戦前のオーストラリアの報時局     2023.6.8
 (a)Adelaide VIA  

図1 アデレードの地図

 VIA局の位置を『理科年表』の経緯度で調べると、アデレード市の北郊外を示す。VIA局は、周波数500kHzで、2:30と14:30に報時信号を発した。Melbourne天文台からの信号をリレーで制御して発信したとある。送信フォーマットを表1に示す。

 『理科年表』第2冊(1925)ではVIAの送信周波数は115kHz(波長2600m)で2:30と14:30となっていたが、翌年には500kHz、0:30と12:30となった。「第11冊(1935)」では時刻が3:00と12:30に変更された。

 他の資料を調べると、VIA局の開局は1912年とあったが、『理科年表』をみると1916年開始となっていた。どうやら前者は無線局としての開局時期で、後者が報時開始の時期と考えられる。

 時刻情報を提供していたのは市内にあるAdelaide Observatoryである。この天文台は1860年に開設され、1952年に役目を終えた。1940年にアデレード大学の所有となり、1978年に建物は壊され、跡地は高校になった(*1)。

図2 Adelaide Observatory

表1 VIA局の送信フォーマット

(*1)"Adelaide Observatory,1940" https://www.experienceadelaide.com.au/photo-library/old-buildings-of-adelaide/adelaide-observatory-1940/

 
 (b) Melbourne VIM

図3 メルボルンの地図

 VIM局の位置を調べると、メルボルン市内のMelbourne天文台を示す。VIM局は天文台から報時信号を発していたと思われる。『理科年表』第2冊(1925)では緯度が37°50'Sとなっているが間違いである。天文台の創設は1863年である。報時の開始は「第2冊(1925)」によれば1917年となっている。周波数500kHzで2:00と14:00に送信が行われた。送信周波数や送信時刻、送信フォーマットはVIA局と同じである。

図4 メルボルン天文台 図5 VIM局のアンテナ

 (c)Perth VIP

図6 パースの地図

 VIP局の経緯度を調べると、パース市内のWireless Hillという場所を指す。ここにはWireless Hill Museumという博物館があり、建物はかつてApplecross Stationと呼ばれた無線局が使用していたものである。この局は1912年9月末に開局し、1968年に閉局した。おそらくこの局がVIP局だったと考えられる。現在は"Wireless Hill Museum"として1979年にオープンした。建物は元無線局のエンジンルームである。

図7 Wireless Hill Museum

 『理科年表』第2冊(1925)には報時の開始は1918年とある。VIP局は周波数500kHz、3:00と15:00に報時信号を発した。「第3冊(1926)」以降は送信時刻が1:00と13:00になった。送信された信号のフォーマットを表2に示す。

表2 VIP局の送信フォーマット

 (d)Sydney VIS

図8 シドニーの地図

 VIS局はシドニーのNew South Wales、Pennant Hillsにあった。この局はPennant Hills Wireless Stationと呼ばれ、1912年8月に開局し、1927年2月に閉局した。この局の業務は同月に開局したLa Perouseが引き継いだ。報時信号の開始は1926年からとなっている。Sydney天文台の管制の下、1日2回報時信号を発した。『東洋燈臺表』1927年版によれば、周波数は500kHz、3:00と11:00に信号を発した。送信信号のフォーマットを表3に示す。

表3 VIS局の送信フォーマット

 シドニー天文台は1788年に設立された。その後、都市化の影響で天文台の業務が困難になり、1993年、施設は博物館や教育施設として使用されている。


図9 シドニー天文台 図10 VIS局のアンテナ


【図の出典】
図2 Adelaide Observatory https://www.experienceadelaide.com.au/photo-library/old-buildings-of-adelaide/adelaide-observatory-1940/
図4 メルボルン天文台 https://asv.org.au/mo
図5 VIM局のアンテナ https://bpadula.tripod.com/australiashortwave/id18.html
図7 Wireless Hill Museum GoogleMapより
図9 シドニー天文台 Wikipedia(英語版)"Perth Observatory"
図10 VIS局のアンテナ https://telegramsaustralia.com/Forms/Overseas/AWA/Coastal Radio/Stations/Sydney.html
他は筆者作成

 
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