標準周波数・時報局 WWVL 
<BACK>  update:2020/11/23
1.はじめに
 現在アメリカの標準周波数・時報局(以下、時報局と略)は、短波帯にWWV(コロラド州)とWWVH(ハワイ州)が、長波帯にWWVB(コロラド州)があるが、かつてはコロラドの地にWWVLという局が存在した。WWVLは、NBS(Nationa Bureau of Standards:国立標準局、NISTの以前の名称)が運用した超長波の実験局で、1960年4月〜1972年7月まで運用された。今回はこのWWVLについて取り上げてみたい。

図1 WWVB・WWVLの送信ビルとアンテナ

2.WRTHの記述から
 まずWRTH(World Radio TV Handbook)にどのように取り上げられているか見てみたい。

図2 WRTH1963年版より

 WWVLがWRTHに登場するのは1963年版からで、20kHz連続運用と毎時20分ごとにモールスによる局名告知があることが記載されている。1963年に出力を増強する予定も書かれている(図2)。

図3 WRTH1969年版より

 1969年版ではWWVLの運用フォーマットが掲載されている。これは少々複雑なので、ここでは掲載紙面(図3)を見てただくだけにして、フォーマットについては後に述べる。
 1973年版には、WWVLが1972年7月1日に停波したことが掲載された。この停波のニュースは1976年版まで掲載された。

3.長波・超長波送信の利点
 長波(LF)や超長波(VLF)を使った伝送は、地上波のロスが少なく、地表に沿って伝わるため半球の相当部分に届く。また、大気圏での減衰も少なく、電離層妨害の影響を受けにくいため、安定した通信を行うことができる。このため、LF・VLFでの伝送は、周波数なら10-11以内、時間なら100μS以内の精度を保つことができる。
 こうした点から、アメリカ海軍天文台では、航海の利用に供するために、1904年に時刻の送信実験をボストンで行い、この方法が正確な周波数と時刻を広範囲に届けるために大変有効な手段であることが確認された。こうして1960年以降、アメリカ海軍は多くのLF・VLF局を運用することとなる。NPG(サンフランシスコ:114.9kHz)、NSS(メリーランド:162kHz)、NBA(パナマ:24kHz)、NPM(ハワイ:131kHz)、NPN(グアム:484kHz)などがこれにあたる。
 1954年、イギリスではMSFの60kHz送信に続き、GBRが16kHz送信を開始した。マサチューセッツ・ハーバード大学のピース(J.A.Pierce)はこの信号を受信した。距離は5180km、周波数の精度は1×10-9以上であった。この結果に刺激を受けたNBSは、新しいVLF局の建設を決めた。20kHzで運用するこのVLF局では、60kHzのWWVBよりも減衰が少なく、1つで広範囲をカバーできる。また、精度も良い。こうして500kWのVLF送信機で全世界をカバーする計画がスタートした。

4.WWVLの歴史
 1956年にコロラド州ボールダーで運用を始めたWWVB局が、1960年にサンセットに移転したのを機にWWVL局の実験が開始された。フォーマイル渓谷に渓谷をまたぐアンテナを設置し、実験は始められた。アンテナ長は1036m、ケーブルの重量だけで1トンあった。このサイズのアンテナでさえも1/4波長には足りず、8kWの送信機を使ったが、放射出力はわずか14Wだった(効率0.18%)。1960年6月になると連続運用が行われるようになり、ニュージーランドでの受信という記録も現れた。

図4 渓谷をまたぐWWVLのアンテナ

 1962年にはコロラド州フォートコリンズに390エーカーの土地を求め、ここにWWVBとWWVLを設置した。1963年7月にWWVBの運用が60kHz、7kWで開始され、WWVLは20kHz、500Wで、1963年8月に運用が始まった。WWVBとWWVLの送信所建物は共用で、アンテナは北側にWWVL用が、南側にWWVB用があった(図5・6)。資料によれば、WWVLの位置は北緯40°40'51.3"、西経105°03'00.0"である。WWVBの位置が北緯40°40'28.3"、西経105°02'39.5"だから、経緯度の差から距離を計算すると約950mとなる。1966年にはWWVLのアンテナの出力が2kWとなる。当時のアンテナの放射効率の説明があるが、WWVBでは24.6%、WWVLでは2.2%だった。

図5 WWVBとWWVLのアンテナの配置


図6 WWVBとWWVLの位置をグーグルマップで見る(アンテナの白線は筆写が記入)

 1969年11月4日から、WWVLは20kHzと19.9kHz、20.9kHzの3つの周波数を10秒ごとに移動するという運用を開始した。この頃にはすでにVLF局を利用するメリットはなくなっており、NBSもそのための資金投入をしないことをすでに決めていた。そうした状況の中で、WWVLが存在する帯域を確保するために、ここで時分割方式の多重周波数概念を利用したVLFの時間同期機能を研究することにしたのである。
1972年1月1日より、WWVLの運用は断続的となり、同年7月1日、完全に停波した。アンテナ設備はWWVBが受けついだ。WWVLはなぜ実験を中止したのか。VLFを使った全世界カバーの計画はどうなったのか。
 1968年に、VLFで全世界をカバーする計画が廃止され、NBSはこの分野への資金提供をやめることを決めた。この原因は通信衛星の出現である。衛星の信号は省電力で地球の広範囲をカバーでき、信号の経路も非常に安定しているためである。大出力のVLF局による電波航法は時代から取り残されたのであった。

5.WWVLの設備
 WWVLのアンテナはWWVBと同型で、122m高の4本柱に573mの線を架したトップロード・ダイポールである。アンテナ中央から出ている引き込み線は、直下にあるヘリックスハウスに入り、埋設されたケーブルで送信所建物に至る。ヘリックスハウスの構成図を図7に示す。1/4波長に満たないアンテナ線の容量分を打ち消すためのインダクタとバリオメータ(可変インダクタ)で構成される。
 送信機はWWVBと同じモデルAN/FRT-6である。

図7ヘリックスハウス


図8 AN/FRT-6送信機

 WWVLから送信された信号は、100マイル離れたボールダーで受信され、ここで周波数標準と位相が比較され、その差の信号がボールダーから50MHzFM送信機でWWVLに送られ、相制御がなされるようになっていた。

6.WWVLの送信フォーマット
 WWVLの周波数と時刻の精度は周波数が2×10-11、時刻が一日あたり1×10-11とある。
 WWVLは秒信号の送出を行わず、無変調の搬送波のみの送出である。1966年の資料によれば、毎時01分、21分、41分にモールスによるコールサインと周波数オフセットの記号が3回発せられるとある(図9)。WRTHの1964年版でもそのような記述がみられる。しかし、1970年の出版物では、IDはないという記述になっており、WRTHも1969年版になるとIDはないと変わっている。当初は局名をモールスで打っていたが、その後なくなったようだ。これは先に述べた1969年の3周波数の変移へと移行したことによるものだろう。


図9 タイムテーブル(WWVL欄に3回のアナウンスがある)

 WWVLの搬送波は、20kHz、19.9kHz、20.9kHzの3つの周波数を10秒ごとに移動する。1970年の資料では「alternating frequency every 10 seconds」と周波数の移動を示しているが、これ以上の詳細は書かれていない。具体的な内容が記載されるのは1972年の資料からである。WRTHには周波数移動順番の解説があるが、1969年版では20kHz→19.9kHzを繰り返すとあり、1972年版では20kHz→20.9kHz→20kHz→19.9kHz→20kHzとある。どうやら20kHzを中心として、上下に移動するように読み取れる。

7.おわりに
 WRTHには、「V.by QSL-card or letter」とあり、この実験局の受信に対してもQSLカードが発行されたようだ。NISTのウェブサイトを見ていたところ、当時発行していたと思われるWWVLのQSLカードを見つけた。貴重品である。

図10 WWVLのQSLカード(一部)


図11 NBSの周波数・時報システム

【参考資料】
a)『NBS STANDARD FREQUENCY AND TIME SERVICE Radio Stations WWV WWVH WWVB WWVL』U.S.Department of Commerce, National Bureau of Standards/ Miscellaneous Publication 236 * 1966 Edition

b)『NBS STANDARD FREQUENCY AND TIME SERVICE Radio Stations WWV WWVH WWVB WWVL』U.S.Department of Commerce, National Bureau of Standards/ Miscellaneous Publication 236 * 1970 Edition

c)『NBS STANDARD FREQUENCY AND TIME SERVICE Radio Stations WWV WWVH WWVB WWVL』U.S.Department of Commerce, National Bureau of Standards/ Miscellaneous Publication 236 * 1972 Edition

d)『NBS TIME AND FREQUENCY DISSEMINATION SERVICES』Time and Frequency Division, Institute for Basic Standards, National Bureau of Standards/ NBS Special Publication 432 replaces former Special Publication 236, 1974 Edition

e)『WWVB Improvements: New Power from an Old Timer』M.Deutch,etc.(Time and Frequency Division NIST),Dr.P.Hansen(Space and Naval Warfare Systems Center),B.Hopkins(Pacific Sierra Research Corporation)

f)『Establishment of New Facilities for WWVL and WWVB』J.M.Richardson(NBS),RADIO SCIENCE Journal of Research NBS/USNC-URSI Vol.68D,No.I,January1964

g)『WWVB:A Half Century of Delivering Accurate Frequency and Time by Radio』M.A.Lombardi,G.K.Nelson, NIST Journal of Research 119,2014

【図の出典】
図1:(c)、
図2:WRTH1963年版、
図3:WRTH1969年版、
図4、図5:(g)、
図6:Google Mapの画像に筆写が加筆、
図7:(e)、
図8:http://www.navy-radio.com/xmtrs/frt5.htm
図9、図11:(a)、
図10:NISTのウェブサイト

(OG)
 

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