アイスの棒でスタイラス計算器をつくる    2023.09.20

1.スタイラス計算器とは
 スタイラス計算器(英名:Slide Adder、独名:Zahlenschieber またはGriffeladdierer)は、携帯用の加算、減算ができる計算具である。溝の中の歯をペンのようなものでスライドさせて計算をする。19世紀半ばにドイツのクンマー(Hermann Kummer)が商品として販売をはじめ、19世紀末にフランスのトロンセ(Louis Troncet)が"Arithmographe"という商品名で広めた。この計算器でよく知られているのは、ドイツのキュブラー(Carl Kübler)の製造した"Addiator"である。この計算具は欧米を中心によく使用されたようで、1950年代まで製造された。電卓の登場により姿を消した。

 
図1 スタイラス計算器(これはArithmographe)
              図2 製作した計算器

 この計算器の構造は図3のように、中に両歯の棒板が入っている。棒板1本が計算の1桁に相当する。各桁ごとに数字の表示窓があり、その上に溝があって、ここから両歯の片側が見える。図3では、数字窓に02150がみえる。例えば、これに5200を加算する場合には、左から2つ目の溝の「5」の位置にペンを差し込み、溝の下まで押し下げる。するとこの桁の数字窓は「7」となる。百の位の計算は、左から3つ目の溝の「2」の位置にペンを差し込み下まで押し下げる。数字窓の表示は「3」となる。これで、2150+5200=7350の答えが出たわけである。では、この7350に8000を加えるにはどうするか。このように7+8のような桁上がりを生じる計算の場合は、下ではなく上に押し上げるのである。つまり、2つ目の溝の「8」にペンを差し込み、上まで押し上げる。これは7-2という操作をしたことに等しい。そして、そのままステッキのように曲がっている溝に沿ってペンをはしらせると次の桁の歯を1つ押し下げる操作をすることになる。つまり、桁上げ操作をしたことになるのである。溝が上方でステッキの持ち手のように曲がってるのは、スムーズに桁上げ動作をするために必要な機構なのである。歯の部分には色が塗られており、黒ならば下へ押し下げ、赤ならば上に押し上げるように、動作の指針となるようにできている。

図3 スタイラス計算器の構造

 この計算器には様々な種類があり、加算だけのもののほか、上下で加算と減算ができるようにしたものや、表と裏で加算と減算ができるようになっているものもある。減算は9の補数で表示する数字を記してやればよいのだが、今回は含めなかった。

2.計算器をつくる
  スタイラス計算器は、両側に歯がついた棒板が製作のポイントになる。ボール紙で作ることも可能だが、歯の部分が痛みやすい。この猛暑でお世話になったアイスの棒を「何かに使えるのでは・・・」ととっておいたのに目をつけて、これを棒板にしようと思った。木製の他には厚さ1.5~2mmのアクリル板などでもよいと思われる。

(1)棒板をつくる
 アイスの棒の寸法は長さ93mm、幅9.5mmが標準のようである。これを図4のように寸法をとり、のこぎりで切れ目を入れていった。

図4 棒板

 桁数は4桁とした。桁数が多いほど実用的になるが、棒板の製作に時間がかかる。右端の桁の棒板は桁上げが必要ないのでBタイプとする。

 歯は2mm間隔で、のこぎりを使って切る。アサリが狭いのこぎりがよい。筆者は、藤原産業のSSM-6「細工用ミニ片刃鋸プラスチック用」を使用した。その後、カッターナイフで切り落としていく。筆者はペン型カッターナイフ(NT Cutter D-400)を使用した。アイスの棒は長手方向に木の木目があるので欠けやすい。欠けたものはボンドで修復した。
 棒板ができたら、ここに数字を記入していく。また、操作の際に、下に歯を押し下げるか、上に歯を押し上げるかの区別を(上)の操作のみ歯に赤色を塗った。
 左側の切り込み端を基準とし、これより4mmずつ下げたところに「0」と「1」を書く。「2」は基準線の中心に数字の中心がくるようにする。以下、「3」~「9」は同様に書く。
図5 棒板に数字と赤マークを入れる

 棒板の裏にスライド用の厚紙をはる。棒板の端から5mmのところに、長さ83×幅4の厚紙をはる。私は厚さ1.5mmのボール紙を使用した。これは底板に使用した紙と同じものである。これで棒板が動く範囲が決まるので慎重にはること。

 底板を加工する。私は1.5mm厚のボール紙を使用したが、1mm前後であれば問題ないと思う。加工図を図5に示す。図6の周囲の枠のようなものは、棒板と同じ厚さのものを周囲にはることを意味する。私は材料に棒板と同じ厚さの2mmのバルサ材を切って使用した。寸法は、3×60が2本、3×133が2本である。

 
   
図6 底板の寸法                            図7 表紙のデザイン

 
表紙は0.7mm厚の厚紙を使用した。0.5~1mm厚くらいの紙が適当ではないかと思われる。図7にデザインを示す。中央の数字は図の通りに記入し、他は各人で考えるとよい。表紙の寸法を図8に示す。

図8 表紙の加工寸法 図9 表紙と中身

 底板に棒板をセットし、スムーズに動くか確認する。動きがわるいときはサンドペーパーなどで、底板の溝を削る。また、表紙を重ねてみて、数字窓から数字が見えるか、歯が表紙の溝から見えるかなどを確認する。これらを修正したのち、表紙をボンドでとめる。これで完成である。

【図の出典
図1 スタイラス計算器"Arithmographe" ロンドン科学博物館で筆者撮影(2013.8)
他は筆者撮影・作成

【参考】
・城憲三『数学機器総説』再版、増進堂、1948
・Wikipedia(ドイツ語版)"Zahlenschieber"
・"Zahlenschieber" https://www.rechnerlexikon.de/en/artikel/Zahlenschieber


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