マンチェスター科学工業博物館
Museum of Science and Industry(MOSI)
update:2021.2.11

 外観

 マンチェスター科学工業博物館(以下、MOSIと略)の前身は、ノースウェスタン科学工業博物館で、1969年に開設された。博物館は、その後、リバプール・マンチェスター鉄道のリバプールロード駅舎(1975年に閉鎖)に移り、1983年9月15日に新たにオープンした。この日はリバプール・マンチェスター鉄道の153回目の記念日であった。リバプール・マンチェスター鉄道は、世界最初の都市間を結ぶ鉄道として1830年にオープンしたもので、駅舎、倉庫(Warehouse)がMOSIの施設として活用されている。
現在はMOSIの略称は使用されていない。これで検索するとアメリカの博物館がヒットする。

(MOSI HPより引用)
 MOSIの展示室は、大きく5つに分かれる。
上図(1)の建物:グレートウェスタン鉄道の倉庫だった建物で、受付やミュージアムショップがある。受付を過ぎてまず目に飛び込むのが、「Baby]と呼ばれた世界最初のストアドプログラム方式のコンピュータである(これはレプリカで実際に動作する。毎週水木金の11時〜15時)。たくさんの体験型の展示物もある。建物の奥には、かつてマンチェスターの中心的産業であった織物工業に関する展示がある。ここには織機をはじめ織物に関する機械が並び、ほとんどは動態保存されている(毎日、11:30〜15:00)。担当者が説明をしながら、次々と機械を動作させていた。

上図(2)の建物:リバプール・マンチェスター鉄道の倉庫だった建物で、19世紀のマンチェスターの地下水路を再現したり、1930年代のガス利用に関する展示や1950年代の電気エネルギーに関する展示がある。ここで驚いたのは、ディファレンシャルアナライザーが動態保存されていたことだった。整備をしていた方に声をかけたところ、実際に稼働させてくれた。円の方程式をシミュレートし、プロッタに作図してくれた。時間軸の動輪の精度が悪くて、正しい円にはならなかったが、動いているのをみたのは初めてだったので感動した。

(2)の建物(Liverpool-Manchester鉄道の倉庫)

上図(3)の建物:リバプールロード駅の駅舎だった建物で、ローマ時代から今日までのマンチェスターの歴史を文書や絵で展示している。

上図(4)の建物:リバプール・マンチェスター鉄道の倉庫だった建物で、世界有数の蒸気エンジンのコレクションが展示されている。驚くことにそのほとんどが動態展示なのである(毎日、11:00〜14:30)。よくあるモーターで動いているように見せているのではなく、本当に蒸気で動いているのだ。そのメンテナンスの技術力もさることながら、きちんとそういうスタッフを確保していることに驚く。

上図(5)の建物:元Lower Campfield Marketの建物であった。マンチェスターで製造された航空機、自動車、バイクなどが所狭しと並ぶ。航空機などはその大きさに圧倒される。

(5)の建物

以下に、主な展示品を掲載する。

  SSEM "Baby"Computer
SSEM(Small-Scale Experimental Machine)は、マサチューセッツ大学のF.D.WilliamsとT.Kilburnが作製したコンピュータで、1948年6月に完成した「世界最初のプログラム記憶方式のコンピュータである。ブラウン管がメモリとして使用された。
MOSIに展示されているのは、1998年のSSEM完成50周年を記念して作製された復元機である。写真左のラック中央にメモリ用のブラウン管が見える。
   アークライトのWater Frame(1769年)(レプリカ)
この精紡機は、Richard Arkwrightにより1769年に特許が取得されたもので、水車動力を利用することからWater Frameと呼ばれる。この複製は1983年に作られた。
  粗紡機(Roving Frame)
この粗紡機は1927年にオールドハムのPlatt Brothers & Co. Ltdで製造され、ロイトンのElk Millで使われた。
粗紡機とは、紡績用の綿を伸ばし、薄くする機械である。横の革ベルトは蒸気機関につながれて回転力を得た。
   Carding engine(1800年頃)
この機械はRichard Arkwrightにより設計され、ダービシャーのクロムフォード工場で使われていたものである。この機械は綿の繊維を引き揃えるためのものである。
リバプール・マンチェスター鉄道の蒸気機関車Planet
この蒸気機関車は、1830年9月に、Robert Stephenson & Company & Othersにより製造された9号機関車で、リバプール・マンチェスター鉄道で使用された。
Planetという名称で知られるこの機関車は、1830年11月、リバプール=マンチェスター間(約50km)を1時間で走った。
この機関車は複製で、1992年に製造され、博物館の中庭を来館者を乗せて走る。
レインヒルの競争に参加した蒸気機関車Novelty(1829)
1829年10月、マンチェスター・リバプール鉄道に使用する機関車を決定するために、レインヒルで競争が行われた。これには5台の機関車が参加し、このうちの1つがノベルティー号である。この機関車は、Braithwaite と Ericsson が製造したもので、競争初日には45km/hの速度を出した。
展示されている機関車は複製で、2005年9月に製造されたものである。


 
3号蒸気機関車 Pender(1873)
この蒸気機関車はマン島鉄道(The Isle of Man Railway (IMR))で使用されていた機関車で、1873年にマンチェスターのBeyer, Peacock & Companyが製造したものである。マン島鉄道はダグラス(Douglas)からポート・エアリン(Port Erin)を結ぶ鉄道で、狭軌(3ft(914mm))を採用していた。
展示されている機関車は,ご覧のように向かって左半分がカットモデルになっていて、内部の様子を見ることができる。
 
GLクラスBeyer-Garratt蒸気機関車2352号(1930)
この機関車は南アフリカ鉄道で使用されていた「関節式蒸気機関車」でガーラット式機関車と呼ばれる。ガーラット式とは、発明者のHerbert William Garrattにちなんだもので、ボイラー部が2つの台車上に乗る構造である。
  Experimental Jet "Lightning Fighter" PIA(WG763)(1955)
このジェット機は1954年8月に初めて音速を超えたジェット機である。このジェット機はランカシャーにあるEnglish Electric Companyにより製造され、1955年7月に最初のフライトが行われた。

  「桜花」11型(MXY-7) (1944年)
この航空機は、日本海軍が開発したもので、大型の航空機に吊されて運ばれ、発射される。「桜花」は機首部に大型の爆弾を搭載した特攻兵器として製造された。この博物館に展示されている経緯は不明。
Rolls-Royce Avon 100シリーズ航空機エンジン(1950年代)
このエンジンはロールスロイス社製の航空機エンジンで、1947年にプロトタイプが試作され、Vickers Valiant爆撃機やHawker Hunter F4戦闘機などに使われた。
  Supermarine Spitfire FRXVIe(1945年)
この飛行機は、Supermarine Aircraft社製のスピットフィヤ戦闘機で、1936年に開発され、1947年まで使用された。この機体は1945年に製造されたものである。エンジンはロールスロイス社製である。
   Roadster(1905)
この自動車はRolls-Royceが1905年に製造したもので、元々は4シートであった。1906年にRoyce自身が使用していたものである。
   Horse-Drawn馬車(1895)
この馬車は、Joseph Cockshootが1895年に製造したものである。
   マンチェスターの地下水路の実物大模型
この地下水路トンネルは、19世紀のマンチェスターのVictorian Cityの様子を表したものである。
   耐火煉瓦用の充填具(年代不明)
この鉄砲のような道具は、耐火煉瓦のすき間を埋めるセメントを充填するために使われた。
   フェランティの変圧器 NO.620
Ferranti社が1900年頃に製造した初期の変圧器。製造はマンチェスターのOldhamにあったHollinwood工場。外寸は意外に小さく、560mm×620mm×660mm。
博物館の収蔵資料検索では発見できなかったため、博物館に問い合わせたところ丁寧に教えてくれた。
   English Electric社の交流発電機
この発電機は、ロンドンのEnglish Electric Company Ltd.が製造した交流発電機である。三相6600V、15625kVAの出力で、回転数は3000rpmである。
  The Hartree Differential Analyser(微分解析機)
この微分解析機は、ボランティアスタッフの手により実働し、デモンストレーションでは円を出力してくれる。
   大気圧エンジン(1712年)(実物)
1712年にNewcomenにより製作された大気圧機関である。
   大気圧機関のピストン(1785年頃)
ニューコメン型大気圧蒸気機関のピストンで、カンブリアの石炭炭鉱で排水ポンプとして使われていた。
   Crossley Engine
博物館の屋外に展示されているのは、マンチェスターのCrossley Brothersが製造した2シリンダーエンジンである。
   Ottoの最初の4ストロークエンジン(1886)〜レプリカ
このエンジンはNikolaus August Ottoが1876年に開発した4ストロークエンジンを博物館スタッフが再現したものである。3馬力、180回転。
   Crossley Gas Engine(1886年)
このエンジンはCrossley Bros.が製造したOttoの初期モデルである。
6.6馬力、300回転。
   Bisschop Gas Engine(1882年)
このエンジンはJ. E. H. Andrewsにより製造された単シリンダ垂直ガスエンジンである。ヨークシャーで衣類のしわ伸ばしローラーの駆動として使われていた。1.5馬力。
   Diagonal Engine(1890)
このエンジンは、J.Woodにより作られた蒸気エンジンである。ピストン部分が斜め(Diagonal)になっているのが特徴である。100気圧、速度可変。実際に稼働しているのを見ることができる。
   Grasshopper Engine(1840年頃)
Grasshopper(バッタ)という名称は、ビームが昆虫のバッタの足のように動くためである。小型のエンジンで、5馬力、20回転であった。当時はロンドンのアルカリ工場で使用されていたようだ。
   最後の蒸気エンジン(1926)
この蒸気エンジンは、W & J Galloway社により製造されたもので、ランカシャーの織物工場で使われていた。600馬力、125回転。フライホイールの重量は12tもある。
   Ferranti Inverted Engine(1900年)
この蒸気機関はInverted Vertical Cross Compound Engineというもので、1900年にFerrantiで製造され、ロンドンのLambeth発電所で使用された。
   Whitworth Planing Machine(1842年)
この機械はJoseph Whitworth and Companyが製造した平面研削盤である。
London & North-Western Railwayの工場で使われていた。
   Cylinder Sluice Gate(1850年頃)
この構造物は、Longdendale ValleyのManchester Water Supply Worksで使われていた円筒型排水門である。博物館の屋外に展示されている。
   パズルを体験中


【マンチェスターの建造物へ】

Metrolink Victoria Station

◆開館時間:10:00〜17:00

◆休館日:なし(但し、12月24日〜26日と1月1日は休み)

◆入館料:なし(但し、3ポンドの寄付を求めている)

◆交通機関:
鉄道「ディーンズゲート(Deansgate)駅」より徒歩5分
またはMetroLinkという路面電車「Deansgate-Castlefield駅」より徒歩5分
または無料のメトロシャトルというバスNO.2(グリーンルート)でDeansgateまたはLiverpool-Road下車、
またはNO.33のバス(有料)で、Liverpool-Road下車。

◆問い合わせ先:Liverpool Road、Castlefield、Manchester M3 4FP、England
     電話 (0161)832−2244
     https://www.scienceandindustrymuseum.org.uk/



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