戦後のアメリカ(オセアニア域)の標準周波数報時局     2023.8.29
  (1)グアム~Libugon(Barrigada) NPN

図1 グアム島の地図

図2 WRTH1966年版の記載


  グァムは1898年、アメリカがスペインとの戦いに勝利し、領土とした。1941年から1944年までは日本が占領統治したが、1944年7月にアメリカが奪還し、日本本土への空襲の基地となった。戦後はアメリカの準州となっている。NPN局は1917年に開局し、30kWの火花送信機でハワイやパナマなどとの通信中継地として重要な役割を果たした。その後、短波が使用されるようになり、直接遠方との通信が可能となったことから、グァムの位置は相対的に低下した。しかし、1941年に真珠湾攻撃に端を発した日本との戦争で、再び役割が高まった。グァムの送信所は、Aganaに近いLibugonに置かれたが、1954年にBarrigadaに移転した。

 NPN局の最初の記載は「WRTH1966」にあらわれる。484kHz/4955kHz/8150kHz/13530kHz/17530kHz/21760kHzで6:00/12:00/18:00/24:00に信号を発した。「WRTH1976」では"time signals indefinitely suspended"(時間信号は無期限停止)とあったが、翌年には長波23.4kHzが記載され、「WRTH1978」からは元の短波送信の記載に戻った。記載は「WRTH1980」までであった。

図3 NPN局の建物 図4 NPNのQSL

 
 (2)ハワイ~Lualualei NPM
 
図4 オアフ島の地図

  NPM局は戦前に開局した。開局はPearl HarborのHospital Pointという地であったが、1936年にLualualeiに移転した。1939年にWahiawaにコントロールセンターが作られ、ここからLualualeiの送信設備を制御した。1941年12月、日本軍の真珠湾攻撃があり、このことから海岸局の防御の脆弱性に気付き、Wailupeにあった無線設備を島内のWahiawaに移設した。

 「第26冊(1953)」には、NPM局が9050kHz/13575kHzで4:00に電波を発したとある。「第29冊(1956)」では、131.05kHz/4525kHz/9050kHz/13655kHz/17122.4kHz/22593kHzと増波され、送信時間も0:00/6:00/12:00/18:00と増えた。「第38冊(1965)」では超長波19.8kHzのみが記載され、送信地はLualualeiとなっている。送信時間の記載はない。「第42冊(1969)」では周波数が23.4kHzに変更された。

 WRTHには「WRTH1966」(図2参照)からあらわれる。『理科年表』とほぼ同じ内容なので繰り返さない。「WRTH1976」には、NPN局と同様に「無期限停止」と書かれていたが、翌年には23.4kHzのみが記載された。「WRTH1978」からは記載がなくなり、代わりにNMOという局が現れる。周波数等は同じなので、この局がNPM局の業務を引き継いだと考えて良いだろう。

 (3)ハワイ~Wahiawa NMO
 
  NMO局はNPM局の代わりに登場した局で、ハワイのオアフ島Wahiawaにある。Wahiawaに通信設備が移った経緯については既に述べた。NMO局は1977年に開局した。

 「WRTH1978」には、4525kHz/9050kHz/13655kHz/16457.5kHz/22472kHzで、0:55/2:55/6:55/21:55に電波を発したとある。この局の記載は「WRTH1980」までで、以降はない。

 (4)ハワイ~Kauai WWVH

図5 ハワイ諸島の地図

 WWVHは、1948年11月22日にマウイ島のKiheiで運用を始めた。ハワイ州は当時はアメリカの準州という扱いで、これは1959年まで続いた。1947年の国際電気通信連合(ITU)の大会で、既にWWVが使用している周波数2.5MHz/5MHz/10MHz/15MHz/20MHz/25MHzを標準周波数局に割り当てるという協定が締結されたのを機に、NBSはWWVと同時に運用する第二の標準周波数局としてWWVHの新設を決定した。第二の局の運用で2つ以上の標準周波数局を同期させながら必要な精度を保持し、かつ別々の局を同一周波数上で運用する方法を開発するためであった。ハワイの地が選ばれたのは、標準周波数局のカバー領域を最大限にし、かつWWVのサービスを既に受けているユーザーの妨げにならないようにするためである。

 初期のWWVH局は、5MHz/10MHz/15MHz、出力1kWであった。WWVH局はWWVの受信を可能にするために、1日2回7:00と19:00に放送を停止した。WWV(当時はメリーランドのBeltsvilleにあった)とWWVHの間の信号の遅延は約27mSであり、WWVの信号はWWVHの信号の校正のために使用された。

 局の周波数は1956年までに5×10-9以内にコントロールされた。5MHz/10MHz/15MHzの放射電力は2kWで、現在と同様にWWVHのプログラムスケジュールはWWVのフォーマットに準じていたが、時刻の音声アナウンスは1964年7月まで行われなかった。初期の音声アナウンスはハワイ標準時で放送され、毎時刻05分の前半が使われた。2.5MHz、1kWの放送は1965年に始まった。

 初期のKiheiの局舎は、たえず海の浸食の影響を受け、1965年には局舎や15MHzのアンテナから数mのところにまで海が迫ったため、移転を余儀なくされた。1971年7月1日、局はハワイ、カウアイ島のKekaha近くに移転し放送を始めた。この移転時にERP(有効放射電力)を 5MHz/10MHz/15MHzでは10kWにした。また2.5MHzは2.5kW(すぐに5kWに増加した)に増加した。新しく20MHz、2.5kWの放送が追加された(しかし1977年2月に停止した)。音声アナウンスは毎分に女性の声で行われるようになった。ジェーン・バーブ(Ms.Jane Barbe)の声がアナウンスに使われた。さらに局は初めてディジタルタイムコードの送信を開始し、電信のタイムコードは中止された。1991年8月に、WWVとWWVHはディジタル化され、半導体メモリに記憶された音声アナウンスとなった。

 WWVHは、ハワイ、カウアイ島西側にあるKekahaの町の近くにある。土地の広さは30エーカー(12ha)で、アメリカ海軍からリースされている。周囲には海軍のBarking Sands太平洋ミサイル発射場施設が広がる。

図6 Kiheiの局舎

図7 Kekahaの局舎

①送信機
 WWVHは4つの周波数2.5MHz/5MHz/10MHz/15MHzで運用し、それぞれの周波数用に主送信機と予備送信機を持つ。現在のWWVHの施設に設置された最初の送信機は、AEL(American Electronic Laboratories)社により作られ、1971年に設置された。このタイプの7つの送信機は最初に設置されたものである。1983年に、2つの送信機がElcom-Bauer社の送信機と交換された。これは、5MHz/10MHz/15MHzの主送信機となった。

図8 5MHz主送信機

②アンテナ
 WWVHアンテナには無指向性アンテナと位相配列(Phased Array)アンテナの2つのタイプがある。無指向性のアンテナはタワーから同じ電力をすべての水平方向に放射し、位相配列アンテナはより多くの電力を局の西方向に放射するように設計されている。2.5MHzのアンテナと常設の予備アンテナは無指向性であるが、5MHz/10MHz/15MHzの主アンテナは位相配列アンテナである。15MHzの予備アンテナは、2つの1/4波長モノポールから成るプロトタイプの位相配列アンテナで一時的なものである。高さが41フィート(12.5m)ある鋼製タワーは、様々な短波や国立気象局を受信するアンテナとして使われ、時報と周波数の放送には使用されない。

 最初の無指向性タワーは、WWVのアンテナと同様に垂直の鋼製構造物であった。しかし、海からの湿度と塩分の影響を受け多くの保守整備を必要としたため、これらは2001年に自立したグラスファイバーの柱に取り替えられた。

 位相配列の主アンテナは、Rohn社により製造され、1971年に局が建てられた時に設置された。それぞれの配列は、1/4波長の間隔をおいて配置された2つの1/2波長ダイポールタワーから成る。それぞれのタワーは、タワーの中間点近くでセラミック製の絶縁物とともに、スタックされた三面の鋼から成る。アンテナは中央で給電される。塔頂部にはそれぞれ3つのセラミック製絶縁物が設置され、アンテナの上部の放射エレメントを形成する。下の放射エレメントは、地面に対して70°の角度で傾斜している銅メッキされた鋼線から成る。この「スカート」はまた構造上の支線として役立っている。アンテナ群は、3°の間隔をおいて配置された120本の銅線から成るカウンターポイズも持ち、それらは2つの柱の基部から放射状に外へ広がり、それぞれ棒で大地に端末処理されている。

図9 15MHz主アンテナ

③計時システム
 WWVHによって放送される周波数信号はメインスクリーンルームで作られる。それぞれの時刻と周波数発生のシステムは、周波数標準、周波数分割/分配増幅器、時間コードジェネレータ(TCG)およびモニター、補助出力によって構成されている。通常のすべての周波数標準は商品として購入可能なセシウム発振器である。ルビジウム発振器は、セシウム発振器の1つが故障した場合のバックアップ用である。

図10 時刻・周波数発生システムのブロック図

④放送フォーマット
 WWVHの放送フォーマットはWWVのものとほとんど同じである。違いは秒と分のトーンがWWVが1000Hzに対しWWVHは1200Hzであること、音声アナウンスがWWVは男性の声だがWWVHは女性の声であることくらいである。

 WWVHの音声時刻アナウンスは1分に1度送信される。それらは女性の声を使って、分の45秒目から開始される。アナウンスは7秒間である。14:52UTCの場合、アナウンスは次のように読まれる:
"At the tone, fourteen hours, fifty two minutes, coordinated universal time." トーンのない約8秒のカチカチ音が続き、それから短い1200Hzトーンが分の最初を示す。局の識別メッセージは1時間に2回放送され、約37秒間続く。ステーションIDは次の通りである:"National Institute of Standards and Technology Time: this is Radio Station WWVH, Kauai, Hawaii, broadcasting on internationally allocated standard carrier frequencies of two-point-five, five, ten, and fifteen megahertz, providing time of day, standard time interval and other related information. Inquiries regarding these transmissions may be directed to the National Institute of Standards and Technology, Radio Station WWVH, Post Office Box 417, Kekaha, Hawaii, 96752. Aloha."

 標準の時間間隔は、WWVと同様にWWVHにおいて放送される標準の時間間隔は次の通り示される。

・秒:1200Hzトーンの短音でほとんどは長さ5msである。それは時計のチクタク音をまねている。これらのチクタク音は29番目と59番目が省略される。それぞれの分が始まる秒はより長いトーンで示される。
・10秒:BCD時間コードで示される。
・分:毎時間の最初を除くすべての分は1200Hzトーンの800msの短音である。
・時間:すべての時間は1500Hzトーンの800msの短音である。また440Hzトーンは、それぞれの時間の1分目に、1日の最初の1時間の間は除いて放送される。
・日:上記の440Hzトーンは、それぞれの日の最初の時間の間は省略される。

図11 WWVHの送信フォーマット

 WWVHは、すべての時間のほとんどの分の間に標準の可聴周波数も放送する。500Hzおよび600Hzのトーンは、分の交互に放送され、440Hzトーンは、日の最初の1時間を除いて1時間ごとに1回放送される。トーンは、通常WWVとは逆の規則にしたがって放送される。例えば、もし特定の分にWWVで500Hzトーンの放送が行われているならば、WWVHでは同じ分に600Hzトーンで放送される。440Hzトーンは、WWVでは2分目に放送され、WWVHでは1分目に放送される。トーンは、割り当てられた分の最初の45秒の間放送に挿入され、それに続いて時間を示す音声アナウンスと無音期間がある。秒パルスはしばらくトーンを中断する。個々のパルスには先に10msの無音があり、後に25msの無音がある。

 毎時間のはじめには、トーン変調がない、より長い無音期間がある。しかしこの時も、搬送波の周波数、秒パルス、時間アナウンスおよびBCD時間コードは続いている。WWVHの無音期間の目的は、WWV放送の音声アナウンスへの干渉を防止するためである。他局が音声メッセージを放送している間は、もう一方の局は通常音声の放送を行わない。WWVHの無音期間は、8分~11分と14分~20分の間と0分目と30分目にある。

 UT1情報は、WWVと同じ方法で放送される。WWVHもWWVと同様にBCD時間コードを放送する。

 「WRTH2023」によれば、現在、WWVHは2.5MHz(5kW)/5MHz(10kW)/10MHz(10kW)/15MHz(10kW)で24時間運用している。毎分45秒から女性の声で時刻アナウンスが流れるので、確認は容易である。

・Web: https://www.nist.gov/pml/time-and-frequency-division/time-distribution/radio-station-wwvh
・Email: wwvh@boulder.nist.gov
・住所:NIST Radio station WWVH, P.O.Box 417, Kekaha, HI 96752, USA


図12 WWVHのQSL(1979年)

図13 WWVHのQSL(2021年)

【図の出典】

図1 グァム島の地図 筆者作成
図2 NPN局のサイト https://www.navy-radio.com/commsta/
図3 NPN局のQSL https://www.navy-radio.com/qsl.htm
図4 オアフ島地図 筆者作成
図5 ハワイ諸島の地図 筆者作成
図6 Kiheiの局舎 "NIST Time and Frequency Radio Stations: WWV,WWVH,and WWVB"
図7 Kekahaの局舎 同上
図8 5MHz主送信機 同上
図9 15MHz主アンテナ 同上
図10 WWVHの時刻・周波数発生システムのブロック図 同上
図11 WWVHのフォーマット 同上
図12 WWVHのQSL 筆者所有
図13 WWVHのQSL 筆者所有



 
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