戦後のチェコの標準周波数報時局     2023.8.20
  (1)チェコ(旧チェコスロバキア)~Prague OMA

図1 プラハの地図

図2 WRTH1961年版の記載


 チェコは、第2次世界大戦後に復活したチェコスロバキア共和国が、共産党政権の崩壊によって1993年にチェコとスロバキアに分離した一方の国である。OMA局はチェコスロバキア(以後、チェコと略す)時代からの標準周波数局で、創設は1957年初期である。OMA局は、チェコのDSTF(The Department of Standard Time and Frequency)に所属しており、DSTFは、1955年に新設されたIREE(Institute of Radio Engineering and Electronics)の主要部門の一つであった。IREEはÚFE(Ústav Fotoniky a Elektroniky)と名称を変えている。DSTFの歴史(*1)によれば、1957年の初めに50kHzで標準時間と標準周波数の送信を始めた。創設時の事情について、Martin Poupa氏は次のように記している。実験放送が1955年にOK1KAAのコールサインで3.5MHzを使って行われ、続いてOMA 2.5MHz、OLB 3.17MHzと続いた。1957年5月17日にOLPが48.6kHzで長波送信を開始し、1958年4月にはOMA50が50kHzで送信を始めた。OMA50は、標準周波数と標準時間をLibliceのT型アンテナから50kWで送信した。1961年にIREEが新しい建物に移った際、クォーツ発振器のより安定した環境のために、地下14mの深さに温度コントロールルームが作られた。1976年にはFSK(Phase Shift Keying)を用いて時間コードをOMAの信号に埋め込むことに成功し、1977年にはプラハの市街のあちこちに街頭電波時計がおかれ、OMA信号を使った実験が行われた(*2)。1996年1月1日、資金不足のため、OMA50は停波した(*1)。

図3 OMAのアンテナ(Liblice)

 OMA局が"WRTH"に最初にあらわれたのは「WRTH1961」からである。当時は、長波50kHz(50kW)/2500kHz(1kW)/3170kHz(8kW)で、前2波は24時間、3170kHzは18:00~24:00の運用だった。OMA局は『理科年表』にもあらわれる。「第38冊(1965)」に18985kHzで水・金の12:30~13:00に送信とある。送信地はSataliceである。「第39冊(1966)」では、周波数は2.5MHzとなったが、「第41冊(1968)」では再び18985kHzに戻っている。このとき送信地はPodebradyに変更となった。「WRTH1981」に初めて送信地の記述があらわれた。50kHzと2500kHzはLibliceから、3170kHzはPodebradyからと記されている。先のMartin Poupa氏のサイトにはLibliceからOMA50が送信されたとあるので、『理科年表』に一度だけあらわれるSataliceには疑問が残る。但し、記されていた経緯度はSataliceである。『理科年表』にあらわれる18985kHzは『東京天文台 無線報時史』に受信記録がある。IGY(国際地球観測年)に関連し、1957年4月17日に受信されている。これは1959年まで受信記録がある。この18985kHzは「WRTH1963」からあらわれ、OLD2 18985kHz 8kWとある。送信時間は不明。「WRTH1963」からは3170kHzはOLB5というコールサインになっている。

図4 OMAのQSL

 一方「日本で聞こえる世界の時報局」(川口1980)では、OMA(2.5MHz)とOLB5(3.17MHz)が取り上げられている。両局はチェコスロバキアの天文研究所に属する時報局で、日本ではOLB5が秋から早春の早朝3時~5時(JST)に受信できるとある。出力は5kW、タイムパルスは1秒1点打の秒信号だけで、00秒に長信号があり、IDは出ない。また、『新BCLマニュアル』では、「OLB5 チェコスロバキア、ポデブラディー 3170kHz 5kW 毎月第1水曜日の1400~2000(送信時間)」「OMA チェコスロバキア、リブリーセ 2.5MHz 1kW 毎月第1水曜日と1400台を除く、毎時05~15、25~30、35~40、50~60分」とある。「WRTH1971」にもOMAにはモールスによるID、OLB5(3170kHz)はないとある。

(*1)"History of the Department of Standard Time and Frequency",ÚFE,2008
 https://www.ufe.cz/sites/default/files/historie/history_of_the_department_of_standard_time_and_frequency.pdf

(*2)"Vše O Času - OMA50" https://home.zcu.cz/~poupa/oma50.html

【図の出典】

図1 プラハ近郊地図 筆者作成
図2 WRTH1961年版の記載 WRTH.pdf CD[ADDX作製]
図3 Libliceのアンテナ GoogleMapの写真より
図4 OMAのQSL "Bill's QSL Gallery"より http://qsl.philcobill.com/blog/?p=6275

 
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