本格製本にチャレンジ 2023.08.01 |
書きためていた原稿をまとめて一冊の本にしてみた。自費出版などすれば数十万円の出費となり、大体は100冊単位となるので、大量の在庫が狭い家の一角を占めることになる。1冊あるいは数冊ならば、自分で印刷から製本まで行ってもそれほど手間がかかるわけではない。今回はハードカバーの本格的な書籍を作ってみることにした。ハードカバーには背が丸まった丸背と、平らな角背があるが、丸背は処理が難しそうなので、角背とした。むろんプロが作った書籍に比べれば見劣りするが、世界に1冊しかない本だと思えば愛着もわいてくる。製本の本を参考にしながら、見よう見まねで何冊が作成した経験を以下に記しておく。 図1 作成した本 今はパソコンを使えば原稿印刷も容易である。おおかたのプリンタはA4サイズを基本にしたものが多いので、作成する書籍の大きさはA5版横書きとした。A4の紙に横に2ページ分を両面で印刷したものである。これは、プリンタの「冊子」という分類にすると、図2のように、折ったときにページが1~4ページまで順番になるように印刷してくれる機能である。これを一定の枚数を束にして並べていく。 図2 冊子印刷 図3 冊子印刷(4枚束の場合のページ) 1.本の中身の作成 (1)ワープロの書式設定 本にする原稿は各自が用意されたい。ワープロソフトで作成することになるが、以下のような書式にしておくとよい。私は「一太郎」を使用しているので、以下はその方法になる。WORDでも同様のことが可能だが、やり方が異なる点もあるので、不明な点はネットなどで参照されたい。 「書式設定」で、「余白」をすべて「20mm」に、「文字数」は40字、「行数」は45行とする。フォントは10.5ポイントを使用する。ただし、冊子で印刷すると、縮小されだいたい7.5ポイントの大きさになるので、もう少し大きいフォントがよい人は、12ポイントにしておく。これならば8.5ポイントくらいになる。 (2)本の中身の構成 通常、本の表紙をめくると、薄いいろ紙がある。「見返し」といい、表紙に貼り付いている方を「効き紙」ひらひらしてる方を「遊び紙」という。この見返しあとの部分が本の中身に相当する。中身は「前付け」「本文」「後付け」に大別される。 ・前付け~扉、口絵、標題紙、献辞、自序・まえがき・はしがき、目次、図版目次、凡例などが記述される。すべてが必要なわけではない。 ・本文~いくつかの章や節、編などに分けたり、数字で区分したりする。区分がないものもある。 ・後付け~付録、索引、あとがき、奥付けなどがある。奥付には、書名、著者名、発行年月日などを記す。 どれを省略して、どれを採用するかは、各人の好みによる。 (3)完成原稿の印刷 原稿が完成したら印刷をする。印刷をしないと、なかなか画面上ではすべてのミスを見つけることは不可能に近い。このとき、「冊子」の状態で印刷すると、実際の本のイメージがわく。 冊子印刷するには、「印刷」で「冊子」を選び、「出力用紙」を「A4」に、「印刷方法」を「いくつかの束にまとめる」にチェックを入れ、数を「4枚」にする。プリンタのプロパティを開き、「両面印刷(短辺とじ)」として、印刷を開始する。 このように印刷された原稿は4枚を1束として扱うとやりやすい。従って、4枚の裏表印刷ではワープロの原稿で16ページに相当するから、これが一つの単位になるようにページ配分を考えると扱いやすい。 (4)私の構成(参考例) 私は構成は以下の通りとした。 ・表題紙(裏は白紙)(あわせて2ページ) ・まえがき(1ページ) ・目次(1ページ) ・第1章タイトル(裏は白紙)(あわせて2ページ) ・本文(第1章)(13ページ) -ここまでを1まとまりで印刷した。19ページなので、ここだけ「5枚」の束として印刷した。 ・第2章タイトル(裏は白紙)(あわせて2ページ) ・本文(第2章)(70ページ) -ここまでを1まとまりで印刷した。72ページなので、「4枚」の束で印刷、最後の束は2枚となった。 ・第3章タイトル(裏は白紙)(あわせて2ページ) ・本文(第3章)(98ページ) -ここまでを1まとまりで印刷した。100ページなので、「4枚」の束で印刷、最後の束は1枚となった。 ・参考資料(3ページ) ・資料(4ページ) ・おわりに(2ページ) ・索引(6ページ) ・著者紹介・奥付(1ページ) -ここまでを1まとまりで印刷した。16ページなので、「4枚」の束で印刷。 ページ数の設定にあたっては、本文のみにページ数をつけた。それ以外はつけなかった。ページ数の設定は、ページ数をつけない枚数の設定や、開始ページ番号の設定で、本文のみにページ数が連続してつくように気をつけた。 2.製本(折りと縫い) (1)折り 印刷したものを半分に折っていく。ほぼ4枚ごとになるように印刷したので、4枚重ねて折る。何枚かは例外があるので、ページ数が連続するように気をつけて折る。手で折っただけでは厚みがあるので、圧を加えて折り目をなじませる。一晩おけばよい。私は、写真のような簡易製本器を持っているのでこれを使用して圧をかけた。この製本器は昔、,愛知の工業高校の教師であった石田先生に教えてもらったもので重宝している。代わりになるものとしては、幅30~50mmくらい、長さ210mm以上の堅い板2枚にはさんでクリップやクランプでとめるのがよい。木が薄かったり、柔らかったりすると曲がるので、曲がらない程度の固さと厚さが必要である。 図4 簡易製本器 (2)切れ目を入れる 折り目が落ち着いたら、縫いのための穴あけをする。製本器にはさんで、2mmほど背の部分を出す。このとき本体の天地が一直線になっているのを確認すること。背の部分に、左から15-36-36-36-36-36-36 の位置に印をつける。この印の位置にのこぎりで切り込みを入れる。私は、藤原産業の「細工用ミニ片歯鋸プラスチック用」(SSM-6)というのを使用している。歯が薄いので、紙にあけた穴が大きくならない。鋸で1~1.5mmくらい切り込みを入れる。 図5 切り込みを入れている様子 図6 使用しているのこぎり (3)縫い 本体の背の部分はボンドでとめるが、そのままでは4枚のうちの内側の3枚は抜けてしまう。そのために糸でページを縫う作業が必要になる。紙の枚数を4枚一束としたのは、折ったときに丸みが出にくく、糸を引いたときに紙をやぶいてしまう恐れも少ないためである。だから束を作ったときに、1枚の束が出たときは無理に縫うことをせず、そのまま背をボンドでとめればよい。 縫いは最初のページからでも最後のページからでもよいが、ページ番号が続くように配置していく。一度、向きを間違えて縫ってしまい、ほどいたこともあった。ご注意あれ! 縫い方にはいろいろな方法があるが、以下の方法が一番やりやすかった。 縫い糸は白のミシン糸を使用した。細いし、毛羽立ちが少ない。ただ緩みやすいので、緩まないように注意しながら縫っていく。糸の長さは、束の数N×36+αの2倍の長さである。私の場合は、14束なので、(14×36+200)×2=1408mmで、約1.5mとした。これを針に通し二重にした。針は普通の縫い針で良い。 図のように3カ所縫うところがあるので、針と糸は3セット用意する。順番に束を重ねて縫っていく方がやりやすい。 図7 縫っている様子 図8 縫い方の順番 まず①から入り、②に出る。糸の端は①のところに50mmほど残しておく。他の2カ所も同様に縫う。 2番目の束を重ねる。このとき新しい束の半分のページ分だけを前の束とクリップで止め、動かないようにしておくと作業がしやすい(図7参照)。ここでの注意点は、束の天地をしっかり合わせることである。 2束目の②から入り、①に出る。出た糸と最初に残しておいた50mmほどの糸をしばる。たるみがないことを確認してしばること。他の部分も同様にする。 3束目を重ねる。3束目の①から入り、②に出る。出た糸を1束目と2束目をつないでいる糸に通しておく。こうすることでたるみが減る。他の部分も同様にする。 4束目を重ねる。4束目の②から入り、①に出る。出た糸を2束目と3束目をつないでいる糸に通しておく。 以下、同じような要領で縫っていく。注意点は、糸を引っ張るときに、穴の部分でからまるので、棒のようなものでからまらないようにしながら慎重に糸を引く。 最後の束まで縫うことができたら、縫いはじめの端の糸とからげて結ぶ。結ぶ前に各束にたるみがないように注意する。 再び製本器に入れ、束をそろえ、圧をかける。背にボンドを塗り、固定する。製本用のビニール糊(製本背固め用)というのもあるが、私は木工用ボンドを使用している。コニシ(株)の「ボンド 木工用(速乾)」である。このときは原液を塗る。 図9 縫いが終わり束ねて押さえている状態 (4)寒冷紗・クータ・花ぎれ 寒冷紗はガーゼのように目の粗い布で、本の見開き部分の補強用に使用する。寸法は、長さは本体の天地(今回は210mm)-20mm、幅は本体の厚さ+40mm。 クータは、本の背と本体の間に入れる。本の開きがよくなる。クータは、クラフト紙などでつくる。使用済みの茶封筒でよい。寸法は、長さは本の厚さ-20mm、幅Bは本の厚みで、筒状にしておく。AはB×2+5(のりしろ)である。私は封筒を切り抜き、折り曲げ、端をボンドでとめた。 花ぎれは、本の背についている布である。なくてもよいが、見栄えがよくなる。専用のものもあるようだが、私は和紙とたこ糸で自作した。切る幅は本の厚さである。 まず、ボンドで寒冷紗をはり、花ぎれをはる。それからクータをはる。 図10 寒冷紗・クータ・花ぎれを貼ったところ 図11 クータの寸法 図12 自作花ぎれ (5)見返しをはる 見返しは、A4用紙を半分に折ったものを使用する。色がついているのを使うとみばえがよい。私は、プリンタ用紙のA4色上質紙を使用した。「中厚口」(80g・m2)で、通常の上質より少しだけ厚い。 折り目の部分を本体の最初のページのとじてある側に細めにボンドをつけてはる。同様に最終ページにもはる。 図13 見返しを貼る 3.表紙づくり (1)ボール紙の裁断 板ボール紙を裁断して表紙の芯にする。寸法は、図15の赤線部分である。2mm厚のボール紙がよいが、薄いボール紙しか入手できない場合は何枚かを貼り付ける。私は表紙用ボール紙を3枚重ねて貼り付け、2mm厚のものを作った。背の部分Aは、本体の厚さ+ボール紙の厚さ×2の幅である。私のものは厚さ9.5mmだったので、13.5mm幅とした。 図14 ボール紙の裁断 (2)表紙用紙の印刷 表紙用としてボール紙に貼る紙は、包装紙なども試してみたが、薄いためのりで貼るとしわがより、なかなかうまくできなかった。いろいろ紙を試した結果、以下の方法が一番よい結果が出た。使用した紙はA3版のプリンタ用紙で、長門屋商店の「特厚口」用紙である。128g/m2と厚い。値段は50枚入りで1620円だった。表紙に印刷する原稿は、A4横の大きさで作成し、中央に縦書きで題名と著者名、右の面に題名と著者名、カットをいれた。これをA3版用紙にはりつける。特に縦書きの部分が表紙の用紙の中央にくるように調整すること。私はA3も印刷できるプリンタを持っているのでこれで印刷したが、ない場合はコピー屋さんでコピーしてもらうとよい。こうするとタイトルが表紙と一体化しているので、市販本にも負けない表装となる。また、背にタイトルをつけておくと、本棚に並べたときに見つけやすい。 (3)表紙用紙の裁断 印刷した表紙用紙は図にしたがって青線で裁断する。寸法については、用紙の裏に鉛筆で線引きをしておくとよい。まず印刷された表紙用紙の縦書き部分(背のタイトル部分)が真ん中にくるように裏に鉛筆で縦線を入れる。この線を基準にして図のように線を引く。青色が裁断線である。 図15 表紙用紙の寸法 図16 寸法を入れて、裁断した様子 (4)ボール紙の貼り付け ボール紙の貼り付けで大事な点は、ボール紙が横一直線にそろっていることである。この点に注意をはらう。 使用するのりは、速乾用ボンド3に対し、でんぷんのり1、水1くらいの割合でよく混ぜる。これをはけを使って塗る。塗るのはボール紙の方である。塗る際に気をつけることはべっとりと塗らず、できるだけ薄く広げるように塗ること。容器はペットボトルの底を20mmほどのところで切ったものを使っている。 図17 ボール紙を貼るときののりとボンド、水の割合 まず、表紙用紙の下にA3の紙を置く。これは最後に用紙でボール紙をくるむ際に便利であるため。 最初に、背のボール紙を貼る。 次に表紙側のボール紙をはる。貼る位置が正しければ、裏返し、布などでしわのある部分や空気が入っている部分をのばしていく。 その後、裏表紙側のボール紙をはる。同様に布などでのばす。 表紙用紙の余白部分を貼る。まず長手方向の下側部分の余白にのりをつける。つけおわったら、下に敷いてあるA3用紙を持ち上げ、表紙用紙を折り曲げ、いっきに押さえる。A3用紙をはなし、布などで表紙用紙がボール紙にしっかりつくように、押しつける。 次に、用紙を180度回転し、反対側の長手方向の余白をのり付けする。 残った余白部分は、まず角の部分を定規などでしっかり押しつけておく。先ほどと同様にのりを塗り、A3用紙を持ち上げて貼り付ける。 終了したら、このままでは湿気でボール紙が反るおそれがあるので、平らなところに置いて、上に板などを置き、重しをかけて乾かす。一晩あればよい。 図18 表紙用紙に芯材を貼り終わった状態 図19 角の部分の処理 4.表紙と本体を合わせる (1)表紙と本体を合わせる 表紙が乾いたら、背の部分のボール紙に沿って折り目を軽くつけておく。 表紙をひらき、ボール紙のない部分(9mmのところ)にボンドを塗る。ボンドは原液である。 続いて、本体の背の部分にボンドをつけ、表紙でくるむ。くれぐれも本体と表紙がさかさまにならないように。 表紙をとじて、ボール紙のない部分を表から、へらなどのようなものを使って、表紙ボール紙のふちに沿って押さえつけるようにする。背の部分は押さえつけなくてよい。裏も同様にする。終わったら、たこ糸などのひもで、へこんだ部分に糸を二重に巻き付け、しばる。私はたこ糸(NO.6、糸の太さ約1mm)を使用している。このまま乾くまで置く。乾ききらないうちに次の作業に入らないこと。 図20 たこ糸でしばる (2)見返し(効き紙)を貼る 乾いたら糸をはずす。見返しの効き紙側を表紙のボール紙に貼り付ける。見返し紙の折り目の間にA4やB5の紙をはさむ。効き紙の表紙側にのりをつけて表紙をとじる。この糊は表紙を作ったときに塗ったのりと同じものである。すぐに表紙をひらき、しわなどを布などでのばす。はみでたのりもぬぐっておく。間にはさんだ紙を新しいものに交換する。交換しないと、ついたのりで表紙とくっつくおそれがある。裏表紙部分も同様に行う。再度乾かす。一晩あれば良い。 図21 見返しと表紙を貼り合わせる これで完成である。 【参考】 ・新技法シリーズ107『手づくりの本~雑誌の合本から趣味の本づくりまで』天木佐代子、美術出版社、1979.11 ・子どもとつくるシリーズ5『えほんをつくる』栃折久美子、大月書店、1983.9 ・『日曜日の遊び方 手づくり製本術』岩崎博、雄鶏社、1994.10 ・『手で作る小さな本 豆本づくりのいろは』赤井都、河出書房新社、2009.11 |
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