ICOM IC−R75、その後 Do
(1999年2月発売、定価89800円)


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早朝モービルにてBenin局を1Hz単位まで追い込むR75

★その後、気づいたこと、分かったこと

 魚屋さんに紹介いただいたYahoo! EgroupのIC-R75専門エリアは非常に有益な情報の宝庫である。
http://groups.yahoo.com/group/icomr75/messages

 ここでいくつかの情報を入手し、また私からも使用感想の一部やモービル運用、AN-1との接続方法などを紹介しておいた。

・TWIN-PBTの動作ステップ
 海外バージョンの説明書をegroupでダウンロードしたところ、動作ステップは15Hzあるいは3Hzで、15Hz時は+/-1.29kHz、3Hzステップ時は同258Hzの範囲で可変可能、ということらしい。

 3Hzと15Hzのステップは、使用するフィルターによって自動的に切り替わるそうだが、
標準指定以外のフィルター、たとえばSSB用FL-44AをFL-52などCWフィルターと偽って無理に装着すると、FL-44A使用時にPBT動作範囲が258Hzに制限されてしまう可能性もある。その場合は、FL-44AをFL-96やFL-257と偽って登録するのが得策だが、めんどくさいソフトウエア上の制約である。

・海外バージョンとの違い
 日本ではオプション扱いのDCケーブルOPC-869が、あちらでは標準装備品らしい。ただしそうでない場合もあるようだが。製品仕様の違いではないが、海外バージョンの説明書には、モービル運用時に「動作中はエンジンをかけておくこと、そうでないとバッテリーがあっというまに消耗してしまう」と警告されている。この警告は日本向けの説明書には記述されていないが、特にアメリカにおける社会背景の違いによるものかもしれない。

 AR3030での経験では、2時間程度の連続モービル運用をエンジンオフで行っても、エンジンの再始動には全く問題なかった。AR3030は0.8A、IC-R75は1.1〜1.5Aと違いがあるが、R75のモービル運用でもエンジンの再始動には問題ない。もちろん車のバッテリー消耗に全く影響がないとは思えないので、定期的にバッテリー液の点検補充をしたり、モービル運用中にも、ワッチを小休止してエンジンをかけ、バッテリーを回復させるなどの措置は必要だと思う。

 最近、ブースターケーブルを使った簡単な配線で、自動車のバッテリーから直結でR75に給電したところ、シガープラグ給電時に感じた一部周波数帯のノイズが解消された。しかしこれはAN-102を使ったときのことで、AN-1やモービルホイップ時はもともとこれらノイズをほとんど感じない。

★R75のメモリー活用

・メモリー入力
101chの容量のうち、購入後1ヶ月半で50chを使用中。朝夕の自宅ワッチや、モービルワッチにおいて、常にチェックする局や入感状況の目安になる局、440Hz基準ビートを発生するための局などを入力している。

 メモリーを一周して全体のコンディションをつかみ、良さそうならダイアルサーチでバンドをさぐるのが私のスタイルとなっている。コンディションがよくないと分かったら、入感局のうちよい状態のものを選んで、番組内容やアナウンスの出方、使用言語など普段は駆け足でとばしている部分をじっくり聞くようにする。5030kHzをR.Burkinaとして記録していても、夜中01時頃にこのメモリーを通過するとき、CPBSがガンガン入感していて、こんな遅い時間までやっていたか?と気づかされることがある。

 R75では、PREAMPやフィルターはメモリーできるが、AGC,NB,チューニングステップはメモリーできない。これらは必要に応じてユーザー主導でその都度設定するべき、という考えなのだろう。1Hz桁のメモリー記録はできないが、特に問題とは感じない。

 メモリーチェックの時間とダイアルサーチの時間は3:7か4:6くらいに考えているが、これはワッチの時間がどの程度確保できるか、ということとも深く関わる。モービルワッチに出かけて、メモリーchをざっとチェックして時間切れ、ということもある。

 また一方で、中南米局は浮沈が激しく、4月に聞こえた局が5月に聞こえないこともよくあるが、忘れた頃にまた復活、ということもある。本人が忘れても受信機の側が覚えていてくれる、というメリットもある。また、オフバンド局でもよく聞こえるものが増えてきているので、ダイアルサーチだけで3200kHzから7000kHzまで全部網羅できない。そうなるとAR3030やIC-R75のように100chクラスのメモリー数ではアフリカと中南米だけでもch数が不足してくるし、現在あと50ch空いているR75のメモリーも秋シーズンまでにはたぶん飽和してしまうだろうが、不足分を外部PCで補おうとは思わず、脳内メモリーを活用することになるだろう。

・R75のメモリー操作
 MWボタンによるワンタッチ記憶式でシンプルだが、誤操作でメモリーを上書きしてしまう懸念もある。呼び出しは、アップダウンキーの他に10キー経由でダイレクトアクセスも可能だが、440Hzビートchなどよく使うところは覚えやすい一桁台に持ってきている。辻井洋一氏のように250Hzの絶対音感があれば不要な機能になるが、ビート比較法には受信機の表示偏差をキャンセルできる効能もあるため、私はこの方法に依存している。

 ただし基準ビートを取り出す対象局に周波数誤差があれば無意味。また、なるべく同一mb内で比較しないと受信機側の偏差が大きくなってしまう。

★SSBゼロビート受信

 5050.06kHz R.TanzaniaをUSBゼロビート受信でメモリー記録させていたが、この1ヶ月の間に周波数が5050.10kHz付近へ動いて、40Hzほどのビート音がぶぅーんと聞こえるようになった。

 ちなみに、標準の2.4kHz帯域と内蔵スピーカーでは40Hzのビートは足切りされて聞こえない。オプションの3.3kHzフィルターを使ってキャリアポイントを帯域内に収めること、またオーディオ用ヘッドフォンを使うことでこの低域ビートが聞こえてくる。

 この種のビート音が出ることを嫌って、SSBゼロビート受信を忌避する方もいらしてだが、これで数十Hz差の入感局の存在に気づくこともあるので、私のスタイルからは気に入っている。

 ただしIC-R75に使える3.3kHzフィルターは、FL-257という455kHzのクリスタルフィルターで、定価16500円もする。R75本体の1/5に相当するので、割高感はあるが、広めのAMナローとしても使えるので、おすすめのオプションではある。

 なお、この3.3kHzとセットで使う9.01MHz用フィルターとしては、AMナロー、SSBスーパーワイドとしては6kHzのFL-102、SSBワイドとしては2.8kHzのFL-103が好ましいと思う。残念ながらFL-102は、R75純正指定ではなく、別のフィルターと偽って品番登録しなければならないし、純正指定の装着機種だったIC-775DX2が絶版したことで現在はカタログ落ち、店頭在庫限定になっている。FL-103はSSBセミワイドとして使える2.8kHz帯域だが、純正の2.4kHz FL-272とそれほど違いがないのが残念で、7000円の投資に見合う満足感が薄い。

 R75購入時には、DSPユニットとこの3.3kHzフィルターをこみで、値引き交渉によって税込み10万を楽にきるだろうし、魚屋宗五郎さんからの情報では、すでにショップによっては本体価格も7万を切る例があるようだ。

・SSBゼロビート受信のメーカー推奨
 BCLの側ではポピュラーな手法であっても、メーカー側で取り扱い説明書等で推奨することはほとんどない。R75も同様だが、ICOM全体で見れば、最新鋭のDSP機IC-756PROの「裏技」として、「AM局をSSBモードで片サイドバンド受信するテクニック」が紹介されている。

 これぞSSBゼロビート法だが、詳しい説明は、ICOM社iuseページから引用すると、次のとおり。

<使用例3>AM 放送を快適に受信するテクニック
  HFトランシーバーで混信やノイズの多い放送波を受信する場合、SSBモードで片
  サイドのみを受信するのがよく行われる手法です。これは、受信機としてはAM
  の片サイドをSSBとして受信しているので、混信から逃げやすい手法です。しか
  し、従来のHFトランシーバーの場合、高価なオプションフィルターを入れない限
  りSSBフィルターの帯域幅は、通常2.4〜2.8kHz程度のため、まともな音と
  して受信できません。
  IC−756PROの場合、SSBモードにおける通過帯域幅の設定は最大3.6kHzまで
  広げることが可能です。3.6kHzに設定した場合、フィルターの帯域内にAMのキ
  ャリアポイントが入ってきますので、0Hzに近い低域から、上は3.3kHzまでの高
  域の信号がフラットに聞こえます。SSBで聞いているとは思えないような高音質
  でAMモードの受信が可能、快適なリスニングが楽しめます。

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 これに近いことがR75にFL-257を装着することで実現できるが、ICOM側ではこのことを説明しておらず、Yahoo egroupなどで見るところ、ユーザー側の口コミで伝わっているようだ。

 ICOM社が言うとおり、確かにオプションフィルターは高い。
 しかしR75はこのクラスの通例を破って、多段階のフィルター切り替えやTWIN PBT操作など上位機種でしか得られなかった操作が使えるのは確か。同社のトランシーバーとの回路やオプションの共用がよいほうに出ている面と言える。

★その他

・時計が狂った
 購入直後に時計を合わせたが、なぜか大幅に狂ってしまった。内蔵バックアップ電池が
切れたのかもしれないが。おいおい、新品購入だぜ?モービルワッチ時には、車の時計のほうが正確だし、いちいち呼び出しスイッチを押す必要がないため、R75の時計は全く使っていない。(だから狂っていることに最近まで気づかなかった)

・発熱はけっこうある。発熱の位置からすると、液晶のバックライト照明あたりからか。

・2つあるアンテナ端子のアイソレーションはあまりよくない。ANT2に何もつながない状態でANT2を選んでも、ANT-1側の入力が漏洩している。R-8やR-5000を使っていたとき、ANTスイッチをMUTEスイッチ代わりに使って受信音を消し、他の受信機の音声を聞くなど「目的外」に使っていたものだ。R-7には最初から手動のMUTEスイッチが装備されているが、これは送信機とのコンビネーション時を意識してのものだろう。

 ICOM側でもこのことは認識しているらしく、「ANT-1とANT-2に一度にアンテナをつながないこと」と注釈している。それでは切り替え機構の意味がないが..

・ダイアルの操作性は、依然、不満が生じない。モービルワッチのせかせかした状況下では1Hzステップを使う余裕がなく、1Hzと10Hzの中間の5Hzがあると便利に思うが、それは贅沢だろうか。

・1Hzステップを使ったとき、MEMO→VFO切り替えにおいてごく軽微な、数Hz程度のドリフトが感じられる。ビート比較法によって受信周波数を1Hz桁まで追い込む、マニアックな受信のときだけ感じる問題だが、高安定水晶を装着することで解決するのだろうか?

・最初、少しだけ違和感があったアルファニューメリック表示は、慣れた。デザイン面は好みもあるが、このレポートのトップ画像を参照。

★Yahoo!egroupの楽しみ

 魚屋宗五郎さんに教わったYahoo!egroupの専用掲示板の盛り上がりはすばらしいものがある。IC-R75のこの妙な人気の秘密は何だろうか。それは今後、時間をかけて考えていきたいが、ひとつにはローコスト機でありながら機能や性能面で高価格機種と張れるところに喜びがあるのだろう。私はこのegroup掲示板に都合4度発言をし、5度目の準備をしているところだが、レスは7件(うちひとつはメール)あり、なかなか活発である。

 モービルワッチをmobile operationと称して紹介したところ、USAの方から自分もやりたい、AN-1との接続方法を教えてほしいとレスがあったのはうれしかった。

 直接関係ない話だが「BCLという用語は欧米で使っているのか?」という質問をしたところ、3件のレスがあった。いずれもUSA在住の方からだが、聞いたことがない、あるいはBCBなど近い用語があるがBCLそのものは誤用っぽい、70年代には聞いたことがある、
といった内容だった。

 面白いことに、R75の海外版取り扱い説明書には時計機能の説明項目において、「SWLやBCLのloggingに便利」という記述が登場する。この説明書は、国内版をそのまま英訳したものではなく、あえてBCLという言葉を使っている。「BCLは和製英語だ」という80年代までの通説を破る見解も最近出てきているが、「I enjoy BCL」が海外ですんなり通じるわけではないらしい。

 私の5度目の発言は、「IC-775DX2用の6kHz AMフィルターFL-102をR75に適用できるかどうか」というもので、中古品を入手する目途がたったので、いずれアップしようと思う。

 限られた居住空間の制約から、手持ちの受信機3台を処分し、小型機、モービル可能機に重点を移すべく購入したIC-R75だが思った以上に効能があった。現行機種で他に興味のあるのはFT-817くらいであり、向こう何年かはこのR75で楽しめそうだ。

★総括

 購入から2ヶ月を経過し、その間、15回以上のモービルワッチ運用を行った。モービルワッチが主目的で購入しているが、運用上の決定的な不満はなく、前回レポートから1ヶ月たってむしろ慣れてきて、能率的に使えるようになってきた。

 モービルワッチは望ましいロケーションへ移動しての受信で、かつ小規模なアンテナを使っているので、受信機固有の強入力性能については評価が甘くなる傾向がある。むしろ狭い車内でストレスのないポジションに固定できるか、また操作性は円滑か、ということ、そして低いノイズレベル環境において弱信号の了解度がどの程度か、というのが焦点。

 R75は、内蔵スピーカーの音の悪さをのぞいて、満足している。いずれ不満は出てくるだろうし、AR3030と比べて見劣りするところ、優るところもいろいろだが、このR75を使ってのモービルワッチは楽しいの一言。

 固定で使う場合で、資金的に余裕のある方には、AR7030+やNRD-545をふってこの機種を選ぶ理由があるかどうかは分からないが、遠慮なく使えるサブ機や移動機、またモービル機を考えている方にはおすすめである。


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