戦後のインドの標準周波数報時局     2023.8.19
  (1)インド~New Delhi ATA

図1 NPLの建物 図2 WRTH1963年版の記載

  インドの報時局ATAは国立物理研究所(National Physical Laboratory:NPL)の管轄下にある。NPLはインドの国立研究所の中で最も早く建設された研究所で、1947年1月のことである。ATAの創設は1959年2月のことで、ニューデリーのKalkajiで10MHz、2kWで送信を開始した。WRTHにATAが記載されたのは1963年版からで、10MHz、2kWで、月~金の5:30~10:30に運用された。1975年に送信機を8kWPEPのものに入れ替え、1976年11月には15MHzが追加された。5MHzは「WRTH1978」から記載されている。「WRTH1985」では、10MHzは24時間運用となった。NPLからの返信によれば、ATAは1996年に停波したとあった(*5)。

図3 WRTH1985年版の記載

 ATAの送信フォーマットは、以下の通りである。00分、15分、30分、45分にコールサインと時刻をモールスで告知する。その次の4分間は1kHz変調された長さ5mSの秒信号(分信号は長さ100mS)、その後11分間は無変調の秒信号と分信号。これが繰り返される(*6)。

図4 ATAの送信設備 図5 ルビジウム周波数標準

図6 ATAのQSL

(*5)NPLのCenter For Calibration and Testingという部署の責任者であるV.T.Chitnis 氏から返信があり、氏は名古屋大学留学の経験もあってか懇切丁寧に関連部署の所員を紹介してくれた。以下のメールはV.T.Chitnis氏の同僚のA.K.Hanjura氏からのものである。
 I am replying for the mail you sent to Dr. Chitnis. We had been operating the ATA time broadcast station till 1996. We have since started better and more accurate time services like one via satellite.We thus discontinued ATA transmission.
また、Indian DX Club Internationalの機関誌"ASIAN DX REVIEW"Vol.39,NO.559に"ATA-The Indian Standard Frequency Time Signal Station"(Author:Sudipta Ghose)というレポートが掲載されており、その中にATAの所員の記憶として2000年頃にATAは廃止されたという記述がある。

(*6)このフォーマットは”Radio Navigational Aids"NO.117、2014Editionに掲載されていた"Radio Time Signal"による。

 
 (2)インド~Kolkata VWC
 
図7 WRTH1976年版の記載

 コルカタは旧カルカッタの地を指す。イギリスの植民地時代の呼称であるカルカッタが長く使われていたが、植民地時代の呼称の変更が進み、1999年に本来のコルカタに戻った。
 VWCは戦前から存在する報時局である。「第14冊(1938)」以降記述がなかった。戦後は「WRTH1976」から記述されるようになった。これによれば、434kHz/12745kHzが08:25~08:30に、434kHz/4286kHzが16:25~16:30に送信された。これは「WRTH1997」まで記載があった。送信は、まずコールサインをモールスで送信後、報時信号が送信された。詳しい記述がないため、戦前のフォーマットと同じものかはわからない。「WRTH1981」には、Alipore Observatoryというアドレスが記載された。Alipore天文台は1888年に創建された天文台で、現在はRegional Meteorological Centreとなっている。戦後は天文台が送信の地となったのではないかと思われる。

図8 Alipore Observatory


【図の出典】
図1 NPLの建物 NPLのウェブページ http://www.nplindia.org/npl/index.htm[2002年1月閲覧]
図2 WRTH1963年版 WRTH.pdf CD[ADDX作製]
図3 WRTH1985年版 WRTH.pdf CD[ADDX作製]
図4 ATAの送信設備 NPLのウェブページ http://www.nplindia.org/npl/index.htm[2002年1月閲覧]
図5 ルビジウム周波数標準 NPLのウェブページ http://www.nplindia.org/npl/index.htm[2002年1月閲覧]
図6 ATAのQSL "Asian DX Review"Vo.39,NO.559,May 2021 http://idxci.in/wp-content/uploads/2021/05/ADXR-Volume-39-No-559-May-2021.pdf
図7 WRTH1977年版の記載 WRTH.pdf CD[ADDX作製]
図8 Alipore Observatory https://mausam.imd.gov.in/kolkata/aboutus.php


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