戦前の中国の報時局     2023.5.22
 (a)中国~上海 CFS・FFZ 

図1 上海地図

 『理科年表』によれば、上海の報時局の歴史は古く、1917(大正6)年に開局とある。中国はアヘン戦争に敗れ、1842年に南京条約を結び、上海に英米仏日の租界が開かれた。1872年にフランス人宣教師たちによる観象台(天文台のこと)が徐家滙(Xu jia hui)に開設された。報時局FFZはここから電波を送出した。所在地は上海市蒲西路221号であった。しかし『東洋燈臺表』1920年版では、報時はSociété Française Radio Electriqueが送出していたとある。同書「1924年版(上)」からはFFZになっている。Société Française Radio Electriqueは、1910年に創業されたフランスの無線関連機器の製造会社で、その上海支店と思われる。ここから電波が送出されていたことはありうることである。なぜなら、その後上海に民間のラジオ放送局が林立するのだが、その最初のラジオ局は"中国無線電公司"、通称"奥斯邦電台"(Osborn Radio Station)という局で、Osbornというアメリカ人が設立したものだった。Osbornは中国無線電公司という会社と"大陸報"という英字新聞を発行していた(*1)。このように外国人による放送局が1923年頃から次々と出てくるのである。Société Française Radio Electriqueからの送信は、その後徐家滙天文台からの直接送信に変わったのではないかと考えられる。

図2 創設時の上海天文台

 Société Française Radio Electriqueからの送信フォーマットは表1の通りで、この中にコールサインが"CFS"とある。送信周波数は不明。送信時間は14:54~14:59であった。

表1 CFS局の送信フォーマット

 FFZの送信周波数は当初500kHzであったが、1930年頃には461kHzと短波12820kHzが使われ、1935年頃に元の500kHzと短波8333kHzとなった。送信は3:00と9:00の送信であった。送信フォーマットを表2に示す。『日本無線電信呼出符号表』(J.W.O.A、1936)の無線報時信号の欄に、XZWというコールサインで天文台から短波12.295MHzで送信されたとあり、長波500kHzでのFFZがフランス租界から送信されたのとは別の局が存在したようである。送信時刻はXZWはFFZと同じである。XZWという局は他の資料には記載がない。

 日中戦争で日本軍が上海に進出した1937年以降、これらの報時局は停波したものと思われる。


表2 FFZ局の送信フォーマット

(*1)「民国時期上海広播電台一覧表」上海地方志辨公室 https://www.shtong.gov.cn/difangzhi-front/book/detailNew?oneId=1&bookId=4510&parentNodeId=63808&nodeId=12104&type=-1(2022.12.9閲覧)

 
 (b)中国~北平(現北京) XPK 
図3 北京の地図

 北京の報時局XPKは1926年の開設である。蒋介石率いる中華民国政府が南京を首都と定めたことから、1928年以降北京は北平と呼ばれた。XPK局の所在地は、現在の北京電視台(北京市朝陽区建国路甲98号)のあたりである。周波数214kHzで、1:00と11:00に送信された。送信の予備信号として"Peking time signal"を3回送信し、表3のようなフォーマットで送信が行われた。

表3 XPK局の送信フォーマット
 
 (c)中国~青島 XOR(XORT) 

図4 青島の地図

 青島は、1898年にドイツが租借地とし、膠州湾はドイツ東洋艦隊の母港となった。同年にドイツは気象観測のために観象台(天文台)を設置し、1905年に関郷山頂に移転した。現在は観象山公園となっている。所在地は青島市南区観象二路21号。青島天文台は、上海の徐家滙天文台、香港天文台と並び極東三天文台と称された。1914年に第1次世界大戦に参加した日本により青島は日本の占領下に置かれたが、1922年に中国政府に返還された。1937年に日中戦争がはじまると、1938年1月に青島は日本軍によって占領され、天文台は日本海軍の管轄となった。これが太平洋戦争終了まで続いた。

 報時局の開設は1928年である。青島天文台は1926年と1933年の万国経度測量に参加しているので、そのため報時局が開設されたのではないかと思われる。周波数は短波6818kHzを使用し、0:30と10:30に送信した。時報は、CQに次いで"Tsingtao time signals"を3回送信し、その後表4のようなフォーマットで時報が送信された。

図5 青島天文台

表4 XORT局の送信フォーマット

【図の出典
図2 上海天文台WebPage(英語)より
図5 Wikipedia(英語版)"Qingdao Observatory"

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