周波数比較実験無線報時 
<BACK>  update:2024/12/23
1.はじめに
 無線通信の黎明期には、自身が発射している電波の周波数ついてはそれほど気にする必要はなかった。しかし持続的な電波の発射が可能になり、無線局が増加するようになると、混信という問題を引き起こした。定められた周波数の電波を発射することが求められるようになり、これは必然的に発射周波数を測定する機器の必要性を高めた。『日本無線史』によれば、1918(大正7)年に海軍が周波数標準を作成し、各工廠の周波数測定器を校正したのが、日本における周波数測定の嚆矢とされる。

 この頃、海軍をはじめ、陸軍、逓信省はそれぞれ独自に周波数の測定を行っていたが、これを統一的に行うこととなり、「昭和三年より同十二年の約十年間に亘り文部省学術研究会議を中心として、逓信、陸、海軍三省の標準電波計を九回に亘り定期的に比較実験を行」った(*1)。最初の2回(1928年、1930年2月)は水晶発振器を各所に持ち回りしていたが、発振器の移動が悪影響を与えたため、第3回(1930年8月)から電波を使用した方法となった。第3回と第6回(1935年2月)は海軍技術研究所平塚出張所より1kHz変調波を発射し比較した。第4回(1934年2月)と第5回(1934年8月)は電気試験所より同様の変調電波を発射した。第7回(1935年11月)と第8回(1936年11月)には検見川送信所から発射された報時信号が使用された。以下は1935年のときのものである。

図1 検見川送信所

2.周波数比較実験無線報時の詳細

 1935(昭和10)年11月25日~29日にかけて上述の比較試験が学術研究会議電波研究委員会の事業として逓信省、海軍省、陸軍省が保有する周波数標準器の比較が行われた。この比較は短時間の変動を研究する目的で行われた。11月25、26日は予備試験に、11月27、28、29日は本試験のために使われた。

 比較の方法は、検見川送信所からの報時信号を受信し、逓信・海軍は水晶時計の、陸軍は音叉時計の比較を行うものである。送信所からは周波数225kHz、出力1.5kWの搬送波に1002Hzの変調をかけた信号を発射し測定信号とした。
 発射電波のスケジュールは以下のようであった。(時間はJST)

 15:55~15:58 音声によるアナウンス
 16:00~16:01 報時
 16:05~16:40 連続変調(測定器調整のため)
 17:00~18:00 変調周波数測定
 18:15~18:16 報時
 19:00~19:01 報時
 19:02~19:05 音声によるアナウンス
  注(1)報時は1002Hzの変調波をクロノメータで断続したものである。
   (2)報時開始60秒前から10秒前までの間、V符号(・・・-)を送り、開始5秒前より報時信号を送り、70秒間継続する。
   (3)報時信号のうち分信号の次の信号を0秒とし、0秒~30秒の信号の平均値を測定に使用する。
   (4)各報時の0秒~30秒の各信号に対する修正値は追って知らせる。

 測定電波のフォーマットは図3のようである。測定電波は5分ごとに図3のように変調し、その連続変調時の周波数を測定する。


図2 東京天文台の水晶時計の回路図


図3 測定電波のフォーマット

3.比較の方法

 今回の比較は短時間の比較で、ダブルビート法が用いられたと思われる。図4のように報時信号を受信し検波した低周波信号と、水晶発振の信号をマルチバイブレータで分周し低周波信号にしたものを同一入力すると両者の周波数の差のビート音を聞くことができる。このビート音の山または谷の長さを測定することで、周波数の差を10-6程度まで知ることが可能となる。ただし、一方は電波を受信しその信号を利用することからフェージングなど電波伝搬上の問題を抱えており、安定した信号を使用するのはかなり難しいこととなる。

図4 ゼロビート法のブロック図

4.おわりに

 こうした活動があって、1936(昭和11)年に通常議会で標準電波発射施設の建設が認められ、1940(昭和15)年1月30日に検見川送信所より最初の標準電波(JJY(4MHz)・JJY2(7MHz)・JJY3(9MHz)・JJY4(13MHz))が発射されたのである。

(注)
*1:『日本無線史』第10巻(海軍無線史)P316、このときの9回の比較については『日本無線史』第3巻(無線研究史)P287~288に記載がある。

【図の出典】
図1 検見川送信所 https://20thkenchiku.jugem.jp/?eid=210
図2 東京天文台の水晶時計の回路図 『天文月報』NO.32 2号,P29
図3 測定電波のフォーマット 『天文月報』NO.32 3号,P47
図4 ゼロビート法のブロック図 『日本無線史』第2巻、P435

【参考資料】
・『東京天文台 無線報時史』第1部(沿革、利用編)、天文時部経度研究課、1960.2
・『日本無線史』第2巻(無線技術史(下))、電波監理委員会、1951.2
・『日本無線史』第3巻(無線研究史)、電波監理委員会、1951.2
・『日本無線史』第10巻(海軍無線史)、電波監理委員会、1951.9
・橋元昌矣「水晶時計について(Ⅱ)」『天文月報』NO.32 2号、1939.2
・橋元昌矣「水晶時計について(Ⅲ)」『天文月報』NO.32 3号、1939.3

(OG)
 

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