戦前のベトナムの報時局 2023.5.24 |
(a)Kien-An HVB(FRK) |
図1 ベトナムの地図 1887年、清仏戦争の結果締結された天津条約で仏領インドシナが成立した。これらの報時局にHではじまるコールサインが割り当てられているのはこのような事情による。HOA~HZZのコールサインは、1919年頃~1924年頃までの配分表ではフランスとその植民地に配分されているが、1932年のITUの配分表には掲載がない。1930年頃にコールサインがHVBからFRKに変更されたのはこうした事情があるものと思われる。 Kien-Anは、ハイフォン市南西の郊外にある地区の名称である。同局の開設年は不明。『理科年表』第2冊(1925)には、周波数250kHz、2:15送信とある。翌年には500kHzに変更、「第5冊(1929)」になると263kHz、3:00送信となった。翌年再び500kHzに戻っている。 同地にはフーリエン天文台(Dài Thiên văn Phù Liên:20°47'29.9"N、106°36'32.3"E)がある。ウェブサイトによれば、同天文台はフーリエン山(海抜116m)に1902年に開設された。近くの山頂にレーダーサイトがあるが、図2B-11の古い建物が天文台と思われる。この天文台は2002年末にはベトナム天文博物館として開館し、古い天文機器や資料の展示が行われているようだ。 図2 フーリエン天文台 『理科年表』第10冊(1934)からは、Kien-Anとは別にPhulienから短波8570kHzでの送信となった。送信時間は同じ3:00である。コールサインはFRK1となっているので、同じ局という扱いだろう。『東洋燈臺表』1924年(上)版では、ここはKien An(Fu Lien)という表記になっている。以後、「1931年版」まで同じである。これらは経緯度が微妙に異なるので同一地とは言い切れないが、設備等を考えると短波の方は天文台から発出されたのではないかと思われる。「1927年版」に掲載されていた送信フォーマットを表1に示す。 表1 HVB局の送信フォーマット |
(b)Saigon(現Ho Chi Minh) HZA(FZA)・FZG・FZR(FZS) |
『理科年表』にある経緯度で調べると、局の所在地は市内中心部にある。HZA局の開局は1924年、14.4kHzで21:30の送出であった。送出時間は1926年に19:00に変更される。「第5冊(1929)」では周波数17.9kHzが追加された。1929年1月コールサインが変更され、周波数も18.9kHzとなった。『東京天文台 無線報時史』によれば、FZA局の長波は1934年1月末に停波した。FZG局の開局は1929年である。12097kHz、19:00の送出であった。FZG局は「第7冊(1931)」以降は記載がない。同じ1929年に開局したFZR局は、15957kHz、15385kHz、12043kHz、7979kHzのいずれかの周波数を使い、送出時間は19:00となっている。その後、「第11冊(1935)」からはFZR2となり、周波数も9620kHzのみとなった。この局は「第12冊(1936)」でFZR3となり、「第18冊(1942)」まで掲載されていた。ただ「無線報時史」では、1930年~1936年3月までは9520kHzで、1936年6月~1941年6月までは9620kHzとなっている。実際の受信記録なので、こちらのほうが正しいと思われる。『東洋燈臺表』1931年版に掲載されている送信フォーマットを表2に示す。 表2 FZA/FZR局の送信フォーマット 【図の出典】 図2 フーリエン天文台 https://thienvanhanoi.org/dai-thien-van-phu-lien-hai-phong/ |
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