香港の時報局(VPS) |
<BACK> update:2022/11/28 |
1.はじめに 香港天文台の創立は1883年に遡る。イギリスは1840年のアヘン戦争で香港島を割譲、1856年のアロー戦争でクーロンを割譲した。つまり、イギリスの占領下で香港天文台は新設されたのである。それゆえ各所にイギリス由来の技術が見られる。香港天文台の建設は、船舶の安全な航行のために、この地での気象観測はぜひとも必要であった。初期の天文台の仕事には、気象観測、地磁気観測、天体観測に基づく時刻の提供とともに台風の予報・警告があった。天文台は、早くから6インチ赤道儀と3インチ子午環を使って地方時の決定を行い、そのデータで時報球を落とした。 図1 香港島の地図と時報局の位置 図2 尖沙咀地区の詳細図 香港天文台の建物は、九龍地区の尖沙咀(Tsim Sha Tsui)に建設され、この建物は現在一八八三大楼と呼ばれている。天文台周辺の地図をみてみよう。香港天文台は地図の中央部にあり、その西側に時報球のあった警察署がある。天文台の南には時報塔のある訊号山公園がある。観光客がよく訪れる香港島は、この地図のさらに南側にある。香港全体の位置関係は図1を参照のこと。 図3 香港天文台の建物(1913年当時)~香港天文台HPより 2.時報球による時刻告知 1885年、天文台に近い尖沙咀警察署の屋上に直径6フィートの時報球(Time Ball) が設置された。この球は毎日12時50分頃になると上に上げられ、13時きっかりに落とされた。国際的な港である香港には多くの外国船が入港する。それらの船の時計の調整に時報球は欠かせないものであった。もちろん市民もこれにより時刻を知った。グリニッジ天文台にも同様の球があるので、このシステムが香港にも導入されたと思われる。この時報球は18 85年1月1日13時(香港時間)からスタートし、1907年まで稼働した。1908年になると、これより南にある訊号山公園に時刻塔が建設され、ここが新しい時報の場所となった。この塔は現在も公園に存在し、9:00~11:00と16:00~18:00に一般公開されている。警察署にあった時報球は水上警察署に移された。 図4 警察署屋上の時報球~香港天文台HPより 3.無線による時刻告知 香港天文台のウェブページをみると、1915年に海上天気予報の無線放送が始まるとあるが、無線報時開始の記述はない。『理科年表』(1925年版)には、香港の無線報時の開始が1919年と書かれている。報時放送はBXYというコールサインで、1:00GMTと14:00GMTに波長1000m(300kHz)で放送が行われたとある。局の場所はStonecutters Island(北緯22°19'18"、東経114度08'40")であるが、1929年になるとこの局の記述がなくなり、代わりにCape D'Aguilar(北緯22°12'39"、東経114°15'19")からVPSのコールサインで放送が行われるようになる(図2参照)。放送時間は2:00GMTと13:00GMTとなり、波長は2000m(150kHz)となった。『理科年表』の記述は、1938年以降は"主な報時局"に変わったためか、香港の記述がなくなった。 香港天文台のウェブページには、無線報時信号の普及により、1933年6月30日に訊号山公園の時刻塔の時報球は取り外されたとある。 図5 記号山公園の時刻塔~Google Mapより 4.WRTHから見た時報放送 1938年以降の香港VPS局の様子は不明である。太平洋戦争の初期に香港は日本軍によって占領され(1941年12月)、日本の敗戦まで維持された。香港天文台のウェブページには、この間、日本の占領によって天文台の仕事が中断されたとあるので、おそらく報時業務も停止されたのであろう。 戦後に香港VPS局の記述が見えるのは、1974年版WRTHの標準周波数時報局の欄である。この時はコールサインの記述はなく、338、5519、8903、13344kHzの4波が掲載され、毎時15分と45分に6点時報が24時間放送されているとある。戦後いつごろに復旧したのかは不明である。 図6 WRTH1974年版より 1980年版のWRTHからは、コールサインVPSが記述され、500、3842、8539、13020、17096、22536kHzと95MHzの7波が掲載された。中波のみ毎時、短波は奇数時の放送である。95MHzはFMを使用し、毎時15分ごとに6点時報を24時間放送した。それまで掲載されていた4波は香港エアラジオの管轄となっている。 図7 WRTH1980年版より 現在、VPS局は運用されていないと思われる。香港天文台のウェブページには記述がない。WRTHの記述は、1997年版まではあったが、それ以降は標準周波数・時報局の記述自体が限定的となったため、追跡ができなかった。 5.6点時報放送 1953年4月11日、香港広播電台から6点時報放送が開始された。この6点時報はイギリスで行われているものと同じものである。イギリスで放送されている6点時報については『会報』NO.494(2021年8月号)で紹介した。1966年になると、95MHzの電波を使って天文台から6点時報が直接送信されるようになった。これは1989年9月16日まで行われた。 6.時報の精度 最初の時報球の時代には、時刻の決定は6インチ赤道儀と3インチの子午環を使用して行われた。戦後になると、振り子時計が設置され、これにより時刻が決定された。当時の精度は1日に0.2秒以内とある。水晶時計が導入されたのは1966年のことで、これで精度は80mS以内となった。1980年には、最初のセシウムビーム原子時計が設置された。精度は1日につき1μS以内と飛躍的に向上した。2004年に、High Accuracy Time Transfer Systemを導入。GPSを使って天文台の原子時計の時刻と比較をするものである。精度は百万分の一秒以下となった。 図8 セシウムビーム原子時計~香港天文台HPより 7.現在の時報システム 現在、香港天文台が管理している時報サービスは以下の通りである。 (1)ウェブによるもの 以下のURLをクリックすれば時刻を知ることができる。 https://www.hko.gov.hk/en/gts/time/clock_e.html (2)RTHKからの放送によるもの 現在行われている放送は次の通り。 (3)電話によるもの (852)1878200 に電話し、①広東語、②普通話、③英語 が選択できる。 (4)ネットワークによるもの 以下のURLにアクセスし,自身のコンピュータと同期させる。 https://www.hko.gov.hk/en/nts/ntime.htm この他に、正規のものではないが、RTHKに送られた時刻信号を使って、RTHKセントラルプラザビルの頭頂部が時刻に従ってカラフルに変化するというものがある。 図9 RTHKセントラルプラザビル 8.住所とウェブサイト 住所:香港特別区九龍尖沙咀弥敦道134A Web :https://www.hko.gov.hk/ (英語・簡体字・繁体字) (OG) |
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