戦前の香港の報時局     2023.5.23
 (a)Stonecutters Island BXY  

図1 香港の地図

図2 香港の尖沙咀地区地図

 イギリスは1840年のアヘン戦争で香港島を取得し、1856年のアロー戦争で九龍を取得した。イギリス占領下の1883年に香港天文台は設立された。香港天文台の主な仕事は、船舶の安全な航行のための気象観測であった。天文台の建物は九龍地区の尖沙咀(Tsim Sha Tsui)に建設され、この建物は現在「一八八三大楼」と呼ばれている。

図3 香港天文台「1883大楼」

 報時放送は1919年に始まった。BXYというコールサインで、1:00と14:00に波長1000m(300kHz)で放送が行われた。局の場所はStonecutters Island(中国名は昴船洲)という九龍地区の西側にあたる。当時"B"ではじまるコールサインはイギリスに配分されていたので、この局がイギリスの局であることがわかる。BXY局は1926年頃に周波数を150kHzへと変更している。そして1929年頃になるとこの局の記述がなくなり、代わりにVPSという局が『理科年表』に掲載されるようになる。ところが『東洋燈臺表』では、1920年版~1922年版までVPS局が掲載されており、1924年(上)版と1924年(下)版にBXY局が掲載されている。途中の版がないので経緯は不明だが、1930年版に再び香港が掲載されたときにはVPS局のみとなっている。すなわち、BXY局とVPS局は並行して存在していたと考えた方がよさそうである。
表1 BXY局の送信フォーマット

 
 (b)Cape D'Aguilar VPS 
 VPS局は、Cape D'Aguilar(中国名は大龍頭)という、香港島の東南端から送信された。送信周波数は、BXYと同じ150kHz、放送時間は2:00と13:00である。1913年の国際呼出符字列(修正第3号)をみると、VPA~VSSまでが自治権を持たない英国植民地に割当とあり、これに該当する。VPS局は1931年頃に送信周波数を103kHzに変更している。『東洋燈臺表』1920年版に掲載されているVPS局の報時フォーマットを表に示す。送信時間は『理科年表』のものと異なっている。「第14冊(1938)」以降は『理科年表』の記述が"主な報時局"に変わったため、それ以後香港は記述されなくなった。

表2 VPS局の送信フォーマット

【図の出典

図2 GoogleMapの図に筆者が追記
図3 香港天文台「1883大楼」 香港天文台のwebページより

 
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