WRTHにみる標準周波数・時報局 |
<BACK> update:2020/09/28 |
1.はじめに ドイツのDXクラブADDXがWorld Radio TV Handbook(以下WRTHと略)の復刻CDを発売したのは2005年末のことである。このとき発売されたCDは1947年〜1958年をカバーしていた。昨年3月にはDVD版が発売され、1947年〜1998年をカバーするとともに、それを4枚のCDとしても発売した。CD版は最初の版に続き、CD2(1959〜1970年版)、CD3(1971〜1982年版)、CD4(1983〜1994年版)という構成である。DVDは149ユーロ、CDは1枚49ユーロとなっていた。 私は最初のCD版を「月刊短波」の2006年1月号で見て購入した。当時、戦前・戦中・戦後初期のラジオ放送について興味を持ち、資料を探していたためである。今回、残りのCD版を入手したので、これらのCDから標準周波数時報局(以下、時報局と略)の部分を抜き出し、記述の変化を追ってみた。 図1 4枚のWRTH-CD 2.WRTHに掲載されている時報局 CDに収録されているWRTHをみると、1948年〜1951年版は通常の構成とは異なっている。すなわち『WRTH1948(May-Nov)』『WRTH1948-1949(Nov-May)』『WRTH1949-50』『WRTH1950-51』のように放送局の放送スケジュールの変更時期に合わせた構成になっているのである。ちなみにWRTHの初期のタイトルは『World-Radio Handbook for Listeners』であり、『World Radio TV Handbook』とTVが入るのは1961年版からである。収録されている中で1948年版だけはデンマーク語版で『Verdens-Radio Haandbog for Lyttere』となっている。この号だけがデンマーク語での出版だったのか、それとも英語版もあるが保存されていなかったのかは不明である。 図2 デンマーク語のWRTH1948年版 この中で『WRTH1947』、『WRTH1948-49(Nov-May)』、『WRTH1949-50』には時報局の記載がなかった。CDにない1995年版はTs氏所蔵のものを見せていただいたところ、たまたま空いた場所に押し込んだような編集で、1ページの1/3ほどのスペースが2箇所、局数は4局だけだった。1996年版と1997年版には丸丸2ページの記載があった。1998年版、1999年版には記載がない。2000年版からは1ページほどの記載があるが、ほとんどが時報局の説明と利用方法で、局名と周波数、出力の簡単な表だけとなった。そこで比較的詳しい記載がある1948年版から1994年版までを対象に、局名、コールサイン、使用周波数を抜き出し、表にまとめた(表1:最後に掲載)。使用周波数の数を年ごとに集計したグラフを図3に示す。もちろんWRTHという限られた紙面の中でまとめられているため、編集上の都合などで記載されない局もあると推察されるが、時報局の変遷の概要を知る上では重要な資料であると考える。記載内容には誤植と思われるものも散見されるが、前後の年を見て明らかに誤植と思われるもの以外はそのまま記述した。 図3 WRTHに記載された時報局の周波数の数 1948年版ではアメリカのWWVだけだった時報局の記載はまたたくまに増加し、ピーク時の1980年版では29ヶ国、60局を数えるほどとなった。図3では1966年に急増が見られるが、これはアメリカの海岸局が掲載されたためである。何をもって時報局とするのかという定義は難しいが、私は天文台等の時間・周波数標準の信号を基にして時報信号の電波を発出している局と考えているので、このアメリカの海岸局もUS Naval Observatoryの管轄下にあるようなので含むこととした(ただし表1ではスペースの関係で割愛した)。 表1をまとめているときに、私が不勉強のせいもあるが、初めて名前を聞いた局も多かった。例えば、チリのCCV(CBV)、インドネシアのPKI・PLC、メキシコのXDP・XDD・XBA、モザンビークのCRX、ニュージーランドのZLF、南アフリカのZUO、スペインのEBC、トルコのTAO3などである。これらの局は廃止されて久しいが、資料をさがしてみたい。 3.若干の分析 表の中で継続して登場するのが、WWV、WWVH、WWVBである。使用周波数の変更はあったが、安定して記載されている。当初は35MHzまで使われていたのは興味深い。この他に、アルゼンチンのLOL、オーストラリアのVNG、ブラジルのPPE、カナダのCHU、チェコのOMA、ドイツのDCF77、イギリスのMSF、インドのATA、イタリアのIAM、日本のJJY、ペルーのOBC、スイスのHBG、などが長期にわたり登場し、多くが現在も稼働中である。 一方、途中で消えた局も多い。ブラジルのPPRは1992年で姿を消している。この局はPPEの信号をEMBRATELという民間放送が放出していた。中国は当初BPVだったが、1981年からBPMに替わった。BPVは上海天文台が管轄で、BPMは西安の陝西天文台の管轄である。ドイツのDAM・DAN・DAOは1985年で消えた。これはハンブルグにある水理研究所が管轄していた。イギリスではMSFの他にグリニッジ天文台から送出される国際時報信号(International Time Signal)というのが1987年まで記載されていた。イスラエルの2波はコールサインもなく、1985・1986年の2回のみあらわれた局で、詳細はまったくわからない。ロシアの局については,出現がバラバラで、記載が不安定であり、実態がつかめない。この中でどれだけの局が残っているのだろうか。この前ロシア時報局の資料(ロシア語)を入手したので、時間を見つけて検討したい。メキシコのXDP・XDD・XBAは1974年〜1980年の間に登場した局である。XDP・XDDは通信関係の部署が、XBAは農業関係の部署が管轄しているようである。モザンビークのCRXは1974・1975年の2年間のみ記載された。海軍のラジオ局のようだ。 さて、今年2020年のWRTHに掲載されている時報局は26局44波である。最盛期の記述に比べ内容が乏しいのがさみしい限りである。このうちLF、VLFを使用している局が19波あり、通常の受信機では受信が難しい。HFを使用している局は激減し、しかも周波数が重なっている局も多く、確認は容易ではないだろう。多くの局が電波時計用としてLF帯へ移行してしまった。 4.「世界の標準時報局」の連載再開 もう20年ほど前になるが、会報の穴埋め記事として「世界の標準時報局」というタイトルで始めたのは1999年6月号(会報NO.226)で、それがいつの間にか連載化した。連載を維持するために資料集めに奔走した。当時はまだインターネット上で資料を得にくい時代であったので、厚かましくも各時報局に手紙を出し資料を求めた。その結果、この連載はとびとびではあったが18回を数えた。その結果はこのウェブページで見ることができる。今回、WRTHの記述を参考に「世界の標準時報局」を再開してみたい。 (OG) |
《表1 WRTHにみる標準周波数・時報局の推移》については、図で掲載すると大きすぎて内容が不鮮明になるため、以下にPDFで提供することにした。→(こちら) |
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