戦後のロシア(旧ソビエト連邦)の標準周波数報時局 2023.8.25 |
(1)ロシア~Moscow RKE・RNW・RES・RWM・ROR・RAT・RBU |
図1 モスクワの地図 図2 WRTH1963年版の記載 「第20冊(1947)」に戦後最初のロシア局があらわれる。RKE局は11560kHzで4:06/6:06/11:51/14:06/16:06に信号を発した。その後しばらく掲載はなかったが、「第25冊(1952)」にRNW(5380kHz/7690kHz/10050kHz/12260kHz/16025kHz)とRES(90kHz)があらわれた。送信時間はいずれも0:06/6:06/11:51/12:06/14:06/16:06/22:06である。翌年、RNWはなくなり代わってRWM(10050kHz/12260kHz)となる。送信回数は減少し、12:06/14:06/16:06/22:06となる。RES(90kHz)も16:06と22:06に縮小された。このRWMが現在のRWM局のルーツであろう。以後、「第39冊(1966)」までロシア局の記載がない。「第39冊(1966)」ではRWMのみとなり、5MHz、10MHz、15MHzで送信となっている。送信時間の記載はない。『理科年表』へのロシア局の記載はこれが最後となる。 また、WRTHでは1963年版からRWMの記載がはじまる。当初は5MHz、10MHz、15MHzのような区切りのよい周波数だったが、現在のような4996kHz、9996kHz、14996kHzになったのは「WRTH1980」からである。 RWMの送信地を図1に示す。4ヵ所もあるのは、資料により場所が異なるためである。 モスクワ市内に一番近いRazdoryと北北西にあるZavidovoはいずれも"CCIR1963"(*11)にあったものである。同じRWMでも短波と長波で経緯度が異なっている。東側にあるElektrougliは2022年に受領したQSLカードにあった経緯度である。これは2001年に受領したカードの記載とも一致している。しかし1996年に受領したカードに記載されたのは北北東にあるLos'であった。このように送信地については変更があったものなのか、データに誤りがあるのか、真偽は定かでない。とりあえず最新のカードにあったElektrougliをあげておきたい。 図3 VNIIFTRIの建物 RWMをはじめとするロシアの報時局は、ロシア応用物理・無線技術度量研究所(Russian Metrological Institute of Technical Pysics and Radio Engineering:ロシア語略称VNIIFTRI)が管轄している。この研究所が出しているパンフレット(*12)にそってRWMの送出信号の説明をする。送信周波数4996kHz、9996kHz、14996kHzはいずれも放射電力10kWで24時間送信である。四半期の最初の月の第一水曜日(4996kHz)、第二水曜日(9996kHz)、第三水曜日(14996kHz)の8:00~16:00は停波する。毎時間ごとの送信スケジュールを表1に示す。ここでA1X信号とは情報を含むA1信号、A1N信号とは情報を含まないA1信号をいう。 表1 RWM局のスケジュール 図4 RWM局のUT1-UTCのフォーマット 40分~49分55秒に送信されるUT1-UTCのフォーマットを図4に示す。ダブルパルスの数によりDUT1のダブルパルス数×0.1+dUT1のダブルパルス数×0.02で計算される。例えば、図3C-39のように正のDUT1のダブルパルスが4つ、負のdUT1のダブル波するが3つとすると、0.1×4-0.02×3=+0.34秒となる。 図5 WRTH1966年版の記載 これ以外に、モスクワ送信の長波局RORが「WRTH1966」のみに記載されている。また、「WRTH1971」には、長波局RES(100kHz)と短波局RAT(2.5MHz/5MHz)及びRNM(10MHz/15MHz)の記載がある。これらの局はコールサインと周波数のみで、送信時刻などはわからない。「WRTH1975」では、長波局RBU(66.66kHz)があらわれる。当初は送信時刻の記載はなかったが、「WRTH1977」に0:00~12:05、14:00~18:05、20:00~22:05と書かれている。RESは「WRTH1975」を最後に記述が消え、RATは「WRTH1979」まで記載された。以後モスクワ送信の報時局はRWMとRBUの2つとなった。これらの局の出力が記載されるようになったのは「WRTH1985」からで、RWM(4996kHz/9996kHz)が5kW、RWM(14996kHz)が8kW、RBU(66.66kHz)が10kWであった。「WRTH1989」からはこれらの局の送信時間がすべて24時間となった。 図6 RBU局の送信パルス列 図7 RBU局のパルス列の構造 RBU局は長波66.66kHzで電波を出す。この周波数は200/3をあらわすそうだ。そのフォーマットは、1秒間に10個の変調パルスを出す。パルスは100Hzまたは312.5Hzで変調されている。10個のパルス列のうち1番目と2番目のパルスに情報をのせる。100Hzで変調されていれば「0」を、312.5Hzで変調されていれば「1」をあらわす。8番目と9番目のパルスは[00」ならば分マーカーとなる。1番目のパルスの立ち上がりが秒をあらわす。パルス列の構成を図6~7に示す。1分間のそれぞれの情報ビットの意味を図8に示す。 図8 RBUの情報ビット 図8で、上段が1番目のビットを、下段が2番目のビットを示す。ΔUT=UT1-UTC、Y(年)、月(M)、曜日(dw)、日にち(dM)、時(h)、分(m)をあらわす。TJDはTruncated Julian Dayをあらわす。TJDとはNASAが導入した1968年5月24日0時からの通算日数である。元々はJD(Julian Day:ユリウス日)というものがあり、これは紀元前4713年1月1日正午を起点とした連続的な日付である。暦法の変更は不連続な部分を生むので、連続日を保った日付が必要な場合があった。その後、JDでは数字が大きすぎるため、1957年にスミソニアン天体物理観測所がMJD(Modified Julian Day)を提唱した。これは1858年11月17日0時を起点とするもので、MJD=JD-2400000.5 である。TJDはMJDよりさらに一桁少ない数字で表現できるもので、TJD=JD-2440000.5 である(*13)。 RWM局のQSLカードを以下に示す。 図9 RWMのQSL(左:2000年、右:2022年) (*11)"Standard-Frequencies and Time-signals",CCIR Documents of the Xth Plenary Assembly:Report 267, 1963 Geneva volⅢ (*12)『周波数と時間の基準信号~無線局・GPS・テレビ放送網・インターネットを介した送信の特徴とプログラム』(ロシア語原題は、ЭТАЛОННЫЕ СИГНАЛЫ ЧАСТОТЫ И ВРЕМЕНИ~ХАРАКТЕРИСТИКИ И ПРОГРАММЫ ПЕРЕДАЧ ЧЕРЕЗ РАДИОСТАНЦИИ, НАЗЕМНЫЕ И КОСМИЧЕСКИЕ СРЕДСТВА НАВИГАЦИИ, СЕТИ ТЕЛЕВИЗИОННОГО ВЕЩАНИЯ И ГЛОБАЛЬНУЮ СЕТЬ ИНТЕРНЕТ) (*13)例えば、国立天文台"暦Wiki" https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/A5E6A5EAA5A6A5B9C6FC.html など |
(2)ロシア~Irkutsk RBT・RKM・RID・RTZ・RW-166 |
図10 WRTH1971年版の記載 Irkutsk送信の局は「WRTH1966」に最初にあらわれる(図10)。その後、「WRTH1970」にRKM(5000kHz/10000kHz)とRID(15000kHz)が記載される。これはコールサインと周波数しか記載がない。「WRTH1971」では周波数が変更になっており、RKM(5004kHz/10004kHz/15004kHz)とRID(10004kHz/15004kHz)となった。「WRTH1973」には、0、10、20、30、50分にIDが出るとある。送信時間については「WRTH1976」に初めて記載され、RIDは24時間送信、RKMは0:00~1:10と11:40~24:00とある。「WRTH1980」になると、RID(5004kHz/10004kHz・15004kHz)とRTZ(50kHz)、RW-166(200kHz)が登場する。RIDは1kW、RTZは出力10kWでそれぞれ24時間運用、RW-166は40kWの出力で22:00~21:00の運用である。「WRTH1989」ではRW-166の周波数が198kHzに変更された。「WRTH1996」ではRTZとRW-166の記載がなくなったが、翌年RTZは復活している。ある資料(*5)によれば、短波局RIDは1996年12月に停波したという。GoogleMapで経緯度を調べていたところ、送信所を見つけた。おそらくここではないかと思われる(図11)。 図11 イルクーツクの送信アンテナ RID局のQSLカードを以下に示す。 図12 RIDのQSL |
(3)ロシア~Novosibirsk RTA・RW-76 |
Novosibirsk送信の局は「WRTH1971」にあらわれる(図10)。当初はコールサインがなかったが「WRTH1973」からRTAというコールサインとなった。RTA局は4996kHz/9996kHz/14996kHzで24時間送信、IDが14、29、44、59分にある。その後、送信時間については短縮されたものが掲載されている。「WRTH1980」では周波数が10MHzと5MHz、出力5kWになり、10MHzが2:00~5:00と14:00~17:30、18:00~1:30で運用され、15MHzが6:30~9:30と10:00~13:30で運用された。「WRTH1989」では新たにRW-76という局が追加された。272kHzで150kWである。送信時間の記述はない。「WRTH1992」以降はNovosibirskからの送信について記載がなくなった。現在、RTA、RW-76は停波している。 |
(4)ロシア~Khabarovsk USZ3・UQC3・RAB99 |
図13 ロシアの報時局の所在地 Khabarovsk送信の局は「WRTH1980」に記載され、USZ3(25kHz)で0:36~1:17、3:36~4:17、6:36~17:17、17:36~18:17に送信した。この局はこの版のみで、翌年にはコールサインが変更されUQC3となった。この局は「WRTH1991」まで記載されていた。現在はRAB99(25kHz)300kWの局が稼働している。"VINIIFTRI"のパンフレット1996年版(*11)にはRAB99が載っているので、これより前に開設されたことは間違いない。 図14 WRTH1980年版の記載 RAB99の他にも超長波を使用したロシア海軍に関連する局が6局ある。これらの局については共通の送信フォーマットが使われており、頭文字をとってBETAと呼ばれる。これら6局の送信時間は重ならないように配置されている。フォーマットは6局にほぼ共通しているので、ここで述べておく。 RAB99局は10、20、30日を除く毎日の2:06~2:40と6:06~6:40に送信される。送信スケジュールは表3C-3の通りである。無線識別信号はモールスで局名を知らせる。特異なのは、送信周波数が時間によって変化することである。最初は25.0kHzだが、21分からは25.1kHz、24分からは25.5kHz、29分からは23.0kHz、34分からは20.5kHzと変化する。搬送波の周波数が時間ごとに数百Hz変移するのは理由があるはずだが、これについては調べてみたが見つからなかった。ある資料(*14)にはこの試験送信が1973年に開始されたとあるので、ソビエト連邦時代の船舶航法あるいは軍事に関係があるのかもしれない。情報をお持ちの方はご教示いただければ幸いである。 表2 RAB99の送信スケジュール (*14)"The Russian VLF time-signal stations, "Beta"",Trond Jacobsen http://www.vlf.it/ |
(5)ロシア~Gorki UTR3 |
Gorkiはモスクワ市内から約30km南の地である。UTR3という局は「WRTH1980」から現れた(図14)。25kHz、300kWで、5:36~6:17/14:36~15:17/18:36~19:17に電波を発した。この局は「WRTH1991」まで記載されたが、詳細については不明である。 |
(6)ロシア~Poushkin REP |
『理科年表』第20冊(1947)にのみ記載された局である。長波79kHzで、4:06/6:06/11:51/14:06/16:06/17:06/22:06に信号を発したとある。送信地とされるPoushkinはさがしても見つからない。もしかしたらPushkinかもしれない。そうならばこの地はサンクトペテルブルグの南約24kmである。エカテリーナ宮殿がある所として知られる。 |
(7)ロシア~Krasnodar RJH63 |
この局は先に述べたRAB99に関連する局である。6つの局の中では一番新しく、ロシアになってから開設された。送信は3、13、23日を除く毎日の11:06~11:40に送信される。送信スケジュールを表3に示す。 表3 RJH63の送信スケジュール Krasnodarは、黒海から約50kmほど内陸の町である。 |
(8)ロシア~Arkhangelsk RJH77 |
この局もRAB99と同様である。送信は4、14、24日を除く毎日の9:06~9:47に行われる。送信スケジュールを表4に示す。送信地Arkhangelskは、白海に面した港湾都市で、ロシア海軍の基地がある。送信地は市内より北ドヴィナ川に沿って50kmほど内陸にある。 表4 RJH69・77・86・90の送信スケジュール |
(9)ロシア~Nizhniy Novgorod RJH90 |
この局もRAB99と同様である。送信は8、18、28日を除く毎日の8:06~8:47に行われる。送信スケジュールを表4に示す。Nizhniy Novgorodはモスクワの東約400kmにあり、ヴォルガ川とオカ川の合流点にある商工業都市である。 |
(10)ベラルーシ~Vileyka RJH69 |
ロシアではないが、ロシア海軍の報時局の一つであるため、ここに記述する。送信は2、12、22日を除く毎日の7:06~7:47に行われる。送信スケジュールを表4に示す。送信地はかつてはMolodecnoとなっていたが、Vileykaに変わった。Vileykaはベラルーシの首都Minskより北北西に約40kmのところにある町である。 |
(11)キルギス~Chaldybar RJH86 |
この局もロシアではないが、ロシア海軍の報時局の一つであるため、ここに記述する。送信は6、16、26日を除く毎日の4:06~4:47と10:06~10:47に行われる。送信スケジュールを表4に示す。送信地はかつてはBishkekとなっていたが、Chaldybarになった。ChaldybarはBishkekから西に40km余の地にあり、カザフスタンと国境を接する。 【図の出典】 図1 モスクワ地図 筆者作成 図2 WRTH1963の記載 WRTH.pdf CD[ADDX作製] 図3 VNIIFTRIの建物 https://www.vniiftri.ru/en/about/ 図4 RWMのUT1-UTCのフォーマット 文書(*12)の図を参考に筆者が作成 図5 WRTH1966年版の記載 WRTH.pdf CD[ADDX作製] 図6 RBU局の送信パルス列 文書(*12)の図を参考に筆者が作成 図7 RBU局のパルス列の構造 文書(*12)の図を参考に筆者が作成 図8 RBU局の情報ビットの内容 文書(*12)の図を参考に筆者が作成 図9 RWM局のQSLカード(左が2000年、右が2022年のもの) 筆者所有 図10 WRTH1971年版の記載 WRTH.pdf CD[ADDX作製] 図11 Irkutskの送信所アンテナ GoogleMapの写真 図12 RID局のQSLカード 筆者所有 図13 ロシアの報時局の所在地 筆者作成 図14 WRTH1980年版の記載 WRTH.pdf CD[ADDX作製] |
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