京都技術サークル50年のあゆみ 


 京都技術サークル(以下、サークルと略)は、2017年12月に創立50周年を迎えました。日本教職員組合の教育研究全国集会のレポートに学ぶ活動からスタートしたサークル活動には、私立中学校と府内の公立中学校教員が参加し、その時々の参加者の教育実践を交流し、議論する活動を2ヶ月に1回のペースで進めました。

 1969年の中学校学習指導要領改訂の際には、学習指導要領の批判的検討と教育課程の自主編成に取り組みました。サークルは自主編成の視点として、@義務教育における一般普通教育としての技術教育は男女共学でなければならないこと、A技術教育は小・中・高の教育を通じた一貫した教育として位置づけられなければならないこと、B一般普通教育としての技術教育は技術学、技術史を大切にしながら、技術を労働手段の体系としてとらえ、「技術」を教える教科としてとらえていくこと、をあげました。このことから教科の内容となるべき系列を、(a)労働対象としての材料、(b)労働対象、労働手段を使っての人間の労働(加工法)、(c)エネルギーとその変換、(d)情報伝達、の4つとしました。

 当時、合宿研究会も行い、3回目の合宿研究会には家庭科教員も参加し、ここでサークルの名称を「京都技術家庭サークル」としました。「私たちはサークルを『義務教育における一般普通教育としての技術教育は、男女共学でなければならないということ』を憲法・教育基本法にてらして確認する立場から、現行の『技術・家庭科』『家庭科』の教師が、いっしょになって研究していけるようなサークルにしたい」と改称の理由を書いています。

 しかし、サークル活動は順風満帆に進んだわけではありません。1970年代中頃と1980年代前半頃の2度、それぞれ数年間の活動停滞期を迎えています。サークルの中心的なメンバーが学校や教職員組合の重要な役職に就いたり、病気になったりしたためです。そうした困難にもぶつかりましたが、その都度サークル活動を重視するメンバーによって再開が進められました。1988年の復活時には、教育研究全国集会参加者から構成されている教職員組合の教育研究集会世話人が中心となってサークルの再建を進めました。

 日常的な技術・職業教育に関するつながりを作ることを目的として、1年に1回の教職員組合の教育研究集会の他に、もう1回「京都技術・職業教育冬季教研」という集まりを行うことにしました。さらに参加者からの要望もあったため「夏季講座」を行うことになり、集まりは年2回となりました。教職員組合の教育研究集会が、提出されたレポートを中心に教育実践を議論する場であるのに対して、サークルの集まりは"明日から使える教材研究"を合い言葉に実技講座を行うようにしました。実技講座とすることで、あまり教職員組合の集会には参加しない人も参加するようになり、つながりに広がりが見えるようになりました。ウェブページに案内を掲載するようになってからは、京都だけでなく大阪、兵庫などからも参加する人がでてきました。

 サークル活動をふりかえってみると、以下のような点が特徴としてあげられると思います。
(1)多彩なつながりができた
 この間サークル活動に参加した方の内訳は、中学校教員33名、高校教員15名、総合支援学校教員1名、大学教員2名、教材会社社員1名など(外部講師は除く)と多岐にわたります。
 再開後15年ほどは、教職員組合の文書配布ルートでサークルの集会案内を市内の中学校に配布してもらっていましたが、参加者はなかなか広がりませんでした。インターネットの普及で多くの教員が個人メールアドレスを持つようになったので、1990年代後半以降はメールによる案内とし、友人や同僚を誘っていただくようにしました。こちらの方が効果があるように思われます。こうしたつながりができると、サークルの集会の時だけでなく、日常的に教育実践や教材研究のことについて相談ができるようになります。

(2)外部講師の積極的活用
 集会の講師の多くはサークルメンバーが相互に行ってきましたが、それにとどまらず様々なつながりを使って外部の講師をお願いしてきました。各分野のプロと呼ばれる人たちから学ぶことは教職員にとって大きな刺激となりますし、教材研究の多様化へとつながります。第4回冬季教研集会の「4サイクルエンジンの組立」では、レーシングチームに参加している方たちからエンジンの分解・組み立てについて詳しい指導を受けました。第5回夏季講座の「大工さんから学ぶ木材加工の技術・技能」では、京都建築労働組合に所属する1級技能士の大工さんから、砥石の平面を出す作業やノミやカンナの刃研ぎ、ノミ・カンナ・ノコギリの実技指導を受けました。第11回冬季教研の「体験!京友禅」では京都友禅一般労働組合の職人さんたちから、京友禅の技法である手描き友禅や型友禅の実演見学や型友禅の実技を体験しました。この他にも第12回冬季教研「木工旋盤を体験しよう」(漆工芸作家・米国木工ロクロ協会会員)や第23回冬季教研「プロに学ぶはんだ付けの技」(NPO法人日本はんだ付け協会理事長)、第25回冬季教研「竹中大工道具館技能員さんの技に学ぶ」(竹中大工道具館技能員)なども専門的な技術・技能を持った方たちから指導を受けたものです。

(3)地域の子どもたちの状況を交流する
 サークルは、なによりその地域の生徒のことを交流できる場です。中学や高校での生徒の状況を交流することで、その成長ぶりを確認したり、受け入れの準備も可能となります。中学教員にとっては、工業高校教員から専門的な分野の相談に乗ってもらう機会が増えますし、工業高校教員にとっては、多数の生徒を一度に指導する中学教員の指導法や教材・教具等から学ぶものは多いと思われます。中学で行われている教育内容を知ることで、高校の実習等での起点がわかり、内容の精選等にもつながります。異なる学校種で教育活動に関わる者同士が、それぞれの立場から技術教育や職業教育の重要性を確認し合うことができることもサークルの魅力の一つでしょう。

(4)ゆるい結合のサークル運営
 1980年代までのサークル活動は、各メンバーの教育実践の交流・討議を2ヶ月に1回のペースで進めてきましたが、中心的なメンバーが多忙になると、この2ヶ月に1回の開催はかなりの負担になってしまいました。サークル活動停滞の要因の一つはここにあるようにも思われます。1988年以降の集会が長期にわたり続いた背景には、年2回という少ない回数だったことがあると思われます。実は1度、以前のように2ヶ月に1回という集まりを試みたことがありましたが、すぐに挫折してしまいました。
 サークルでは会費を徴収していません。集会ごとの参加費(教材費)は集めますが、サークル活動の運営費用には使っていません。ですから「会員」という概念もありません。こうしたゆるい結合の運営が長続きした要因の一つであったのではないかと思われます。

(5)会報「技術・職業教育通信」の発行
 集会に参加できなかった人に、集会の様子を知らせるために発行し始めた会報は66号を数えます。会報の発行にはエネルギーが必要ですが、会報によって集会の内容を知らせることでつながりを維持することができますし、次は参加しようという気持ちにさせることができるのではないかと考えています。現在は、印刷した会報を郵送していますが、PDFファイルでメールに添付することも検討しています。ここれならば、費用もかかりません。

(6)中心になる人がいないとサークルはできない
 最後に、一番大事なことは「サークルをやろう!」という人が少なくとも1人いないとサークル活動は始まらないということです。そして「2人集まればよし」というくらいの気持ちで続けることです。その1人に皆さんがなっていただき、各地でサークル活動が活発になれば、教育実践も大きく前進するにちがいありません。
 なお、サークルでは集会後に懇親会を行っていますが、ここでは集会では出ない有益な話もたくさん話されますし、なにより懇親が深まりますので、これもお勧めしたいことの一つです。(K.O.)



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