モールス練習機と電鍵(キー)製作    2023.06.02

 通信の歴史の中でモールス信号の存在はたいへん大きなものです。最初は有線通信として、のちには無線通信として、少し前まで現役で活躍していた技能です。今の若い方は生まれた時から携帯電話があり、昔のように家の電話で友人や彼女と電話をしていたあのドイドキ感を体験することはないと思います。
 
 さて、昔の技能と思われているモールス符号を使った通信は、通信が音声電話になってもしぶとく生き残ってきたもので、現在のディジタル通信の通じる要素も持っています。そこで、若い人にもモールスを体験してもらおうと、以下のような練習機と電鍵(キー)を製作しました。2台あれば、線をつないで有線モールス通信をすることができます。

図1 電鍵 図2 練習機

1.モールスとモールス符号

 モールス符号はモールスの発明といわれますが、モールスは英単語を数字列に符号化して送信する方法で特許を得たのであって、英数字を符号化したのはモールスの助手であったヴェイルです。ヴェイルは、モールス符号を考えるにあたって、地元の新聞社で文字の使用頻度を調べ、使用頻度の多い文字には簡単な符号をあてはめるように考え、符号を設計したといわれます。
 モールス符号は、初めから今のようなものだったわけではありません。変化を表1に示しました。

表1 モールスコード

 ここで、「Morse in 1844」は1838年に設計されたMorseのコードを改良したものです。「Continental」は、1851年にベルリンで開かれた第1回万国電信会議で制定されたものです。これはヨーロッパで使われていた「Austro-Germanic Code」(1854年)が元になっています。「Bain in 1846」は、スコットランドのAlexander Bainが1846年に設計したものです。Bainは1850年頃に電気化学式の電信を使って、ニューヨークとボストンやワシントンと通信を行っています。
 「Continental」が現在使われているモールス符号です。

 日本で使われている和文のモールス符号は、「Continental」に足りないコードを付け加えたものだそうで、文字の頻度などは考慮されていないようです。

2.電鍵(キー)
 モールス通信で使われている電鍵は、「縦振り式」と「横振り式」に分類されます。表2を参照して下さい。

表2 電鍵の分類

 縦振り式は、私たちがよく目にするものです。横振り式は横に動かして使うタイプで、右と左にそれぞれ接点を持っています。送る符号の長さを長点(dash)も短点(dot)も自分で操作する複式キーや、短点だけは自動で連続して送ることができるバグ・キー、バグキーを電子的に実現したエレクトロニック・キーがあります。

 また、有線通信で使われていたものと無線通信で使われていたものとでは、構造が異なります。有線の場合は、定電圧で使用するため、接点に抵抗が少ない金属を用い、ツマミには「傘」がありません。台も木製または硬質ベークライトなどが使われています。一方、無線用は、初期には火花やアークを使った送信で、高電圧を直接キーで断続していたため、接点が大きくなっています。ツマミには「傘」をつけ、感電しないようにしていますし、台も大理石など絶縁のよいものが使われています。その後、高電圧を直接断続することはなくなりましたが、こうした影響がキーの構造に残されています。

 (ここ)に世界各国の電鍵コレクタの紹介がありますので、興味のある方はご覧下さい。

3.電鍵(キー)をつくる
(1)材料を集める

 現在、電鍵は,日本の電鍵メーカー「ハイモンド」の電鍵が5000円~15000円ほどで購入できます。ネットオークションでも散見されますが、ほぼ同じような値段です。ちょっと遊んでみるのには高額なので、ここでは自作することにしました。縦振り式です。

図3 電鍵(側面図)

図4 電鍵(平面図)

 アームの部分を金属で作っているものはよくみかけますが、望ましい弾力が得られるか不安だったので、プラスチック下敷きを切って重ねることで、弾力を調整することにしました。私の感覚では3枚を重ねたくらいがちょうどよかったので、3枚としました。これを接着したのですが、大失敗。戻りが悪くなってしまいました。結局接着せずに、そのまま重ねて使うことにしました。

 ツマミは木を加工して自作しました。適当な大きさのツマミを見つけたら、それを使って下さい。

 
図5・6 ツマミ加工

 接点の間隔を決める支えの厚さは、いろいろ試した結果、5mm厚の木材にしました。土台はかまぼこの板です。

(2)組み立て
 アームの部分にはツマミ取付用の穴と、支えに取り付ける穴をあけます。いずれも丸木ネジ(M3.1×10)を使いました。木ネジにはタマゴ型ラグをつけてからツマミに取り付けます。φ2.5のドリルで,ツマミに下穴をあけておくと容易に取り付けることができます。タマゴ型ラグには、配線用の単線をはんだ付けしておきます。私はφ0.6のスズメッキ単線を使用しました。

 
図7・8 アーム部分

 アーム部の丸ネジが接触するところの土台部分に、同じ丸木ネジをつけます。これにもタマゴ型ラグをつけます。配線用の線をはんだ付けしておきます。
 電鍵の接点の取り出しは、φ3のターミナルを付けました。

図9 土台と支え

 大事なポイントは、接点の役割をする丸木ネジの山どうしが合うようにすることです。ここは支えに取り付けるネジなどを調整して位置決めを行って下さい。

4.モールス練習機を作る
 音が出ればよいのであれば、一番簡単なのは、電子ブザーと乾電池で回路を作り、間に電鍵をはさんでやることです。

 でも少しだけ電子工作もしようということで、簡単な発振器をトランジスタでつくることにしました。回路はトランジスタを2段重ねたブロッキング発振回路です。100kΩと0.022uFで発振周波数が決まります。回路図を図10に、基板裏側の接続図を図11に示します。私は、ユニバーサル基板(ICB-93S:サンハヤト)を2つに切断し、この半分に回路を、半分にスピーカーをのせました。

図10 回路図

図11 配線図

 電鍵を押すと電流が6mAほど流れますが、電鍵を押さないときは、ほとんど電流は流れません(約70uAくらいでした)。ですからスイッチはついていません。
 LEDをつけて、目でもモールス符号がわかるようにしています。

 オシロスコープで波形をみると、ブロッキング発振の周期は約0.4mSですから、基本波は2500Hzくらいになります。


【参考】
・『モールス・キーと電信の世界』魚留元章、CQ出版社、2005.6
・"CODES OF THE WORLD" https://www.nonstopsystems.com/radio/pdf-hell/article-hell-codw-sowp.pdf
・『CQ ham radio4月号臨時増刊 やさしい電子工作教室』高田継男・中山昇、CQ出版社、2000.4



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