ICOM IC−R75 モニターレポート Do
(1999年2月発売、定価89800円)















(モービルワッチで運用中のIC-R75)

☆89800円のノスタルジー

 3DK社宅の子供部屋スペースを確保するために、手持ちの受信機を整理して統合することにし、いくつかの受信機を放出して得た資金で、小型軽量、モービルワッチにも使えそうなIC-R75を購入した。
 
 個人的には、BCLを始めて間もない頃に売り出されたTRIO R-1000など89800円の受信機に対するあこがれがあり、当時の私の資金力では届かなかったこともあって、今回同じ値札を下げているIC-R75を入手するのは感慨深いものでした。

☆気になる受信音と操作フィーリング

 「外部スピーカーが前面に出ているタイプのものは、音質に配慮された受信機だ」という先入観があるが、たとえばAR3030の前面グリルはダミーで、実際のスピーカーは下側に開口している。

 しかしAR3030は、その内蔵スピーカーでもそこそこの音を出すのに、IC-R75の前面スピーカーの音は硬く、ノイズの聞こえ具合もコーコーカーカーと強調してしまう傾向があり、最初は好感が持てなかった。ヘッドホンを通じて聞くと、満足しないまでも納得はする程度の音になる。しかし、ヘッドホンでもNHKの「音の風景」でSLの音などを聞くと、まるでシンセサイザで作った人工音のように感じられた。

 この内蔵スピーカーのレベルでは、店頭展示の試用で減点されてしまうので、不利だと思う。ほとんどの通信型受信機は、外部スピーカー使用を前提にしているけれど、R75は特によくない。

 一方でノイズレベルすれすれの信号の了解度には、ヘッドホン時は有利な音のようだ。AR3030との比較では、中程度から強い信号の聞き取りはAR3030が有利、弱震号にはIC-R75が有利と思った。一口に「了解度重視の音」といっても漠然としていてわかりにくい。ノイズすれすれの局をSSBゼロビートで聞いていて、すっとダイアルをずらしてビートを聴いてみると、あれ、こんだけしかビートが取れないのに、これだけ聞こえているの?という印象があった。

 あくまでAR3030と比較してのことだが。

 操作フィーリングは、ダイアルノブがこちらの意思によく追従して広範囲のサーチがしやすいこと、モードボタンが各モード独立しているのは使いやすいが、同じ大きさのボタンでフィルター切り替えやチューニングステップ切り替えも並んでいるのは誤操作しやすい、全体にラバータッチのキー類はぐにゃぐにゃしていてよい感触でないが、二重押しなど不具合はない。

 小型化のわりにファンクションキー併用のダブルキーはあまりないが、同一キーでも、短いタッチと長いタッチで異なる機能を行うものもあり、慣れるまで時間がかかる。

☆受信フィーリング

 受信感度はPRE-AMPを2段階に切り替えられ、申し分ない。ほとんどの受信ではノーマル状態で使い、ハイバンドで弱い局を受信するときにPRE-AMPを使う。中波感度は抑制されているが、PRE-AMP併用で感度を上げることはできる。

 ノイズレベルすれすれの局が、ノイズにからまず埋もれず、きちんと音になってくれる印象がある。その音自体には、好みがあると思うが、オプションフィルターの装着で特にSSBゼロビート受信の印象はかわってくる。

 私は9MHz用の2.8kHzと455kHzの3.3kHzをそれぞれオプションフィルターとして組み込み、この2つの複合帯域をSSB-Wideとして使っているが、SSBゼロビート時に受信視野が明るくなり、受信対象の特徴がつかみやすくなった。

 AGCは不自然な挙動はしないが、AMでFASTとSLOWの差が少ないように思う。特にS-9以下の領域で、FASTとSLOWの違いが薄く感じる。AMの公称6kHzの帯域と、ナローの2.4kHzの帯域は落差が激しく、両者の中間がAMナローとして適当と思っていたが、3.3kHzフィルターがこの役割を果たしてくれている。

 選択度が悪いわけではないけれど、16mbのようにわりと静かなバンドで超強力局(たとえばVOAなど)が出現すると、かなり広い範囲(上下60kHzくらい)で妨害を受ける傾向が強い。PRE-AMP OFFでの話し。ATTを操作すれば軽減されるが、ATT自体も20dBのシングルステップで使いにくい。
 むしろ、60mbや90mbなどは、超強力局というのが少なくなってきているので、快適に受信できる。

 妨害に弱いと言えば、NBは31mbなどでは必ず歪んでしまい、使えない。13mbなどでは有効なこともある。また、AGC-OFFできるのはこのクラスでは珍しく、空電が騒がしい90mbや60mbで有効活用したいところだが、RF-Gainをかなり絞ってみても、空電によるブロックから逃げられない。ガラガラガッシャーンと抑圧されてしまうところをAGC-OFFでビシッ、バシッくらいに軽減してジャブのようにさばくのが理想だが、R75では空電がボディブローのように効いてくる。それでもないよりはいいが...

 TWIN-PBTは目玉機能で、他社で言うBWC、スロープチューン、IFシフトの3動作を兼ねている。私はIFシフトとしてだけ使っており、帯域幅は狭めない。ノーマルの2.4kHz帯域でSSBゼロビート受信するときは、IFシフト操作をしないと受信音が不自然なままだが、2.8kHz + 3.3kHzの複合フィルターを使うとPBT固定のままでも納得のいく音になる。

 なお、受信音を以下のアドレスにアーカイブしているので、興味のある人は試聴してみてほしい。

http://mav.nifty.com/ahp/textview.cgi?nodxc+14100+225
http://mav.nifty.com/ahp/textview.cgi?nodxc+14100+232


☆モービルワッチ運用

 AR3030と交替してモービルワッチ運用に持ち出してみた。

 ダイアルノブひとつで60mbの下から上まで自在にサーチできるのは気持ちがいい。3030では10キーに頼りがちだったバンド内の移動も、ダイアルノブで軽快にさばける。

モービルワッチは1,2時間程度でできるだけ多くの範囲をチェックしてまわるスクランブル的な受信になるので、ダイアル操作感の良さは大きなポイント。

 一例としては5/27の19時過ぎ、4815kHzのR.Dif de Londrinaの好調ぶりから、4775kHzのR.Congonhasをチェックしてブラジルの開け具合を確かめようとしたとき、AR3030だと10キー移動するところを、R75ではダイアル移動で迅速に動けるため、途中の4804.98kHzのR.Dif.do Amazonasの入感に気づくことができた。

 AR3030は頻繁にダイアルステップを切り替えないと周波数移動がしにくいし、ダイアルノブそのものの感触も悪い。R75は10Hzステップ時に早回しをすると自動的に50Hzステップに切り替わって5倍速になるが、この感知も過敏でなく鈍感でもなく、ちょうどよい。目的周波数に近づいて減速するとちゃんと10Hzステップに戻る。

 それに、AGCもきちんと追従するタイプで、弱い局がいてもビートをひっかけて気づくことができる。

 内部スピーカーで気になるノイジーな音声も、ヘッドホン聴取では落ち着いた感じ。ハイバンドの弱い局をAMやSync-AMを使って聞くのもいいが、この受信機はSSBゼロビートをもっとも得意にしているし、1Hzステップを使ってゼロビートをぎりぎりまで追い込むこともできる。
 
 これらはモービル運用でなく机上運用でも同じことだが、モービル運用に独特の条件としては、@自家用車(カローラワゴン)のハンドルとメーターバイザーの2点支持できっちり収まるサイズ、A最大1.5A、シガープラグから電源をとっても動作に不安のない消費電流の2点がメリット。サイズはAR3030とほぼ同じ容積だが、R75が背丈がやや高く、奥行きが浅い。

 シガープラグ給電での運用については、二股プラグを使ってR75とAR3030を同時に稼働させ、かつ車両のパワーウインドウを2箇所操作してみたが、異常はなかった。定格上はIC-R75が1.5A、AR3030が0.8A。

 AR3030とばかり比較していても仕方ないが、ギリギリの弱い局の了解度ではR75が優り、ダイアルサーチでも有利なので、夕方のブラジルのように短時間で多くの入感局をさばく受信には適性を発揮しそう。しかしAR3030のmbごとのラストメモリー、2VFO機能はR75にも欲しいと思う。

 その他、モービル運用で気になることは、夏の朝だと黒い筐体が吸熱しやすいこと、個人の好みもあるが黒ずくめにオレンジ色のバックライトは、ドラマ「漂流教室」に出てきた未来人類を連想させて薄気味悪いこと、車内でヘッドホンを使うのは了解度や集中度はともかく、圧迫感があってイヤだからスピーカーの音をちゃんとしたモノに改善してほしいことなどか。

 あと、強入力に対してタフという印象はない。プリセレやアッテネーターでアシストしてやる必要を感じた。特定周波数関係のイメージ妨害、内部スプリアスは今のところ見つかっていない。第3局発の漏洩は9.46MHz付近でそれらしいのが聞こえるが、ごく弱い。

☆目玉機能について

 TWIN-PBTを標準で機能させているのは好ましい。これは第二IFの9MHzと第三IFの455kHzにそれぞれフィルターを装備し、局発を別個に調整することで実現しているが、2.4kHzの場合は9MHzのクリスタルフィルターと455kHzのセラミックフィルターの二重フィルターとなって、切れが非常にいい。

 サイドバンドのキャリアリークは、AR3030などと比べて明らかにランクが上である。

 他社のこのクラスは、みな455kHzのセラミックフィルターひとつで済ませているので、R75は豪華構成と言える。ICOMとしては9MHz IFのフィルターをオプションとすることで同じ値段のままでTWIN PBTをオプション機能としても、他社機に能力上はヒケを取らないが、TWIN PBTを標準で装備したのはDX派にとってうれしい。

 日常のほとんどはIFシフトとしてのみ使用しているが...

 第二、第三IFにはそれぞれオプションフィルターをひとつずつ追加でき、このラインナップは250Hz,350Hz,500Hz,1.8kHz,1.9kHz,2.8kHz,3.3kHzと選択肢が広い。形状やインピーダンスが同じフィルター、たとえばFL-102(9MHz 6kHz)やFL-44A(455kHz 2.4kHz)なども装着可能と思われるが、装着した場合でもその選択肢をそのまま受信機の帯域表示上で選べるわけではなく、追加フィルターの認識は、指定の純正モノに限られる。

 だから、FL-44Aを装着するときは、FL-96だと偽って受信機に登録し、表示上は2.8kHzのフィルターとして選択しなければならないし、6kHzフィルターとして装着するFL-102も、同じくFL-103と偽って2.8kHzフィルターとしてAM-Nで選ぶことになる。

 面倒くさいけれど、昔のTS-690に1.8kHzフィルターを装着したとき、表示上は500Hzとされたのに似ている。また、NRD-535のようにAUX.WIDE INTER NARの4ポジションにしたほうがわかりやすいようにも一見思えるが、状況に応じて9MHzと455kHzの各フィルターを別個に選択して、選択肢を増やすことができ、各モードごとにWide Normal Narrowの3段階が常時選択できる。

 ちなみに、NormalとNarrowがNで重なるため、Normal時はパネル上にシンボル表示がされない。JRCがInterを使っているのでそれを避けたのか。MiddleのMでもいいと思うが、昔からICOMはNormalという表現を使っている。

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フィルター取り付けのため天蓋を外した様子      フィルター周辺のアップ

 

 私は、最初455kHzIFの2.8kHzフィルター、FL-96を注文したが製造打ち切りということで在庫がなく、455kHz IF 3.3kHzフィルターと9MHz IF 2.8kHzフィルターを注文した。

 この両者の値段が約22000円で、IC-R75は本体のディスカウント価格と合わせて、フィルター2本込みで約10万円だった。

 DSPオプションは使っていないのでノーコメント。1Hzステップは滑らかでいいが、滅多に使わない。

 101chのメモリーに特に目新しい機能はないが、空chはBLANKと表示されるので、空きchを探してうろうろする必要がない。バックライトの照度、CWピッチその他、ユーザー設定機能が多く用意されていて呼び出しができるようになっている。

 メモリーにタイトルが入れられるのはいいが、タイトルと周波数と両方が表示できるようにしておいてほしい。そうでなければ意味が半減してしまう。時計が呼び出し表示で、周波数と並べて表示できないのは惜しい。時計そのものの精度が月差75秒とやや悪いが、
バックアップ電池により、モービル運用やペディ持ち込みでも時刻データが保持されるのはけっこうな点。

☆総括

 新品の通信型受信機購入は、7年ぶり。89800円という値段でこれだけの機能を持った受信機が売られるようになったか、という感慨もあるが、一方でやはり89800円は89800円で、格差はあるなとも思う。

 20年前のR-1000クラスよりはるかにDX能力に長けていると思うが、CRF-1と比較すると格の違いを見せつけられてしまう。

 私が感じただけかもしれないが、「89800円」という値段に惹かれたところが非常に大きい。この値段はまた、長いことBCLから離れていた人が、新規に受信機を購入して復帰しようとするとき、くすぐる線かもしれない。数年前までは、この価格帯にAR3030,FRG-100,NRD-345などが割拠していたが、こういう「復帰組」をターゲットにした価格帯かもしれない。

 BCLブーム世代も40歳前後に達していて、可処分所得的には厳しい時期にあると思う。15万のAR3030+や20万のNRD-545にすぐ手が出るかどうか?
 
 個人的な用途としては、今後はモービルワッチの主力機種として活用していく予定。5/27には3279.5kHzのLa Voz del Napo,4805kHzのR.Dif do Amazonas(いずれも推定)が受信でき、DX適性は確認できている。また初期インプレッションは、えてして修正されがちなので、次回は購入から1ヶ月をすぎての印象の推移をフォローしたい。 


IC-R75,その後   PBUTT18.GIF (2642 バイト)