標準周波数時報局 WWVB 
<BACK>  update:2021/06/21
1.はじめに
 NIST(National Institute of Standards and Technology:国立標準技術研究所)の前身であるNBS(National Bureau of Standards:国立標準局)の科学者たちは、早くも1905年には無線周波数の伝播の研究を始めた。そして、WWV、WWVH、WWVBが運用されるようになった。ここでは、長波時報局のWWVBについて述べることとする。

2.WWVBの歴史
 WWVBは1956年7月にラジオ放送局KK2XEIとして運用を始めた。この実験局は、コロラドのボールダー(Boulder)から平日の15:30から20:00UTCまで運用された。60kHzの連続波信号は、20分ごとに送られたコール・サインの他は無変調であった。実効放射電力(ERP)は初めは40Wであると言われていたが、その後1.4Wに減らされた。1957年1月のデータでは、この放送の周波数が隣接したボールダー研究所の国家規格2~3×10-10以内にあったことを示しており、LF送信がWWVとWWVHよりもはるかに安定であることを証明していた。

図1 KK2XEI局のアンテナ

 60kHzの放送の成功は、WWVLという名の超長波(VLF)ラジオ放送局の構築に結びついた。それは、1960年4月にコロラドのサンセット(Sunset)から20kHzの搬送周波数を使用して運用が開始された。それは元々は、20kHzで全世界をカバーし、60kHzで全アメリカをカバーする計画であった。1960年3月、コール・サインWWVBが60kHzの局に交付された。WWVBは60kHz、5kWの放送を1963年7月5日に始めた。これはその後7kWに、さらには13kWに増加され、1997年12月までこの地で行われた。

 1965年7月1日にタイム・コードがWWVBに加えられた。これは、信号を解読し、時刻を自分自身で自動的に回復することができる電波時計の設計を可能にした。
 タイム・コード・フォーマットは1965年以来ほとんど変わらなかった。顧客の数はたいへん少なかったが、WWVBを活用していた較正研究所は、周波数基準として60kHzのキャリアーを使って発振器等のデバイスの較正をしていた。

図2 WWVBの送信室

 WWVBの老旧化した送信設備は、1994年2月7日に最初の危機をもたらした。濃霧でアンテナが凍り、約30時間WWVBは放送を停止するしかなかった。1994年10月初め、NISTは、WWVBのシステム更新のために、米国海軍のLF/VLFサポートグループの専門家や技術者を雇った。報告書では、WWVBのアンテナ自身はよい状態であったが、送信機と関連設備は更新が必要とされた。
 WWVBの出力増加は1997年12月までに行われ、ERPは約25kWに増加された。1999年8月5日までには、すべてが更新された。新しいWWVBは、同じ60kHzの信号を同期的に放送する2本のアンテナと2台の最新の送信機で構成された。これがERPを50kWに増加させ、前の改良時より4倍以上のパワーをもたらした。パワーの増大は、カバーするエリアを大幅に増加させ、WWVBに同期した安価な電波時計の普及に貢献した。

3.WWVBの施設・設備
(1)WWVBの土地
 WWVの項を参照

(2)WWVBの建物と設備
 WWVBの建造は1962年に始まった。平屋建てのWWVB送信機の建物は大量生産の鋼パネル構造で、現場でコンクリートの台の上に組み立てられた。1963年に完成した建物には、送信機室、スクリーンルームとして知られる2つの静電遮へい空間、研究所エリアおよび小さな洗面所を含む。1966年には、2つのオフィス、受付、会議室、洗面所および小さな調理室を含む管理棟が追加された。また、1996年には送信機増設用の建物、2000年には発電室が加えられた。全体として、WWVBの送信機の建物は、5476平方フィート(508.7m2)の室内空間を持つ。

 ヘリックスハウスとして知られる小さな2つの建物が、各々のアンテナの中心の真下にある。これらは、送信機とアンテナのインピーダンスを整合させるための設備である。送信機とアンテナの電気的接続はヘリックスハウス内で行われる。

 WWVB電気システムは、商用電源ケーブルに接続された500 kVA、三相Y結線の油絶縁変圧器から成る。第2変圧器は、480Vの三相電力をメインブレーカー・パネルといくつかの電気ストーブおよび離れ屋に電気を供給する。配電システムは、1997年から2001年にかけて、新しいパネルやいくつかの新回路によってアップグレードされた。
 WWVBの無停電電源装置(UPS)はBest Power社のモデルUT-310が使われている。それは208V、10kVAの三相出力を持つ。通常負荷での動作時間は、3時間以上とされる。それは2000年に設置された。3つの1kVA Tripp Lite UPSのユニットはメインスクリーンルームの時間コード発生器に接続されている。

図3 WWVBの建物

図4 ヘリックスハウス

(3)WWVBの送信機

 コンチネンタル・エレクトロニクス社は、米国海軍のためにWWVBの送信機を最初に製造した。メーカーから型番218Bを与えられたそれらは、AN/FRT-72という軍用名称によっても知られている。それらは1960年代中頃に作られ、世界中の様々な海軍の通信局に設置された。
 現在、長波送信機LFT-1、LFT-2およびLFT-3として設計された3台のAN/FRT-72送信機がWWVBに設置されている。これらすべては、NISTによって行なわれたさらなる改良と共に、海軍の送信機オーバーホール・プログラムですべて点検されている。

それぞれの送信機は、異なる機能別に構成された6つのキャビネットに収められている。送信機のキャビネットは並んで置かれ、送信機本体は、長さ24フィート(7.3m)、奥行3フィート(0.9m)、高さ6.5フィート(2m)である。送信機は100%の運転サイクルにおいて平均出力50kWと評価される。それらは480Vの入力に接続され、標準出力レベルで運用する1台の送信機あたり約140 kVAの電力を必要とする。

 送信機は操作卓から制御され、高周波スイッチの集合はLFT-3の近くの主送信機室にある。スイッチ・マトリックスとして知られている高周波スイッチを使用すると、オペレーターはアンテナかダミーロードのいずれかにどの送信機も接続することができる。操作卓では、オペレーターが単一のアンテナか2本のアンテナかで運用することを選択でき、電源を入れて動作させるだけでなく、送信機の出力レベルをセットすることが可能である。さらにモニターには、出力レベル、アンテナ電流、配置の状況、商用電源の質および気象情報が映し出される。


図5 WWVBの送信機

(4)WWVBのアンテナ

 2つのWWVBの送信アンテナは、送信機ビルの北西から南東へと設置されている。それらはそれぞれ南アンテナと北アンテナと呼ばれている。2つのトップロード・単極アンテナはほとんど同一だが、北アンテナは元々20kHzのWWVLの放送のために使われていた。アンテナ群は、NBS(National Bureau of Standards)の顧問をしていたW.W.Brownによって設計され、1962~63年に組み立てられた。それぞれのアンテナは、4つのタワー、静電容量傘、引っぱり線およびグランドプレーンという3つの部分から構成されている。

 それぞれのアンテナの4つのタワーは、菱形に配置されている。タワーは3組のステーで固定され、各組には3本のケーブルが使われている。南アンテナのタワー2を除くすべてのタワーは、高さが400フィート(122m)であり、タワー2のベースは他のタワーより低い海抜にあるため、高さは415フィート(126.5m)ある。タワーは、30フィート(9.1m)長の溶接された鋼材の区画で作られている。それぞれの区画は、一面が4フィート(1.2m)の幅を持つ3つの面で構成されている。各区画は、積み重ねられボルトで締められ、連邦航空局規則に従って赤と白に塗られている。赤く点滅する標識とサイドマーカー灯が、それぞれのタワーに設置されている。ライトは光電池または光電スイッチによりコントロールされ、暗くなると自動的に点灯する。タワーはそれぞれの基礎で電気的に接地される。絶縁体はステーの近くにあるそれぞれのケーブルに取り付けられる。

 タワーは、静電容量傘と引っぱり線として知られるアンテナの空中素子を支持する。傘は、水平面で菱形に配置された一連のアルミニウムケーブルである。傘はタワーに直接固定されていないが、代わりに磁器絶縁物と接続されている。それは、基礎の近くで個々のタワーを引っ張る5000ポンド(2268kg)のバランスウェイトに鋼ケーブルで接続されている。これは傘がタワーから電気的に絶縁されることを可能にする。ケーブルは、それぞれのタワーの頂部に設置された滑車で引かれる。この配置によって、傘をタワーの間に「浮かす」ことを可能にし、地面とほぼ並行になるようにバランスウェイトでぴんと張られている。

 引っぱり線は、6インチ(152mm)の直径のリング形に構成された鋼芯を持つ6本のアルミニウムケーブルで作られている。それは傘の中央から、絶縁物を通して引っぱり線を垂直にしておくケーブルに接続される地上高93フィート(28.4m)の点で下方に引かれている。張られたケーブルは、5000ポンド(2268kg)のコンクリートウェイトを含む地上にあるバランスウェイトに接続されている。張られたケーブルの向こう側には、引っぱり線がヘリックスハウスの頂部の絶縁物に斜めに続いている。送信機との電気的接続は絶縁物を通して行われる。

 グランドプレーンは、アンテナ列の真下の地面に埋められた一連の未絶縁のワイヤである。2つのグランドプレーンがWWVBアンテナの一部として設置された。最初は、局が建設された時に設置され、アンテナと送信機ビルのまわりに網目状に埋められたワイヤ網から成り立つ。この設置で裸銅線の使用が、この土中で急速に悪化したことがわかったので、別のグランドプレーンは数年後に設置された。このプレーンにはスズメッキされた銅の網線が使用され、腐食に耐えた。新しいグランドプレーンは、1つのアンテナあたり300のワイヤから成り、ヘリックスハウスから約1300フィート(396m)に放射状に配置された。ワイヤは、8~10インチ(200~250mm)の深さに埋められ、アンテナマッチング機器の接地端と電気的に接続されている。


図6 WWVBのアンテナ

図7 アンテナとタワーの接続部


図8 ヘリックスハウスのブロック図

図9 ヘリックスハウスの内部

(5)周波数と出力レベル
 
WWVBは60kHzで持続的に放送する。通常の出力電力は50kWで、アンテナの運用は2本の構成されている。1本のアンテナによる予備の運用では、電力は27kWである。

4.WWVBの放送フォーマット
 WWVBの信号は、WWVのスクリーンルームにあるサイトマスタ時計から供給される。5MHz正弦波出力は、埋められたケーブルを経ておよそ436m先のWWVBのスクリーンルームに送られる。局の基準の1PPS(Pulse Per Second)の信号も同様に送られる。比較をする目的で、2番目の5MHzの信号が違うラックから送られる。WWVBのスクリーンルームでは、これらの5MHz信号は4つのWWVB時間コード発生器TCGに接続されている。TCGのうちの2つはサイトマスタ時計から供給され、他の2つは他のセシウム発振器の一つから供給される。TCGは、5MHz入力信号を分割し、60kHzの搬送周波数に落とし、WWVBの時間コードによってそれを変調する。

 WWVBのスクリーンルームは、自らのコントローラと時間コード比較器を備えていて、マイコンと半導体リレー、スイッチング回路を使って、精度のためにTCGの出力を監視し、制御する。WWVBのコントローラと比較器は、それぞれのTCGからの入力を受け、多数決ロジックを使って、ユニットの正しい動作を決める。もし1つのTCGからの入力が不良ならば、コントローラはそのユニットをオフラインにし、その入力を無視する。もしその他のTCGも不良ならば、コントローラはすべての送信機への出力をシャットダウンし、警報を送る。
 それぞれのTCGは1PPSの出力を提供し、それは、平日に、WWVBのスクリーンルームのタイムインターバルカウンターを使って、局の基準である1PPSと手動で比較される。
 WWVBの放送フォーマットは、60kHzの標準搬送周波数と2進化10進(BCD)時間コードから成る。

(1)標準搬送周波数と位相のサイン
 60kHzの標準周波数は、WWVBの時間コード発生器で作られ、サイトマスタ時計に引き継がれる。TCGは、局の識別のために、毎時10分~15分の間、搬送波の位相を45°早める。毎時2.1μsの移相差がある。WWVBに特有の時間コードは、局の識別子でもある。

(2) 時間コードと時間コード発生器
 WWVBの時間コードは時間コード発生器から生じている。それは時刻と標準の時間間隔、その他の時間情報を提供する。可聴情報はWWVB放送には全く含まれていない。

 WWVBの時間コードには、世界標準時の分、時間、年間通算日、2桁の現在の年が関係しており、またUT1訂正だけでなく、夏時間の情報とうるう秒のビットもある。標準時間の秒と十秒ごとの秒、分も送られる。WWVBの時間コードはWWV/VH時間コードとたいへん似ているが、重要な違いがある。WWVBの時間コードにおいては、個々のパルスの下降またはマイナスへ向かうエッジがそれぞれの秒の最初を示す。このマイナスに向かうエッジは、時々オンタイムマーカーまたはOTMと呼ばれる。また、両方のコードはBCDコードだが、WWVBのコードには8-4-2-1の重みづけがなされている。最上位の数字が最初に送られる。WWV・WWVHの時間コードと異なり、WWVBの時間コードにはうるう年情報が含まれる。

 WWVBの時間コードを図10に図示する。それぞれの時間コードフレームを送るためには1分を要する。それぞれの分の始まりは、0秒と59秒の2つの隣合わせの800msのポジションマーカーから成るフレーム参照マーカーによって示される。分は1~3ビット目と5~8ビット目に表される。時間は12と13ビットおよび15~18ビット目に送られる。年間通算日の表示には3桁の10進数が使われるので、3桁のBCDが必要である。22と23ビット、25~28ビットおよび30~33ビットである。現在の年のための最後の2桁は、45~48ビットと50~53ビットが放送される。ポジションマーカーは 10秒ごとに送られる( 9秒目の終わりに)。
 UT1訂正情報は2桁のBCDで放送される。36~38ビットまではUTCの訂正が正であるか負であるかを示す。もし1がビット36と38に送られるならば正であり、ビット37が1ならば負である。訂正の量(1秒の1/10)は、40~43ビットに送られる。4ビットが使われるので、−0.9秒~+0.9秒まで、WWVBはUT1訂正範囲を放送することができる。
 56ビット目にうるう秒の警告ビットが示される。もしビット56がオンならば、現在の月の終わりにUTCにうるう秒が追加されることを示す(うるう秒は6月または12月の終わりにだけ挿入される)。ビット56は月の初め頃に設定され、うるう秒が起こった後には直ちに0に更新される。
 うるう年はビット55で示される。もしその年がうるう年であるなら、それは2月29日の前、通常1月中に、1がビット55に送られる。この機能は、その年の最終日が366日であるように、年間通算日カウンターに1日を追加する。翌年の1月1日に、ビット55は0にセットされる。
 WWVBの時間コードのビット57と58には、夏時間(DST)と標準時(ST)が表示される。標準時の間は、両方のビットは0に設定される。DSTへの日切り換えは標準時の00:00 UTCに行われ、ビット57は1に設定される。ビット58は翌日の00:00 UTCに1に設定される。
 標準の時間間隔もWWVBでは放送される。上記に示したフレーム参照マーカーは、1分の始まりを示す。;十秒ごとの秒はポジションマーカーで示される。未分割の秒については、パルスをカウントすることで示される。


図10 WWVBのタイムコード

5.その他
(1)WWVBの住所と電子メール:

   NIST Radio Station WWVB,
   2000 East Country Road 58,
   Fort Collins,CO 80524-9499

   WebPage: https://www.nist.gov/pml/time-and-frequency-division/time-distribution/radio-station-wwvb

   E-mail: nist.radio@boulder.nist.gov

【参考】
『NIST Time and Frequency Radio Stations: WWV,WWVH,and WWVB』G.K.Nelson, M.A.Lombardi, D.T.Okayama,
  NIST Special Publication 250-67, January 2005
「WWVB: A Half Century of Delivering Accurate Frequency and Time by Radio」
   M.A.Lombardi・G.K.Nelson、NIST Journal of Research V119, 2014

【図版】
図1、図2、図3 「WWVB: A Half Century of Delivering Accurate Frequency and Time by Radio」
   M.A.Lombardi・G.K.Nelson、NIST Journal of Research V119, 2014 より
図8 WWVB IMPROVEMENT:New Power from an Old Timer より
その他の図は、『NIST Time and Frequency Radio Stations: WWV,WWVH,and WWVB』より引用

(OG)
 

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