標準周波数時報局 WWVH |
<BACK> update:2021/06/18 |
1.はじめに NIST(National Institute of Standards and Technology:国立標準技術研究所)の前身であるNBS(National Bureau of Standards:国立標準局)の科学者たちは、早くも1905年には無線周波数の伝播の研究を始めた。そして、WWV、WWVH、WWVBが運用されるようになった。ここでは、ハワイ州マウイ島にあるWWVHについて述べることとする。 2.WWVHの歴史 WWVHは、1948年11月22日にマウイ島((island of Maui)キヘイ(Kihei)で運用を始めた。ハワイ州は当時は準州という扱いで、これは1959年まで続いた。1947年の国際電気通信連合(ITU)の大会で、既にWWVが使用している周波数2.5、5、10、15、20、25MHzを標準周波数局に割り当てるという協定が締結されたのを機に、NBSはWWVと同時に運用される第二の標準周波数局としてWWVHの新設を決定した。第二の局の運用で2つ以上の標準周波数局を同期させながら必要な精度が保持され、かつ別々の局が同一周波数上で運用できる方法の開発のためであった。ハワイの地が選ばれたのは、標準周波数局のカバー領域を最大限にし、かつWWVのサービスを既に受けているユーザーの妨げにならないようにするためであった。 初期のWWVH局は、5、10、15MHz、出力1kWで放送を始めた。局はWWVの受信を可能にするために、1日2回7:00と19:00GMTに放送を停止した。WWV(当時はメリーランドのベルツビルにあった)とWWVHの間の信号の遅延は約27mSであり、WWVの信号はWWVHの信号の校正のために使用された。 局の周波数は、1956年までに5×109以内にコントロールされた。5、10、15MHzの放射出力電力は2kWで、現在と同様にWWVHのプログラムスケジュールはWWVのフォーマットに準じたが、時刻の音声アナウンスだけは1964年7月まで行われなかった。初期の音声アナウンスはハワイ標準時に放送され、毎時刻05分の前半が使われた。2.5MHz、1kWの放送は1965年に始まった。 初期のキヘイの局舎は、たえず海の浸食の影響を受け、1965年にはメインビルディングと15MHzのアンテナから数mのところまで海が迫ったため、移転を余儀なくされた。1971年7月1日、局はハワイ、カウアイ島(island of Kauai)ケカハ(Kekaha)近くに移転し放送を始めた。この移転時にERP(有効放射電力を 5、10、15MHzでは10kWにした。また、2.5MHzは2.5kW(すぐに5kWに増加した)に増加した。新しく20MHz、2.5kWの放送が追加された(しかし後の1977年2月に停止した)。音声アナウンスは毎分、女性の声で行われるようになった。ジェーン・バーブ(Ms.Jane Barbe)の声がアナウンスに使われた。さらに局は初めてディジタルタイムコードの送信を開始し、電信のタイムコードは中止された。 1991年8月に、WWVとWWVHはディジタル化され、半導体メモリに記憶された音声アナウンスが放送された。 最初のWWVHの局舎(マウイ島) 3.WWVHの施設・設備 WWVHは、ハワイ、カウアイ島西側にあるカケハ(Kekaha)の町の近くにある。土地のひろさは30エーカー(12ha)で、、アメリカ海軍からリースされている。周囲には海軍のBarking Sands太平洋ミサイル発射場施設が広がる。 カウアイ島 WWVHの局舎(現在) (1)WWVHの建物 WWVHの送信ビルは、コンクリートブロック造の平屋建で、施設の東端にある。1971年に建設され、4482平方フィート(416.4m2)の広さを持つ。建物は、送信機室、研究室、2つのスクリーンルーム、応接室、いくつかのオフィス、小さなキッチンおよび洗面所を含む。中心の廊下が、応接室から建物の長さ方向に送信機室まで通っている。建物のそでには、電気の分電設備と予備発電機がある。 (2)WWVHの送信機 WWVHは4つの周波数2.5、5、10、15MHzで運用し、それぞれの周波数用に主送信機と予備送信機を持つ。現在のWWVHの施設に設置された最初の送信機は、AEL(American Electronic Laboratories)社により作られ、1971年に設置された。このタイプの7つの送信機は最初に設置されたものである。1983年に、2つの送信機がElcom-Bauer社の送信機と交換された。これは、5、10、15MHzの主送信機となった。 Elcom-Bauer社の5MHz主送信機 AEL社の15MHz予備送信機 (3)WWVHのアンテナ WWVHアンテナには無指向性アンテナと位相配列(Phased Array)アンテナの2つのタイプがある。無指向性のアンテナは、タワーから同じ電力をすべての水平方向に放射し、位相配列アンテナは、より多くの電力を局の西方向に放射するように設計されている。2.5MHzのアンテナと常設の予備アンテナは無指向性であるが、5、10、15MHzの主アンテナは、位相配列アンテナである。15MHzの予備アンテナは、2つの1/4波長モノポールから成るプロトタイプの位相配列アンテナで一時的なものである。高さが41フィート(12.5m)ある鋼製タワーは、様々な短波や国立気象局を受信するアンテナとして使われるが、時報と周波数の放送には使用されない。 最初の無指向性タワーは、WWVのアンテナと同様に垂直の鋼製構造物であった。しかし、海からの湿度と塩分の影響を受け多くの保守整備を必要としたため、2001年にこれらは、自立したグラスファイバーの柱に取り替えられた。 ホイップアンテナ 位相配列の主アンテナは、Rohn社により製造され、1971年に局が建てられた時に設置された。それぞれの配列は、1/4波長の間隔をおいて配置された2つの1/2波長ダイポールタワーから成る。それぞれのタワーは、タワーの中間点近くでセラミック製の絶縁物とともに、スタックされた三面の鋼から成る。アンテナは中央で給電される。塔頂部にはそれぞれ3つのセラミック製絶縁物が設置され、アンテナの上部の放射エレメントを形成する。下の放射エレメントは、地面に対して70°の角度で傾斜している銅メッキされた鋼線から成る。この「スカート」はまた構造上の支線として役立っている。アンテナ群は、3°の間隔をおいて配置された120本の銅線から成るカウンターポイズも持ち、それらは2つの柱の基部から放射状に外へ広がり、それぞれ棒で大地に端末処理されている。 15MHz主アンテナ (4).計時システム WWVHによって放送される周波数信号はメインスクリーンルームで作られる。それぞれの時刻と周波数発生のシステムは、周波数標準、周波数分割/分配増幅器、時間コードジェネレータ(TCG)およびモニター、補助出力によって構成されている。通常、すべての周波数標準は商品として購入可能なセシウム発振器である。ルビジウム発振器は、セシウム発振器の1つが故障した場合のバックアップ用である。 WWVHの時刻・周波数発生システムのブロック図 4.放送フォーマット WWVHの放送フォーマットはWWVのものとほとんど同じである。違いは秒と分のトーンが(WWVが1000Hzに対しWWVHは1200Hzであること、音声アナウンスがWWVは男性の声だが、WWVHは女性の声であることくらいである。 (1)音声アナウンス WWVHの音声時刻アナウンスは1分に1度送される。それらは女性の声を使って、分の最初の15秒前から開始される。アナウンスは7秒である。1452UTCの場合、アナウンスは次のように読まれる: "At the tone, fourteen hours, fifty two minutes, coordinated universal time." トーンのない約8秒のカチカチ音が続き、それから短い1200Hzトーンが分の最初を示す。局の識別メッセージは1時間に2回放送され、約37秒間続く。ステーションIDは次の通りである: "National Institute of Standards and Technology Time: this is Radio Station WWVH, Kauai, Hawaii, broadcasting on internationally allocated standard carrier frequencies of two-point-five, five, ten, and fifteen megahertz, providing time of day, standard time interval and other related information. Inquiries regarding these transmissions may be directed to the National Institute of Standards and Technology, Radio Station WWVH, Post Office Box 417, Kekaha, Hawaii, 96752. Aloha." (2) 標準の時間間隔 WWVと同様に、WWVHにおいて放送される標準の時間間隔は次の通り示される。 ・秒:1200Hzトーンの短音でほとんどは長さ5msである。それは時計のチクタク音をまねているこれらのチクタク音は29番目と59番目が省略される。それぞれの分が始まる秒はより長いトーンで示される。 ・10秒:BCD時間コードで示される。 ・分:毎時間の最初を除くすべての分は1200Hzトーンの800msの短音である。 ・時間:すべての時間は1500Hzトーンの800msの短音である。また440Hzトーンは、それぞれの時間の1分目に、1日の最初の1時間の間は除いて放送される。 ・日:上記の440Hzトーンは、それぞれの日の最初の時間の間は省略される。 (3) 標準の可聴周波数 WWVHは、すべての時間のほとんどの分の間に標準の可聴周波数も放送する。500Hzおよび600Hzのトーンは、分の交互に放送され、440Hzトーンは、日の最初の1時間を除いて1時間ごとに1回放送される。トーンは、通常WWVとは逆の規則にしたがって放送される。例えば、もし特定の分にWWVで500Hzトーンの放送が行われているならば、WWVHでは同じ分に600Hzトーンで放送される。440Hzトーンは、WWVでは2分目に放送され、WWVHでは1分目に放送される。トーンは、割り当てられた分の最初の45秒の間放送に挿入され、それに続いて時間を示す音声アナウンスと無音期間がある。秒パルスはしばらくトーンを中断する。個々のパルスには先に10msの無音があり、後に25msの無音がある。 トーン変調がない、より長い無音期間は、WWVHの放送フォーマットの毎時間の数分に含められる。しかし、搬送波の周波数、秒パルス、時間アナウンスおよびBCD時間コードは、これらの期間の間も続く。WWVHの無音期間の目的は、WWV放送の音声アナウンスへの干渉を防止するためである。他局が音声メッセージを放送している間は、もう一方の局は通常音声の放送を行わない。WWVHの無音期間は、8分〜11分と14分〜20分の間と0分目と30分目にある。 (4) UT1訂正 UT1情報は、WWVと同じ方法で放送される。 (5)100Hz時間コード WWVHもWWVと同様にBCD時間コードを放送する。 WWVHの放送フォーマット 5.その他 (1)QSLカード (1979.8受信) (2021.4受信) (2)WWVHの住所と電子メール: U.S.Department of Commerce NIST Radio Station WWVH P.O.Box 417 Kekaha, Hawaii 96752-0417 E-mail: wwvh@nist.gov 【参考】 『NIST Time and Frequency Radio Stations: WWV,WWVH,and WWVB』G.K.Nelson, M.A.Lombardi, D.T.Okayama, NIST Special Publication 250-67, January 2005 【図版】 掲載の図はQSLカードを除き、上記書籍より引用した。 (OG) |
前のページに戻る <HOME> |