追加されたが、これは船舶無線用である。 DSHOのウェブページから、現在の放送の仕様を以下に示す。 ・送信機:イギリス製Redifon Telecommunications Ltd. G453 ・送信出力:1kW ・送信周波数:10MHz ・電波形式:A3H ・アンテナ:1/2波長水平ダイポール ・局名:PPE ・所在地:22°53'44.6"S 43°13'27.5"W ・高度(海抜?):37m ・放送の内容: 送信の時間はブラジル法定時間(Hora Legal Brasileira:HLB、UTC-3H)で、10秒ごとに女声での「Observatorio Nacional」のアナウンスに続き現在の時刻をhh:mm:ssで告知する。また、毎秒5mSの1kHz変調波のビープ音を流す。ただし、毎分58秒、59秒、60秒は200mSの1kHz変調波を流す。 図3 PPEのダイポールアンテナ 図4 PPEの時間信号発生装置 図5 PPEの短波送信機 送信地の経緯度は「第7冊(1931)」と同じである。つまり昔から変わっていないということになる。この場所をGoogle Mapで検索すると、昔の天文台の建物らしきものは「Museu de Astronomia」(天文科学博物館)となっている。 時間の基準は、2つの原子時計(Symmetricon MHM水素メーザー)、12個のセシウム時計(HP5071A×3、Agilent5071A×3、Symmetricon5071A×4、CS4000×1、Datum4310A×1)で作られている。 「WRTH2023」によれば、現在PPE局の送信周波数は10MHz、1kWで24時間運用となっている。8721kHzから10MHzへの周波数の変更は2008年11月に行われた(*2)。 図6 PPEのQSL Web: https://www.horalegalbrasil.mct.on.br/ Email: dsh@on.br 住所: Divisão Serviço da Hora, Observatório Nacional, R.Gal. José Cristino 77, São Cristóvão, Rio de Janeiro, CEP 20921-400, Brazil (*2)"A Visit to PPE Observatorio Nacional",Martin Butera https://www.radioheritage.com/a-visit-to-ppe-observatorio-nacional/ |
(2)ブラジル~Rio de Janeiro PPR |
1928年に開局したSPY局は、1930年にPPRとコールサインを変更した。この局が戦後のPPR局と思われる。SPY局はArpordorからの送信であった。「WRTH1966」には住所はArpordorとなっており、戦前からのままのように思われる。送信周波数は435kHz/8634kHz/13105kHz/17194kHzで、送信時間は14:25~14:30、21:25~21:30、1:25~1:30の各5分間であった。 「WRTH1976」では、宛先がR.RioからEMBRATEL(Empresa Brasileira de telecomunicações)へと変更になった。EMBRATELとはブラジルの通信会社で、PPRはこの会社に所属する海岸局になる。WRTHには、435kHz/4244kHz/8634kHz/13105kHz/17194kHz/22603kHzの6波で送信していると書かれている。送信時間は変わらない。この時間に報時信号が出されるが、他の時間は平常の通信業務が行われる。それぞれの時間の25分からモールスで「CQ CQ CQ DE PPR PPR PPR TIME SIGNAL」と繰り返し送出され、その後時報信号が出た。0秒は長音、1~3秒が2点短音、4~59秒が1点短音とのことである(*3) 。 PPR局がいつ停止になったのかは、いろいろ調べたがわからなかった。 図7 EMBRATELのQSL (*3)「日本で聞こえる世界の時報局」川口大介、『短波』1980年12月号 【図の出典】 図1 国立天文台 Wikipedia(英語版)"National Observatory (Brazil)" 図2 WRTH1966年版の記載 wrth.pdf [ADDX作成] 図3 屋根の上のダイポールアンテナ "A Visit to PPE Observatório Nacional", M.Butera https://www.radioheritage.com/a-visit-to-ppe-observatorio-nacional/ 図4 時間信号発生装置 同上 図5 短波送信機 同上 図6 PPEのQSLカード 同上 図7 EMBRATELのQSL(1976年) https://www.utilityradio.com/ |
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