戦前の日本の標準周波数局     2023.8.17

 無線局が少ない時代には、無線局が発する電波の周波数の正確さが特に問題になることはなかったが、無線局の数が増えてくると混信が大きな問題となってきた。当時は受信機の選択度もよくなかったから、割り当てられた周波数の電波を正しく発射することが混信を減らす一番の方法だった。

 『日本無線史』によれば、1918(大正7)年に海軍が発振周波数の直接測定の研究を開始し、高周波発電機で発生させた周波数の高調波で標準波長を定め、10kHz~3MHzの標準測波器を作製したのが日本における周波数測定の嚆矢とされる。1923(大正12)年には、海軍船橋送信所より標準周波数電波を送信し、各工廠に配布した副標準器を較正させた。一方逓信省では、1927(昭和2)年に各地の逓信局無線検査官の使用する電波計を較正するために、検見川送信所から週1回土曜日に標準周波数電波を発射した。この電波は、岩槻受信所より検見川送信所の送信機をコントロールし、一定時間長点(ダッシュ)を送信して、これを岩槻で受信し、マルチバイブレータで測定し、その結果を送信して告知したというものである。

 1936(昭和11)年には通常議会で標準周波数電波発射施設の建設が承認され、建設が開始された。1940(昭和15)年1月30日より正式に標準周波数電波の発射が開始された。逓信省告示第1号によれば、電波は検見川送信所より出力5kWで発射され、祝祭日を除く毎火曜日に無変調電波を、毎金曜日に変調電波(1kHz変調)を発射した。発射時間と周波数は、4MHz(JJY)は15:00と21:30からそれぞれ30分間、7MHz(JJY2)は14:00と20:00からそれぞれ30分間、9MHz(JJY3)は1月~4月及び9月~12月の11:30と13:00及び19:00よりそれぞれ30分間、13MHz(JJY4)は5月~8月の11:30と13:00及び19:00よりそれぞれ30分間発射した。発射電波の型式は、"CQ CQ CQ DE (呼出符号3回) STD FREQ -・・・-" なる開始符号に続き標準周波数電波を9分間発射した。以後30分までこれを繰り返す。その後、前回発射した標準周波数電波の修正値がある場合はこれを告知した。

図1 逓信省告示第1号(1940年1月6日)

 1944年6月1日からは発射は毎日となり、発射周波数と発射時間とその短縮が行われた。逓信省告示第273号によれば、7MHzが8MHzに、9MHzが12MHzに、13MHzが16MHzに変更され、4MHzは6:20/9:50/13:30/17:40より各10分間、8MHzは8:40/14:00/18:10より各10分間、12MHzは14:30より10分間、16MHzは15:00より10分間送信された。型式については、開始符号は同じだが、その後無変調電波を4分間、続いて変調電波を4分45秒間発射し、5秒の休止ののち発射電波に異常がないときは長点を10秒間、異常があるときは短点を10秒間発射した。発射電波の修正値は官報に掲載することとなった。

 アジア・太平洋戦争の開始(1941年)と同時に電波管制が実施され、ラジオ放送は同一周波数で放送されるようになった。これは電波を傍受されると周波数で送信所がわかってしまい、爆撃の位置決めに使われる恐れがあるからである。最初は全国を1000kHzの同一周波数で放送したが、まもなく全国を5群に分け各群毎に同一の周波数で放送した。最初は各放送局が自身の水晶発振器で放送周波数を定める独立同期方式であったため、周波数偏差がひどく、聴取に困難をきたした。そこで逓信省の標準電波を受信し、自局の周波数をこれに合わせるようにしたところ、結果は良好だったことからこの方法が採用され、標準電波は発射回数も増やされ、発射方法も改善され、敗戦まで続けられた(*1)。

図2 検見川送信所

 日本の敗戦により標準周波数電波の発射は停止された。進駐してきたGHQは、「周波数標準や標準電波には電波監理上の必要から大きな関心を示し、その完成を期待するとともに、強力に後援され推進されることとなった」(*2)。こうしたこともあり、標準周波数電波の発射は戦後早い時期に再開した。

図3 標準電波発射設備(1940年)


(*1)『日本放送史』日本放送協会編、1951年3月、P936~937
(*2)『続日本無線史 第1部』続日本無線史刊行会、1972.2、P315

【図の出典
図1 逓信省告示第1号(官報第3897号、1940.1.6)
図2 検見川送信所  『東京中央電報局沿革史』東京中央電報局編、1958.12.1
図3 標準電波発射設備  『日本無線史』第2巻P412の図を参考に筆者作成



 
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