ブライナヴォン製鉄所跡 Blaenavon Ironworks |
天ブライナヴォン製鉄所跡(4、5号炉が見える)
ブライナヴォン(Blaenavon)は産業遺産が世界遺産に登録された(2000年登録)数少ない例である。主要な登録遺産は、ブライナヴォン製鉄所跡とビッグピット国立石炭博物館である。場所は、南ウェールズ地方、ロンドンから西約200kmに位置する。ニューポート駅からブライナヴォン行きのバス(X24系統)は10〜20分おきに出ていて、所要時間は約1時間である。「Blaenavon
Curwood」で下車し、世界遺産ビジターセンターで地図や情報を得るとよい。
南ウェールズ地方の炭田は1000平方マイル(約2600平方キロメートル)の細い水盆状の地に石炭が埋蔵され、種類も豊富で、辺縁部では露出し採掘がしやすいという特徴があった。南ウェールズの炭鉱は19世紀後半から20世紀初めに好景気を迎え、ピーク時(1913年)には年間5700万tの産出、23万余の労働者が620の炭坑で働いていたとされる。石炭需要の衰退の中で、南ウェールズで最後まで残ったビッグピットは1980年2月に閉鎖された。
またこの地では、鉄鉱石、石灰石も採掘され、製鉄の条件が揃っていた。18世紀の末、この地にいくつもの製鉄工場が建設され、産業革命を推進した。ブライナヴォン製鉄所(1787年操業開始)もその一つである。世界的な鉄道建設ブームに乗ってブライナヴォンはレール製造のほとんどを請け負い、1830年にはイギリスの鉄の40%が南ウェールズで生産された。ブライナヴォン製鉄所は1911年に閉鎖され、その後の世界大戦時に再開されることもあったが、1960年代には設備はまったく使用されなくなった。
ブライナヴォン製鉄所を有名にした理由の一つに、塩基性製鋼法の一つであるトーマス法がこの地で開発されたことがある。1878年、S.G.トーマスとP.C.ギルクリストはリンを含む鉄鉱石を製鋼できる転炉を開発した。ベッセマー法ではリンを含む鉄鉱石の製鋼はできなかった。ヨーロッパで産出する多くの鉄鉱石がこのリンを含むものであったため、ベッセマー法を活用できず、トーマス法の発明によって、はじめてヨーロッパの鉄鉱石が製鋼に活用できるようになり、ドイツやフランス、オーストリアなどでの製鋼産業が発達した。
ブライナヴォン製鉄所の保存活動は1974年から始まり、今日に至っている。製鉄所跡には4つの高炉が残る。創業当時は3基の高炉があったが、1814年に4号炉、5号炉が追加され、1863年には6基となった。現在、炉の形をかろうじてとどめているのは2、4、5号炉である。水の重さでリフトを昇降させるバランスタワーはほぼそのままの形で残る。鉄鉱石を石灰石と一緒に焼成する窯跡、銑鉄を鋳型に流し込む建物、鋳造所、労働者用長屋、購買所、送風用の蒸気機関が据え付けられていた基台などを見ることができる。労働者用長屋は展示室になっている。音声案内もあるが、各所の解説が不十分なので後述のパンフレットを活用するのがよい。
ブライナヴォン製鉄所跡へはビジターセンターから徒歩で約5分。入口を入ると、トーマス法の発明者S.G.トーマスの記念碑がある。
世界遺産ビジターセンター 送風用蒸気機関据付基台
鋳造所と内部
鋳造所のキュポラ 銑鉄を鋳型に流し込む建物
2号炉 3号炉跡
5号炉 6号炉 バランスタワー
労働者社宅と内部
炉の上部(奥に鉄鉱石を焼成する窯が見える) 駐車場にある蒸気ハンマー
◆所在地:North Street NP4 9RN |