火花通信の体験~LEDを遠隔コンロトールする    2024.8.9
 
 最初の無線通信は、火花を使ったものでした。無線通信ではマルコーニが大西洋を横断して通信を行ったことが知られていますが、このときに使われた送信機は火花式送信機でした。

 火花通信は、間隙(ギャップ)に高電圧を加えると放電することを利用して電波を作り出すものです。通常、高電圧を作ることはなかなかできませんが、ライターやチャッカマンの点火部に使われている圧電素子は瞬間的に高電圧を発生させて火花をとばし点火するものです。これを使って火花を発生させてみましょう。そのままでも電波は発射されているのですが、火花が飛んでいるのが見えにくいので、火花が見える火花ギャップ装置を作ることにしました。子どもたちに見せるにはこういう工夫が不可欠です。

 この火花による電波を受信して、LEDの点滅をコントロールできるようにします。受信には、これも昔の通信に使われていたコヒーラを使います。コヒーラを介して電池とLEDをつなぐと、電波が到来することでLEDが点灯します。

(1)チャッカマンの改造

 火花の発生源として使うのには、ライターよりもチャッカマンの方が改造するのが容易なので、こちらを使います。(以下の改造は個人の責任で行って下さい)

図1

 まず、チャッカマンのレバーを押してもガスが出ないようにします。私は100円ショップで売っていたチャッカマンを使いました。図1の(1)の「止め具」をはずします。止め具の下部に(-)ドライバなどの先を差し込み、上に押し上げるようにすればはずれます。すると(2)の「筒」を抜くことができます。(+)ドライバで(3)のネジをはずせば本体がひらきます。開いた図が図2です。ガスボンベの上部に黒いプラスチックの開栓キーがはまっているので、これを取り去ります。ガスボンベは取り去っても良いのですが、廃棄処理がめんどうですから、そのまま残しておきました。取り去ったら、本体を元に戻します。このとき点火スイッチの向きが逆になっていると押すことができないので、ネジを閉める前に確認してください。

図2

 筒と止め具は使用しません。筒を使わないと本体の細い部分が開いてしまうので、セロテープなどでとめてください。これで改造は終了です。チャッカマンの先端部分が(-)電極、止め具のあったあたりに出ている導線が(+)電極です(図3)。これらの電極は高電圧を発生するので、触れたままでチャッカマンのスイッチを入れないようにしてください。この電極から火花ギャップ装置に配線を行います。

図3


(2)火花ギャップ装置の製作

図4  図5

 アクリル板とネジを使って火花ギャップ装置を製作しました(図4)。ネジはM3-50という3mm径、長さ50mmのなべ小ネジを2本使いました。ネジの先端部をヤスリでだいたい45°の角度でとがらせておきます(図5)。アクリル板の寸法は図6に示しました。このとおりの寸法である必要はまったくありません。アクリル板の土台に小さなアクリル板を貼ったのは、たての板が互いに平行になるようにするためと、補強のためです。私はネジの取り付け部にタップでネジを切りましたが、できなければ両側をナットで止めても問題はありません。その時の穴の径は3.2mmです。

 図6

 製作のポイントは、とりつけたネジの先端がズレないことです。したがって、製作の順番としては、(1)土台にアクリル板を置き、セロテープでとめる。接着剤を流し込む。数十秒で固定されるので、セロテープを外し、まず一方の側板にネジを半分ほど入れ、土台の上の小さい板と接着します。これが固定されたら、もう一つの側板にネジを同様に取り付け、置いたときにネジの先端部分がきちんと向き合うようにして、その位置で接着します。土台にのせる小さなアクリル板が平行に加工してあれば、ネジをずらしても先端がずれることはありません。

 チャッカマンの電極からワニグチクリップの線を各ネジにつなぎます。最初は1mmほどのギャップ間隔でチャッカマンのレバーを押します。放電が開始されればできあがりです。ギャップ間隔を調整して、放電がよく観察できる位置でネジを固定します。図6は最初に製作した火花ギャップ装置を使った実験の様子で、少しずつギャップ間隔広げていったところ、8mmまで放電しました。図は7mmの間隔での放電の様子を撮影したところです。一般にギャップ1mmあたり約5000Vと言われているので、チャッカマンの発生する高電圧は30000V以上だということになります。

図7

(3)簡易コヒーラの製作
図8

 
コヒーラは、図8のようにガラス管の中にニッケル粉末を入れたもので、普段は接触抵抗が大きいため電気は流れませんが、電波が到来すると抵抗が減少し電流が流れるようになります。この働きを利用して電波の到来を知ることができます。電気が通るようになったコヒーラは、振動を与えて固化した粉末を元に戻してやらないと再び使うことができませんでした。ですから電気が通ったら電磁石を働かせて、ガラス管を叩いてやる装置が必要でした。ここでは金属粉末の代わりにアルミホイルを丸めたものを使います。

 
アルミの丸めたものを入れる入れ物には、アルミホイルの芯(筒)を使いました。以前作った時にはフィルムケースを使ったのですが、最近は入手困難ですからこうした廃材を使います。少し強度が足らないかもしれませんが、トイレットペーパーの芯でも使えます。この芯を40mmの長さに切って使いました。底の部分は図10のような形に厚紙を切って使います。点線の部分にアルミホイルを切ったものに両面テープを貼り、厚紙に貼り付けます。貼るときにホイルどおしがつながらないようにしてください。5~10mmくらいの間隔があればよいです。これがコヒーラの電極になります。芯の片面にこの厚紙を貼り(アルミホイルの電極が内側になるような向き)、電極でない出っ張りを曲げて、芯の側面にセロテープで貼り付けます。

図9  図10

 アルミを丸めたものを作ります。私は50mm四方くらいに切ったアルミホイルを丸めました。丸めはできるだけ硬めに丸めてください。製作した入れ物の20mmくらいの深さが埋まるくらいあればよいと思います。私は20ほど作りました。

(4)LEDの回路をつくる

図11

 簡易コヒーラとLEDを接続した回路図を図11に示します。私が実験したときにはLEDと電池の間には抵抗を入れなくても問題なかったのですが、ある集まりでこの実験をしたところ、何人かの製作者のLEDが破損するという事態が起こりました。状況によってはLEDを破壊する電流が流れることがあることがわかったので、回路には電流制限用の抵抗(100~200Ω)を直列につなぐようにしてください。

(5)火花電波でLEDの点滅の遠隔操作をする

 
火花ギャップ装置を用意して、電波を出せるようにしておきます。LEDの回路は電池をつなぐとLEDが点灯してしまうことがあります。そのときは、簡易コヒーラの筒を軽くたたくなど振動を与えれば消えます。消えた状態で、チャッカマンを押して、火花を出すと。LEDが点灯します。点灯するとそのまま点灯し続けるので、一度振動を与えるとLEDは消えます。また、火花を出せば点灯します。このようにして電波によってLED点灯がコントロールできます。

 火花が出ているのに、LEDが点灯しない場合は、火花ギャップの向きにコヒーラがない、あるいは火花ギャップとコヒーラが遠すぎる、などの原因があります。
この実験は、かなり再現性が高いので、必ず成功すると思います。


■これを使ったリモコンおもちゃがかつて存在した

 
この原理を使ったリモコンおもちゃがありました。私の持っている本にはバスの例があります。ネットには戦車の例がありました。コヒーラは簡易なものではなく、金属粉を使ったもののようです。ちゃんと受信後に振動を与えて、コヒーラを元に戻す小さな棒が見えます。これでも確かに「電波コントロール」ですから。

 図12

■火花式送信機の本格的な再現

 当時の火花送信機を漆谷正義さんという方が再現し、ユーチューブにアップしています。製作過程の記事は『RFワールド』NO.44、CQ出版社 にあります。
 https://www.youtube.com/watch?v=89yd0OAsInE

【図の出典】
図8:『無線百話~マルコーニから携帯電話まで』無線百話出版委員会編、クリエイト・クルーズ1997.7、P73
図12:『ヴィンテージラヂオ物語』田口達也、誠文堂新光社、1993.6、P70、P72

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